ジュスティーヌは一つ強くなる
ジュスティーヌの成長。
ヴァレリアン帝国は、大陸のちょうど真ん中にある大きな国である。それ故に周りを多くの国に囲まれていて、様々な文化、技術の中継地点でもある。
この世界には魔法のある国とない国、オーバーテクノロジーと言っても過言ではない技術を持つ国と持たない国がある。その両方の技術、文化を取り入れているヴァレリアン帝国が大きく強くなったのは必然と言える。
しかしだからこそ、ヴァレリアン帝国を取り込みたいと虎視眈眈と狙う国も多い。
そのためヴァレリアン帝国は、常に魔法、科学の両方の最新技術を取り込まなければいけない。
そんなことを習ったジュスティーヌは、ますます魔法の練習にも科学の勉強にも力を入れていた。将来の女帝たる自分も頑張らなければ、臣民たちに合わせる顔がないと思ったからだ。
そんなジュスティーヌを、アルベルトはもちろん好意的に見守っている。しかし、余計な口出しをするものはどこにでもいるもので。
ジュスティーヌがそれを聞いてしまったのは、偶然だった。
「皇帝陛下、皇后陛下。そろそろリハビリも終わる頃で、お身体の調子も戻られたでしょう。単刀直入に言いますが、いい加減御子を作ってください」
「私達にはジュスティーヌがおりますが?」
ジュスティーヌが知らない大人が、ユルリッシュとエリザベスに睨まれていた。エリザベスに会いに来たジュスティーヌは、ドアの向こうから聞こえてきた会話に思わず固まって盗み聞きする形になってしまう。弟か妹が出来るかもしれない。ジュスティーヌは期待と、弟や妹にエリザベスを取られたらどうしようというちょっとの不安にそのまま聞き耳を立てた。
「ジュスティーヌ様はエリザベス様の御子ではないでしょう?」
「血は繋がらずとも、ジュスティーヌは私の子です」
「そうですか…だとしても、男児が居ない今のままでは」
「ジュスティーヌを女帝にする。これはもう決めたことだ」
「女帝など…!」
どうにも彼は、時代錯誤な男尊女卑思考らしい。文化の進んでいるヴァレリアン帝国では珍しいと言える。アルベルトは呆れ果てたが、ジュスティーヌが話を聞きたがっているようなので盗み聞きとはいえ邪魔はしない。
「女帝となった者は過去にもいる」
「しかし、その後はより皇室の血の濃い男児を養子に迎えております!」
「忘れたか?ジュスティーヌの婚約者は魔法師団長の息子。バスチアン侯爵家の次男だぞ。あれには先先代の末弟の血が入っている」
そう。先先代の皇帝の末弟が、バスチアン侯爵家の婿養子となっていた。なので、バスチアン侯爵家も皇族の血が濃く入っている。
「おお!ならばシャルル様をジュスティーヌ様の婚約者とし、皇帝になさるのですか?」
「何度言わせる。ジュスティーヌを女帝にする。シャルルは皇配だ。皇族の血は続くんだから良いだろう」
ユルリッシュが男を睨みつける。
「それでは隣国から軽んじられます!」
「そんな程度の認識の国、捻り潰せばいい。今時男尊女卑など、時代錯誤だ」
「女が国のトップになるなど!」
「…我が前妻、シルヴィアは政治に明るい女性だった。我が妻エリザベスは、身を呈して次期女帝たるジュスティーヌを守った度胸がある。女だからと相手を侮ると、痛い目を見るのはどちらだろうな」
その言葉の冷たさに一瞬怯む男。そこに、ジュスティーヌがとうとう飛び込んできた。突然のジュスティーヌの登場に、散々ジュスティーヌを女帝にするなと言っていた男はさすがにバツが悪い。ジュスティーヌに礼をとるが、ジュスティーヌはそれには答えずに言った。
「誰かは知りませんが、先程から言葉が過ぎますよ。私は次期女帝です。傅きなさい」
男はジュスティーヌの前に跪く。ジュスティーヌは無視してユルリッシュとエリザベスの元へ向かい、エリザベスの膝の上に座って言った。
「貴方が誰かは知りませんが、次期女帝に対して敬意も払えない者はこの国に必要ありません。そうでしょう?お父様」
ユルリッシュはジュスティーヌの言葉にくつくつと笑う。
「その通りだな」
「貴方の言動は不敬罪に当たります。アルベルト!捕らえなさい!」
アルベルトが素早く男を捕らえた。
「そんな!私は国のためを思って!」
「真に国のためになる忠言ならば私も耳を傾けて、反省するべきは反省し譲るべきは譲ります。しかし、貴方のそれは時代錯誤も甚だしい。聞くだけ無駄です」
ジュスティーヌの言葉に今度はエリザベスが笑う。
「ふふ、その通りですね。さすがはジュスティーヌです。私の自慢の娘だけありますね」
エリザベスがジュスティーヌの頭を撫でる。その間に哀れな男はアルベルトに連れて行かれた。行き先は…ジュスティーヌはまだ知らない、拷問室である。
実は彼、とある公爵家のご隠居であるがこうなると公爵家の未来は明るくはないだろう。
「いつ不敬罪で取っ捕まえてやろうかと思いながら言いたいだけ言わせてやったが、まさかジュスティーヌから言い出すとは」
「ふふ、皇帝陛下ったら。最初からそれ狙いで言わせていた癖に」
「そうなのですか?」
きょとんとするジュスティーヌと微笑むエリザベスに、ユルリッシュはウィンクを飛ばした。
「ご想像にお任せするよ」
「まあ」
「お父様ったら!」
ジュスティーヌは、ああいう考え方の者もいるのだと一つ賢くなった。そして自分の気持ちだけを考えるのではなく相手の考えをきちんと聞き入れた上で、国のためにならない者だと判断した場合は排除する強さも身につけた。
ジュスティーヌの成長に、アーノルドとアルフレッドはうんうんと頷き合って喜んだ。公爵家のご隠居を拷問室に連れて行くアルベルトも誇らしく思っていた。
なおアルベルトは公爵家のご隠居を拷問室に連れて行く際ノリノリである。




