魔法
ジュスティーヌ、感激する
箱には何も入っていない。
「…なにもないよ?」
「そうだよね?じゃあこの箱の蓋を、ジュジュが閉めてくれる?」
「うん」
ジュスティーヌが箱を閉めると、シャルルが二度ほど箱を振った。
「ジュジュ、箱を開けてみて」
「うん」
すると、箱には美味しそうなフォンダンショコラが入っていた。
「え!?」
「すごいでしょう。食べられるやつだけど、いるかい?」
「すごい!すごいよルル!でもって食べたい!」
「あはは。素直で可愛いね。じゃあ、僕の手を見て。なにもないよね?」
「うん!」
次はなんだと期待するジュスティーヌ。
「手を握って開くと…ほら!」
「わあ!スプーンが出てきた!」
ジュスティーヌの感動した様子に、シャルルはご満悦である。
「あとね、ジュースもあった方がいいだろう?」
「あると嬉しい!」
「それならここを見て。なにもないよね?」
「うん!」
「ハンカチで隠すよ」
ハンカチを広げたシャルル。三秒待ってハンカチを下げると、そこには冷たいりんごジュースがあった。
「りんごジュースだよ。どうぞ」
「ありがとう、ルル!ルルの分は?」
「大丈夫。ちゃんとあるよ」
シャルルが再びハンカチを広げ指パッチンをしハンカチを下げると、ケーキとジュース、スプーンが現れた。
「ルルすごーい!どうやったの?」
「あはは、秘密だよ。神秘は秘匿されてこそのものだ。タネがわかってしまえば面白くはない」
「そっかぁ…」
少し残念に思いつつも、フォンダンショコラに手を伸ばすジュスティーヌ。シャルルはそんなジュスティーヌを見守る。
「…これ美味しい!」
フォンダンショコラを一口食べた途端に叫ぶジュスティーヌ。シャルルはほっとした表情で言った。
「実はそれ僕の趣味で作った手作りのものなんだよね。お口にあって良かったよ」
「ルル、お菓子まで作れるの!?すごい!」
「まあ、我が家のシェフがつきっきりで教えてくれるから出来るんだけどね。一人じゃ無理かな」
「それでもすごいよ!」
「そうかな…まあでも、ジュジュに褒められるのは嬉しいね。ありがとう」
照れた顔も素敵だと、ジュスティーヌはシャルルに見惚れた。シャルルはそれに気付かないらしく、何も気にせずジュスティーヌに言った。
「もしよかったらまた作ってこようか?」
「ぜひお願いします!」
無邪気なジュスティーヌにシャルルは心惹かれるのを感じる。
「ジュスティーヌのためならお安い御用さ。次はザッハトルテなんてどうかな?」
「最高!」
「ジュースもりんごジュースでいい?」
「うん!」
そんな微笑ましいやりとりの中、二人がお互いに良い印象を持ち始めたことに気付いた大人組はひそひそと話す。
「ジュスティーヌはお前のところの息子を気に入ったらしい。よかったな」
「皇帝陛下のおかげです。ありがとうございます」
「娘の幸せのためにより良い皇配を選んだだけだ。お前のためじゃない」
そんなことを言いつつも、貴族の通う学園でいつも連んでいた友人の子供だからこそ安心して任せられたのが本音である。
また、アルベルトとアルフレッドもこっそりと話していた。
「姫様、婚約者と上手くいきそうだな」
「正直ほっとした」
「俺も。このまま仲良く育って波風立たなければいいな」
「そうだな。面倒を起こす者がいないといいが」
そんな大人たちのやりとりはつゆ知らず、ジュスティーヌとシャルルはお互いに少しずつ仲良くなっていった。
シャルルの手品のタネは魔法




