プロローグ
「暑い……」
ギラギラと照り付ける太陽の下、一人の青年が活力のない目をしてゴールポストの前に立っていた。彼の眼前に広がるのはサッカーグラウンドのフェンス越しに休憩している女子達にアピールしようと躍起になってボールを追い回す運動部のクラスメイト達であり、青春を謳歌する様はどこか輝いて見える。
「行け泉!」
「任せろ!!」
「キャー!泉君かっこいいー!!」
味方のパスを綺麗にトラップし、相手のディフェンダーを抜き去った勢いそのままゴールポストぎりぎりのコースでゴールを決めたクラスメイトに、チームメイトたちが集っていく様子を遠く離れた自陣ゴールポストから眺めていると、背後の校舎から聞こえて来たチャイムによって授業が終わった。
「購買行こうぜ!」
「おう!今日こそメロンパンは俺のだぜ」
ガヤガヤと教室に戻っていくクラスメイト達の後ろで、一人空を見上げた彼の肩に一羽の白い烏が上空を二回ほど旋回してから降り立つ。
「正成様、協会ヨリ緊急ノ討伐依頼デス」
「父様はなんて?」
「正成様ニ、オ任セスルト」
「そっか、白烏を使うくらいだし、急いだほうがいいかな」
低くおどろおどろしい声を放つ烏と旧友の仲であるかのように、平然と話す彼の様は異様の一言に尽きたが、周りの誰一人として彼らの会話を聞いている者はなく、まるでそこに誰も存在していないかのように教室への歩みを進めている。
「対象ハ、暫定特級相当ガ三体トノコトデス」
「りょーかい、じゃあサクッと行こうか」
ゆっくりと一つ瞬きをした彼の眼は黒から真紅へと変わり、ジャージを着ていた体がまるで実態のある異様なプレッシャーを放つ漆黒の武者鎧に覆われていく。
「……が一は此処に傀儡呪法、赤装解放」
これは、後に過去最大の繁妖期と語られ、この時新たに設けられた越級の区分に相当する13体の妖魔を単独で撃破した伝説の退魔士「赤装の守護者」の始まりの物語である。