消えたイレーヌ
投稿遅くなりました。
ストックがないため、明日はお休みするかもしれません。
完結までは頑張ります。よろしくお願いします。
「イレーヌ。イレーヌ」
誰かの呼ぶ声がする。
イレーヌは声に導かれ、暗闇を進んだ。
イレーヌの眠る傍らで、柔らかな手を握ったところまでは覚えている。離し難く、いつの間にかハロルドも眠っていたようだった。
窓から差し込む日差しに顔を顰め、変な体勢で眠ったために凝り固まった体を伸ばす。
腕を伸ばし体を横に倒した辺りで、ベッドがもぬけの殻だと気づく。
部屋を見渡しても、人の気配を感じない。
朝の支度をしに行ったのだろうか。
立ち上がり、ガレンを呼ぼうとしたところで、テーブルの置き手紙が目に入った。
『心配しないでください。少しの間、家に帰ります』
顔から血の気が引き、テーブルに片手をつく。手紙の内容には違和感がある。胸騒ぎを覚え、足早に部屋を後にした。
護衛の者に確認すると、イレーヌが城の外に出た形跡はなかった。ケンドリック伯爵邸に早馬を飛ばし、異変を連絡する。
本当にケンドリック伯爵邸に戻っているかもしれない。その際は連絡を願うと書き記す。
騒ぎにすれば、イレーヌの身に危険が及ぶ場合もある。状況がつかめない今、慎重に行動する必要があった。
ガレンと共に城内を探す。
精霊に会いたくなり、庭園に向かったかもしれない。僅かな可能性も、藁をも掴む気持ちで確認しに行く。
手入れの行き届いた庭園はさまざまな花が咲いており、イレーヌが好きそうな場所だ。
「あ、兄上!」
無邪気な声に一瞬、頬を緩めたものの、すぐに冷淡な皇太子の表情に戻す。エフレインの隣には、嫌悪感を露わにした王妃が立っていた。
「エフレイン。行きましょう」
「兄上に挨拶だけ」
可愛い顔でねだられ、王妃も渋々承諾したのか、エフレインだけがハロルドに歩み寄ってきた。
だだ王妃は近づいてこないだけで、鋭い眼差しはハロルドから逸らさない。射抜くような視線が突き刺さる。
「兄上が散歩なんて珍しいですね」
「気分転換に、な」
「婚約、されたのですよね? 変わられたのは、その方の影響ですか? 少し妬けちゃいます」
力なく微笑むエフレインの体の陰に、なにかが落ちた。エフレインの持ち物かなにかと思い、伸ばした手が止まる。
ラナンキュラス。花びらが何層にも重なり、華やかで彩りも鮮やかな花。茎を短く手折り、クルクルと舞わせイレーヌの髪に挿したのと同じ。
落ち着いたブロンドの髪にピンクの花びらが映え、少しだけピンクがかっているイレーヌの瞳にとても似合っていた。
イレーヌが好きそうだと思い、珍しく名前まで覚えた花。
それがどうしてエフレインの体から落ちてきたのか。服かなにかに引っかかっていたように。
「萎れた花がどうかしましたか?」
エフレインの問いかけに、伸ばした手を握り締める。
「いや、なにも」
体を起こし、真っ直ぐに見据えた弟の髪は、陽の光に照らされプラチナブロンドが透けて輝いていた。
考え過ぎだ。いくら落ちたラナンキュラスが萎れていたとしても、眠る前に髪に挿した花がずっと付いたままだとしたら、萎れるどころか枯れているだろう。
たまたまだ。
そう思うのに、エフレインのプラチナブロンドの髪色と、王妃の鋭い眼が頭から離れない。
最悪な事態も想定せざるを得ない。現に胸騒ぎが収まらない。
「ガレン、王妃の周辺も探ってくれ。エフレインもだ」
「はい」
満を持してエフレイン登場です。
もっと前にチラッと出しておけば良かったと、後悔。
いい仕事してくれると期待しています。




