不誠実な記憶
投稿、遅くなりました。楽しみにしてくださっていた方、すみませんでした。スマホ片手に寝落ちしてました。
魔女の歩く後をついて行くと、急に森が深くなり、一軒の家にたどり着いた。
煙突のある燕脂の屋根の周りに木々がかかり、くすんだ白い壁には茶色のドア。イレーヌの想像する、童話に出てくる魔女の家そのものだった。
これで部屋の中に、大鍋があったら完璧ね。
ドアを開け案内された中には、残念ながら大鍋はなかったものの、黒猫がいたおかげで雰囲気たっぷりだ。
大人数の来客は想定していない造り。ガレンが外で待機しても、狭い部屋はぎゅうぎゅう詰めで、ハロルドの高い身長は余計に窮屈そうだ。
壁際には不思議で楽しそうな置物や、ひと目見ただけではわからない一見ガラクタにも見えるなにかが所狭しと飾られている。
「まあ、座りなさいな」
勧められ、こぢんまりとしたテーブルにつく。テーブルの隅には、ティーセットが用意されていて、カップは四つ。
数がぴったりなのに驚く暇もなく、イレーヌは目を丸くする。
ティーセットはひとりでにふわふわと浮かび上がり、朝食の準備をし始めた。ティーポットの蓋は開けられ茶葉が入れられるし、石窯からは焼き立てのクロワッサンが取り皿へ勝手に移動していく。
まるで生きているみたいだ。
「ほら。ぼやっとしてないで。外に待たせている兄さんにも、持っていっておやりよ」
ハッとしてイレーヌが立ち上がろうとすれば、魔女は穏やかに微笑んだ。
「奥に座った者は動かないもんだよ。ここでは、位の高さは関係ないのさ。おっと、ふたりは"きょうだい"だったかい?」
顔を見合わせるとハロルドは肩を竦め、クロワッサンと注がれた紅茶を手にして、ガレンの元へ向かった。
全部お見通しだ。
ハロルドは変装を解いていないし、自分たちがきょうだいだとも説明していない。
ハロルドが歩いて行く後ろ姿を確認してから、魔女はイレーヌに話すというよりも自分が確認するみたいに言う。
「見えて、いないんだねえ。ずいぶんと好かれそうなのにねえ」
「なにが、見えていないんでしょう」
「もちろん精霊だよ。そのために来たんだろう?」
改めて言われると、胸がドキドキする。
ここに精霊がいる。確かにいるんだわ。
「見たいと、思うかい?」
「それは、もちろん!」
身を乗り出し力んで言うイレーヌに、魔女は笑う。
「でもねえ。あの兄さんにとって、忘れていてほしい記憶まで、掘り起こしてしまうかもしれないよ」
イレーヌは自分に忘れている記憶があるとは、思いもよらなかった。
ハロルドにとって、都合の悪い記憶。
初対面の人の意見を鵜呑みにするわけではないけれど、笑い飛ばせない心の引っ掛かりを感じた。
「そうそう。紹介が遅れたね。わたしの名前はベロニカ。こんな風貌だから魔女って呼ばれてるよ」
「あっ、私はイレーヌです。その」
ケンドリック伯爵令嬢です。と、言ってはいけない旅だ。イレーヌが言葉に詰まっていると、「知ってるよ。あの兄さんのかわいい人だね」と、意味深に言って「ふふ」と笑う。
イレーヌは肯定も否定も出来ず、顔を赤くする。
「婆さん、イレーヌにちょっかいを出すな」
隣に再び座るハロルドに、ベロニカは軽やかに反論する。
「いじめてはいないさ。あんたの大事な人になにかしたら、後世まで文句を言われそうだよ」
"あんたの大事な人"には、一切コメントはなく、普通に会話は続く。
「そこまで忘れずにいるしつこい奴は、婆さんくらいだ」
イレーヌは気安い口調のハロルドに、目をぱちぱちと瞬く。
「さあさあ。パンを食べたら、出てっておくれ。わたしも暇じゃないんだ。町を見に行くのが、あんたたちの本来の目的だろう?」
ハロルドにとって、今となってはアレクシス地方の調査の方がついでと言いたかった。
魔女に会わせ、イレーヌの身に起こっている現象の謎を知りたい。そしてイレーヌと精霊の関係性も。
しかし突然、手のひらを返したように追い出され、渋々町へ向かうこととなった。
帰りに寄っておくれ。という魔女になにか考えがあるのだろうと、信じて。
今後も1日1ページペースくらいで投稿を続けたいです。遅れたら、大目に見てやってください。がんばります。




