褒美と人間の底
ジャンル違いだと思いますが『集英社小説大賞2』に応募しています。期限がないとズルズルしそうで。
先日のイレーヌ・フェリシアとの顔合わせは、予期せぬ形で終わった。
今日と同じ庭園での待ち合わせ。現れたハロルドに対し、イレーヌの第一声は『殿下。お茶会よりも、お休みくださいませ』だった。
無礼な令嬢もいたものだと呆れるハロルドを尻目に、ガレンは感心していた。イレーヌが退席すると直ちに、ハロルドを庭園から連れ出した。
「イレーヌ様との顔合わせが急遽なくなりましたので、ご厚意をありがたく頂戴して空いた時間分お休みしていただきます」
一介の令嬢の言葉を真に受けるガレンに面食らう。
「なにを申しているのだ。必要ない」
ため息混じりに告げれば、ガレンは真面目な顔をして答える。
「でしたら急いでイレーヌ様をお呼び直しますので、顔合わせを滞りなく進めてください」
煩わしい提案に顔を顰める。
「あんなもの、体のいい断り文句だろう」
皇太子妃の候補だと言われ、喜び勇んで面会に来る者もいれば、少数だが分不相応だと戸惑う者もいる。
ケンドリック伯爵は大変実力のある人物だが、娘まで出来がいいとは限らない。
「断るための口実だったとしても、我々の総意を提言してくださったイレーヌ様に感謝こそすれ、呆れているのは殿下だけにございます」
今一度改めてイレーヌに会うのも気が進まなかったのは事実だが、ガレンのあまりの賞賛ぶりに渋々自室に向かう。
堅苦しい上着を脱ぎ、柔らかな部屋着に着替え寝台に体を預ける。そういえばこうして自室に帰る自体がいつぶりだろうかと考えた辺りから、意識を手放していた。
目を覚ましたあとは爽快感を覚えつつも、ガレンの出さないようにしているしたり顔を横目にハロルドは居心地の悪さを感じていた。
自身の体調管理も出来ず、面会予定だった令嬢の気遣いに助けられるとは、なんとも情けない限りだ。
「対応の見返りに、なにか褒美を取らせよう」
「それは良いお考えです。すぐに手配致しましょう」
明るい顔で話すガレンに、釘を刺す意味で付け加える。
「褒美は彼女に選ばせればいい。なにを求めるかで人間の底が知れる。こうなると見越していた、したたかな人間かもしれない」
一瞬目を見開いたガレンは、丁重に応える。
「そこまで考える殿下に頭が下がります」
「嫌味は結構だ」
こうして図らずも二度目の顔合わせを迎えたのだが、二度目も大した会話をしないまま、イレーヌの方が逃げ出す事態となった。