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あなたを幽閉する

今日は3話分、投稿します。


「それは……」


 震える唇をギュッと引き結ぶ姿は頼りなく、とても王国に反逆を企てているようには思えない。


 いや、待て。あの忌まわしい幼少期や、そのあとにも。散々、女の嘘や演技を目の当たりにしてきたではないか。


「私は、花に向かって焼き菓子を差し出していたイレーヌを目撃した記憶がある。すっかり忘れてしまっていたが」


 決定的な証拠を突きつけると、イレーヌは目を見開いた。




 子どもの頃、どんなに精霊がおそろしいと描かれたおとぎ話を読んでも、イレーヌは精霊に惹きつけられるばかりだった。


 なにより絵本に出てくる精霊は、どの精霊も目を奪われるほどに美しかった。


 背に生える羽は薄く、クリクリと大きな瞳と尖り気味の耳、ふんわりと軽やかな服を着て、自由に空を舞う。


 お話によって丸いフォルムの精霊もいれば、スマートでクールな精霊もいて。どの精霊も、美しい羽と自由な様がよく伝わってきた。


 お話の中では親しげに主人公の近くを飛び、指先にとまったり、耳元で囁いたり、とにかく楽しそうな精霊。


 だからイレーヌは絵本やお話の主人公がうらやましくて、真似をしてよく遊んだ。お菓子を花や草木の前に掲げ、『ほら。おいしいよ。食べて』と無邪気に話しかけた。


 しかし、子どものかわいらしいひとり遊びは、すぐに父の知るところとなる。


 父に見つかった際の静かな雷は、地響きを起こすくらいに凄まじいものだった。


『淑女たるもの、精霊と関わるんじゃない』


 何度、口酸っぱく言われたか。お説教されるのが嫌で、そのうち隠れて精霊とお話しようと試みた。


 その光景を、どこかで見られたと言うの?


 言い訳は聞き入れられないだろう。父に注意された懸念が今まさに、目の前で起きている。


『精霊と交流を持とうとしただけで、誤解される。ウェンデル王国の反逆者だと思われても、仕方がない行いをしているのだから』




 一向に話し出さないイレーヌに、ハロルドは決定事項のように告げる。


「近いうちにアレクシス地方への遠征がある。イレーヌには私と同行してもらう」


 雫がこぼれ落ちそうな瞳から耐えられずに目を逸らし、付け加えて言う。


「遠征と言っても、身分を隠し視察を兼ねた調査になる予定だ。危険な思いはさせない」


「どうして」


 震える声で問いかけられ、胸がさざめく。


「建前上は、ようやく決まった婚約者との仲を深めるための婚前旅行だ」


「投獄、なさらないんですか?」


 ことの重大さには気が付いているらしいイレーヌに、敢えて意地悪く伝える。


「我々を応援してくれるのであろう? 身分を隠したところで、男ふたり旅ではなにかと怪しまれる。商人の若旦那と許嫁の婚前旅行に、使用人が付き添うのなら自然だ」


「ケンドリック伯爵には私から、伝えておく」そう言い置いて立ち上がり、手を差し出す。


 戸惑っているイレーヌに言葉を重ねる。


「希望通り、あなたを幽閉する」


 差し出した手に、震える手が添えられた。


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