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真心を込めたお礼参りを君に  作者: さんたく
第一章
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嗚呼、不幸

  少年は生きていた。

 世間から見れば歳不相応な程に不幸な人生を。



  少年の不幸を話そう。


 少年の家族は年齢を気にもせず飲食の加減を欲望に任せた体型をしている父親と、おそらく出会った頃とは見た目が変わった夫に愛想をつかしているにも関わらずきっかけがなく別れるに別れることが出来ない母親である。


 これが少年の愛すべき家族である。


 この程度ではただ冷えきった夫婦と同じ家に住んでいるだけではないかと、不幸自慢が好きな人は言うだろう。当然これだけではない。


 少年の父親は自分が褒められる体型では無いのにも関わらず、見た目が少々変わっても妻が自分を嫌いになるわけはない、と考える程愚かでありそれは彼の仕事にも現れている。


 彼は自動車を販売する仕事をしているが成績は高くもなく低くもない程度だった。このまま死ぬまで普通の生活をしてくれれば少年が不幸だと言われることは無かっただろう。


 ある日、日頃の行いの悪い父親に奇跡が起こってしまったのだ。


 なぜか、今までと変わらない接客をしていたのに、なぜが沢山売れてしまった。しかも、なぜかその豪運がしばらく続いた。


 当然のように父親は調子に乗った。話をすれば売れるのだ。誰だって調子に乗るだろう。たが愚かな父親は態度も変わってしまった。


 これも当然のように天の気まぐれに見放されると、接客とは言えないような傲慢な態度をしていた父親から車を買う人間はいなくなった。父親の接客を見ていた同僚達からすれば運が良かった事など分かっており、同僚にも大きな態度を取っていた父親は同僚たちからも嫌われた。


 なぜ車が売れなくなったのか分かっていない父親は怒り、最も身近な存在である家族に対しても態度が変わってしまった。少年からすればつい最近まで「俺のおかげで車が売れるのだ」と10歳にも満たない自分に毎晩遅く帰ってきては寝ている自分を起こして自慢してきたのにも関わらず、ある日から急に「車が売れないのはお前たちといるからだ」と、意味不明な理屈で暴言を吐くようになったのだ。


 父親の態度が変わってから少年の日常が変わった。


  まず、いつも家にいた母親がよく外出するようになった。はじめ、買い物かと思ってついて行こうとする少年に「あなたが一緒だと彼にバレちゃうでしょ」と自分と一緒にいると不都合だと言う母親に心を痛めた。


  幼い少年には母親の言っている意図がよく分からないようだったが彼が少し歳を重ねれば母親の言っている意図がわかり、さらに悲しむだろう。


  次に両親が怒鳴りあっているのをよく見聞きするようになった。


  バレたのだ。何がとは言わないが。なぜバレたのも分からないが。


  そして、ある日母親は家を出たきり帰って来なくなった。母親は帰る家が変わったのだと酒を飲んだ父親は言った。


  それからすべての家事をしていた母親が居なくなった家庭にはお手伝い程度にしか家事を出来ない自分と全く家事をしない父親しかいなかった。

 

  常識がある者がこの話を聞けば元凶である父親が家事をすべきだ、子供を働かせるなと言うであろう。

 

  悲しいかな、少年の世界にいる絶対的な力を持つ大人は父親だった。


  父親に仕事に行っている間に家事をすませておけ、と言われれば少年は従うしかない。もしも、嫌がれば暴力が少年を襲うのだから。


  最初は上手く出来なかった。当然だ、家事が完璧にこなせるようになるには回数が必要だ。


  初めは洗濯を覚えた。母親がしていたように洗濯機の前に立ち、母親と同じ様な工程でボタンを押した。

 

  が、そんなに上手くいくほど電化製品は優しくない。であればどうしたか、簡単だ、数をこなしたのだ。


  漢字はある程度読める為できるようになるまでにそう時間はかからなかった。


  同じようにして、少年は家事を覚えた。


  満足に家事ができるようになった頃には少年は10回目の誕生日を迎えていた。


 誕生日くらい昔の父親に戻ってくれとは言わないがせめてお祝いくらいしてくれるだろうと思っていた少年の予測であり希望は外れた。


  帰ってきたら祝ってもらえるのではと淡い期待でいつもなら次の日に備えて寝ているであろう時間まで起きて父親の帰りを待った。


  帰宅した父親は泥酔しており、とてもお祝いムードではなかった。それに加えて機嫌が悪いようだった。何があったかは知らないが父親が泥酔して帰ってくる日は大抵何か嫌なことがあった日だ。


 淡い期待を捨て、いつものように父親の世話をしようとした少年にあろうことか父親は「酒も飲んだことの無いガキが何様のつもりで介抱なとしている」と少年を殴り飛ばした。


  いつもなら、1度殴ると気が収まる父親だったが最悪な事に今日は違った。自分の半分程の身長しかない自分の息子に対して馬乗りになって暴言を浴びせながら殴り続けたのだ。抵抗などできるはずもない。少年は成熟していない子供で父親は贅肉が付いている成熟した大人なのだから。


  この日、少年は不幸にもこの世界からいなくなってしまった。



  これが、少年の不幸な話だ。



  だが、不幸と言うべきか、幸運と言うべきか、この話は舞台を変えてまだ続いていく。



  これは単なる序章である。

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