出会いと別れは一瞬
「うーむ」
目の前のウサギの仮面とにらめっこ中。
自分のキャラの能力的に有効的なアイテムなんだろうけど。
これどうやって使うん?
仮面憑依。
能力的にどう考えてもこれようのアイテムなんだが。
最後ら辺雑になったチュートリアル妖精のワンダによればこれは
『あらゆる仮面を自身の顔にすることができ、仮面によって一部能力が変更されます」
とのこと。
うーん、被ればいいのか?
手に取って自分の顔に着けて見る。
仮面に仮面を着ける。
うん、何か間違ってる気がする。
カツン
仮面同士がぶつかる音だけ響いた。
うん。
馬鹿みたいですよ俺。
誰にも見られてない状態で助かったよ。
もう少し説明してってくれワンダさん。
またジッとにらめっこする時間が始まる。
とりあえず問題を先送りして始まりの町ローグとやらに行くべきだろうが。
これみよがしに光っている地面があるし。
あそこに立てば恐らく転送されるんだろう。
だけど、なんだかこのウサギの仮面。
見れば見るほど
美味そうだな。
ハッと我にかえるとウサギの仮面が手元から消えていた。
待て待て。
今、俺は何をした?
仮面を見て美味そう?
もしかして食った?
おいおい記憶がないぞ。
なんだこれマジで怖い。
オート機能みたいなやつか?
混乱していると目の前の鏡がまた変化していた。
名前:仮面マトイ
種族:???
HP:1/1、1/1
異能:逃げ足、血涙、仮面収集、仮面憑依
ステータスがおかしい?
1/1が2個ある?
他にも気になるところがあるけど。
「やっぱ顔怖っ」
新しい仮面の顔がウサギになっていた。
そして結局血涙を流していた。
これはこれで怖い。
もしかして今後全部の仮面で血涙流れるの?
すげー嫌だ。
そしてジャグリングが消えて逃げ足に変わっている。
まぁ、ジャグリングは役に立ちそうにないからいいんだが。
逃げ足は使えそうじゃない?
そういえばヘルプ機能使えばわかるんだっけか?
さっそく逃げ足の情報を調べてみる。
逃げ足:撤退するときに足が少し早くなる
うん。
なんか情けないけどこれはいざというときにかなり役に立ちそうだ。
転んだら死ぬ俺にとって生命線になるかもしれん。
さすがチュートリアル特典。
だけどいくら調べても1/1が2個ある理由が出てこなかった。
うーむ。わからん。
ま、攻略法とかそういうのが嫌いでいろんなゲームを探してたんだし。
後で試せば分かる話か。
そういや仮面の顔戻せるんだろうか?
あ、でもあんま変わんないや。
どっちにしても怖いし。
この血涙っていう異能は外せる日が来るんだろうか?
いろいろ思うところはあるが何はともあれやっとゲームの本格的な始まりだ。
光っている地面の上に立つ。
光が広がっていく。
眩しくて目を閉じ、仮面だから閉じれないや。
ドライアイとか大丈夫だろうか?
光が収まると人通りが賑わっている町!等ではなく。
建物はあるけど人がまったくいない。
ゴーストタウン?
木で出来た一戸建ての建物?家?らしきものがいくつか。
だけど全然人がいない。
これは、うん。
この不気味な姿が引かれない方法を考えていたがそれ以前の問題ですね。
その辺の建物のドアをノックしてみる。
反応なし。
えっと、どうすればいいんだろうか。
しょうがないので町を散策してみる。
一つだけ大き目な建物がある。
しかも良く昔の西洋映画で出てくる両開きの扉だ。
中に入れそう。
何か情報が落ちてないものかと思って扉を開けると。
けたたましい音が耳に響いた。
「うるさっ!」
何の音だこれ?
俺が音のせいで頭を唸らせていると奥のほうから声が聞こえる。
「ば、化け物」
あ、第一村人発見。
普通相場では美少女と決まっているのだが。
おっさんだった。
本来の俺と同じぐらいの年齢だろうか?
うん、ゲームにすぐ美少女を求めるのは現代社会の闇だな。
反省しよう。
中年であることは悪ではない。
悪ではないぞ若者よ。
とりあえず話を聞こうと近づいてみると小さな悲鳴をおっさんがあげる。
細長い鉄砲らしきものをこっちに向けている。
さっきの音は銃声だったのか。
生で聞くのは初めてで驚いてしまったよ、ははは。
あれ?
もしかして俺に向かって撃ったの?
「なんで撃たれたのに、生きてやがる!」
「え?俺撃たれたの?」
出会いがしらに撃つとはなんて物騒なおっさんなんだろう。
中年仲間でもやっていいことと悪いことがあるだろう。
あれ?
HP1しかない陶器のように大事にしてくれないと死んでしまうはずなのに生きてる。
弾が外れたのかな?
「というより、まて待ってくれ。話をしよう。俺は無害、無害だよ」
「しゃ、喋った!」
そっからかい。
どうやら俺の姿は予想通り化け物サイドらしい。
とりあえずこういうときは刺激しないようにニッコリ笑顔で。
仮面だから関係ねぇや。
表情って大事だったんだね。
「とりあえずこちらに敵意はないから撃たないでくれ」
「お、お前もしかして『ブギー』か?」
お、ワンダさんが言ってた単語が出てきた。
「そう、それそれ、俺優しいブギー。人類のなかーま」
こちらが必死で敵意がないことをアピールするとしぶしぶといった感じで銃を降ろしてくれた。
ふー。
ファーストコンタクトが大変すぎる。
「その、すまない。ブギーに会うのは初めてなもんで。仮面も弁償するよ」
「いいってことよって仮面?」
「ああ、俺が撃ったせいで割れたんだろう?」
「割れたってあれ?」
おっさんの指さしている方向、俺の足元を見てみると何か粉々になったものが。
よくよくみてみるとウサギの仮面であった。
つぶらな瞳の部分が砕けずに残っていたようでこちらを見返してくる。
「う、ウサギの仮面がー!」
俺のチュートリアル特典がゲーム開始数分でお亡くなりになりました。




