断れない誘い文句
目の前には大きな大きなビルがございましたとさ。
毎回思うことだけど自分が通勤する会社が縦長だと面倒くさくない?
エレベーターとか。
その辺偉い人は分かっとらんのですよ。
そんな風に愚痴っている俺は今ヒプノティックコーポレーション、通称ヒプノの本社前でウロウロしている。
違うんだって。
メールでゲームの初期プレイ?テストプレイ?良くわからんけどの当選通知を受けた俺はノリで承諾の返信をし、ノリで指定された時間に会社に出向いたのである。
この先将来が見え切っている仕事にも嫌気が差したので溜まっている有給を使って出向いたのである。
部長が急に休むのは非常識とか言ってたけど、「だったらいつ休んでいいんですか?」と聞いたら黙ってくれた。
アットブラックな職場に涙が出てくるよ。
んで興味本位で来たものの。
でかいよ。ビル。
それしか感想でませんよ、ええ。
お金こんだけかけれるなら恵まれないすべての俺に寄付するべきだと思う。
さっさと入れって?
一般人がこういうところ入るのめっちゃ緊張するやん?
圧迫面接と一緒やん?
むしろ帰れ?帰れって言われてるじゃん。
っていうかこれでメールがやっぱり詐欺で受付の人に
「え?あの、アポイントが無いとお通し出来ないんですが?」
とか言われた日にはもう表社会で生きてけないですよ。
ただ待ち合わせ時間が迫っている。
早めにはついたけどウロウロしている間に迫ってきてしまった。
仕方がないので覚悟を決め、これまた無駄に大きい会社の入り口?エントランスだっけ?に入り。
社会で身に着けた秘儀、申し訳なさそうな顔と中腰を受付の人に披露しながら訪ねる。
「あのー、2時にえっと谷崎さん?と予定が入っている石田と言うものですが」
「はい、石田様ですね、お待ちしておりました、こちらで少々お待ちください」
なんとかファーストコミュニケーションを乗り切ったぜ。
適当な座る場所を見つけ油汗ダラダラで待つ。
そんな汗でねーよと思ってる若者諸君、キミもおじさんになれば分かるさ。
待っている間暇なのでいろいろ勝手な妄想をしてみる。
持論だが受付で可愛い子に碌な奴はいない。
喋りかけてくれたこの子はめちゃくちゃ可愛い。
だからこの子も碌なやつではない。
きっと付き合うなら年収1000万稼いでから出直せって平気で言うんだ。
こっそりと敬意をもって地雷ことマインさんと心の中で呼ぶことに決めた。
あ、めっちゃ見てたらこっちを見て笑顔で会釈してきた。
マインさん呼びがバレたのだろうか?
やっぱり碌なやつじゃない。
だが怖いからマイン呼びは辞めよう。
「すみません、お待たせしました」
マイン(仮)を酷い女に仕立てあげる遊びをしていたら待ち人が迎えに来てくれました。
谷崎さん。
俺をここに呼び出した張本人。
そしてどう見ても俺より若く、背が高く、私服だ。
こっちは使い古されたザ・サラリーマンのスーツ、ちょっと中年太り気味。
・・・
なんだこの人として負けてる感じは。
「ではさっそく中へどうぞ」
と言いながらエレベーターで43階を押し、って43かよ。
火事起きたら死ぬやん。
そして43階に俺は流されるままについていった。
エレベーターの扉が開くとそれは別世界でした。
なんというかね、全部違う。
空気が澄んでる、澱んでない。
目に隈が出来て、必死に電話越しに謝っている社員もいない。
皆笑顔で仕事をしている。
やばい、異次元過ぎて目に涙が。
「あの、石田さんどうかされましたか?」
「いや、ちょっと目に優しさが染みて」
と不思議がられつつ、良くテレビでしか見たことないでかいモニターがついてる会議室に案内された。
「早速ですが、石田さん。お呼びして申し訳ないんですが、社外秘となりますのでこちらでの話はすべて他言無用でお願いします」
となんだか物騒なことを言われた。
長い話だったのでハイハイと分かったふりをして理解したのが。
新しいゲーム開発するでよ。
テストプレイしてみたくないでみそ?
給料でまっせ旦那。
バラしたら海に沈められる。
ということが俺の脳ができるだけ簡潔にまとめた理解したようなしなかったような内容だ。
とりあえず笑顔で「喜んでやらせて頂きます」と即座に返答。
給料の額を聞いたら普通に会社で働いてる額よりでかい。
一生ここでテストプレイヤーとして雇って欲しい。
なんか他にもアバターは自由に選べないだの、
性格に起因して姿が決まるだの。
場合によってはNPCが敵になる可能性がとかなんとか言ってた気もするが対して重要なことではないと判断した。
何せ。
「テストプレイ期間中はVRMMO、新しく感覚も何もかもが繋がるシステムを起用していますので体調管理を含め、こちらで寝泊まり、食事も三食私共のほうから提供させて頂きます。もちらんその他もろもろ必要なものがございましたらこちらで提供させていただく…」
「喜んでやらせて頂きます」
久しく人間らしい生活をしてこなかった俺にノーという選択肢など無かったよ。
喜んでテストでもなんでもさせて頂きます。
そして最後に谷崎さんが言った一言、
「初めてゲームをプレイしたときのあの感動を再現したいんです」
がなんとも。
おっさんゲーマーの心は鷲掴みにされていた。
ゲームが始まらない。
まぁ次回からですね