ドロップアイテムは強制的に手に入れるもの
剣を真正面から向けられる。
その迫力から来る緊張感が尋常じゃない。
この体だと汗なんて出るのか分からんけど。
本来の自分だったらドバドバ脂汗が滲み出ているに違いない。
ゲームなのに普通に怖い。
VRは伊達じゃないってことか。
さっきの死体の山もそうだけどこれは青少年達の心臓に悪くないですかね?
だってこんなにも三十代のオジサンの健康にも悪いんだもの。
ジリジリ滲み寄ってくる鎧骸骨さん。
どう考えてもボス仕様ですね。
今までの骸骨は適当に頭をポキっと出来たけどそんなことしようものなら速攻で俺が斬られるのがなんとなく分かる。
武器いいなー。
俺は腕だけですよ。
仮面から一本生やせるようにはなったけど言うこときかないし。
ただ、救いがあるとすれば。
剣が俺の横を通り過ぎる。
躊躇が無い。
けど振りかざしてきた剣がなんとか避けれてる。
他の骸骨を分身体と言ってただけあってスペック自体はあんま変わらないっぽい?
まぁ避けれるといってもギリギリだけど。
ちくしょう、もっと真面目にボクシングの練習しとくんだった。
縦斬り、横斬り、袈裟斬り。
ブンブンぶん振り回してくる鎧骸骨さん。
こっちも必死になって横に飛び、地面を転がり、でんぐり返しと避ける俺。
滑稽な動きをしてるだろうなとは思う。
でも必死だとそんな紙一重で避ける、なんてこと出来るわけもない。
何が一番嫌かって戦ってる場所が血だまりの中なんだよね。
元々仮面部分はしょうがないけど、避ける度に血だらけになっていく。
血液の中を転げ回る異常者ですね、これ。
そんな転げまわる俺の姿を見ても一切躊躇せずにこちらへ距離を近づけて剣をブンブン振り回す鎧骸骨さん。
今はまだ避けれてるけどちょっと判断ミスをしたら斬られ、って今頭上をビュンって!
ビュンって言った!
これ、避け続けるの無理だわ。
昔剣道で1位だったとか、何かしらの武道的な10段だったとかいう過去が俺も欲しい。
今すぐ欲しい。
それに避け続れたとしても相手が骸骨。
スタミナ切れとかそういう概念無いでしょ。
そしてそれを証明するかのように立て続けに振りかざされる剣。
これは一か八か武器を破壊、か奪うしかない。
鎧を着てるとはいえ、恐らく他の骸骨達とスペックはそう違わないはず。
だから剣さえどうにか出来れば勝機があるかもしれない。
そして考えついてるやり方はある。
でもやりたくない。
このやり方だと十中八九この骸骨の仮面が割れる。
セコいよ。
あーセコいさ。
でも初めて自分の手で手に入れたゲームの戦利品だよ。
ウサギの仮面は勝手に入ってきたからまだあれだったけど。
全然恨んでないよ。うん。
でもこれぐらいしか方法が浮かんでこない。
あーやりたくない。
ただこのままだと埒があ明かない。
意を決して相手に低い体勢を取りつつ全力ダッシュで近づく。
向こうもこちらの突進に気づき、剣を振り下ろす。
思った通り、《《剣を振り下ろして》》くれた。
『な』
初めて鎧骸骨が動揺したように見えた。
俺が自分から剣に当たりに行ったからだろう。
そして剣が俺の顔に当たる瞬間、骨手を使う。
仮面が割れる音と剣が弾き飛ばされる音が同時に聞こえる。
上手くいった。
骨手が最初に飛び出てくる勢いを利用してなんとか相手の剣を弾けないかと考えていた。
至近距離で不意打ち気味に使わないと目が見えなくなるこっちがただ不利になるだけだったし。
かなりの賭けだったけど。
衝撃で仮面が壊れるのは想定済みだったけどやっぱし壊れたか。
実際のところ骨手で出てくる手が剣の速さに対応出来るか分からなかった。
よしんば出来たとしても仮面が先に壊れたらただやられにいった間抜けになってしまう。
今更だけど、これテストプレイしてるからマイン(仮)とか谷崎さんとか見てる可能性を忘れていた。
本当上手くいって良かった。
恥をさらさずに済んだ。
もうすでにいろいろ手遅れとかではないと願う。
相手が剣を弾き飛ばされて体制を崩している今しかない。
俺は勢いよく相手を両手で突き飛ばした。
倒す必要は無い。
相手が転倒してる隙に弾かれた剣を取りに行く。
うわ、血でベトベト。
血だまりに落ちてたものをなんとか拾い、起き上がろうとしていた鎧骸骨の首に突きつけた。
「まだやります?」
うん。
一度でいいからこれやってみたかったんだよね。
相手が起き上がる前に剣をって。
まるで達人が相手を倒した構図が素晴らしいじゃないか。
実際のところかなり悪戦苦闘したけれども。
『負けか。勇気があるのか、臆病なのか、分からないな異端者よ』
さっきの俺の行動を言っているらしい。
冷静に分析しようとしないで恥ずかしいから。
自分でもカッコいい勝ち方したとは思ってないよちくしょう。
『この先の道を進むと村人が捕らわれている場所にでる』
観念してくれたのか貴重な情報を寄こしてくれた。
そして、そう言った後に骸骨さんは自分から向けられた剣に頭を刺しに行った。
というより骨だから頭が砕けた。
「な、なんで」
『仮面にされるのは御免蒙る』
あ、そうか、やべー消える前に仮面剥さないと!
『異端者よ。夢を壊すものよ。そなたに呪いあれ』
なんとも不吉なことを言い残し骸骨さんは砂になって消えていった。
骸骨の仮面が割れたから補充出来るか試したかったのに。
結局手に入ったのは相手が残したこの剣だけだった。




