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「何してるの?」


 翌日、食堂でぼんやりとアニメ制作をお願いしようと声をかける人を探していると後ろから綿菓子を含んだよう声が聞こえた。


「ノア、先輩」

「びびった?」


 どこか甘味のあるようなその声は丁寧な口調で話せばおどき話の王子様のようだ。パーマをあてているのか天然なのかふわりとした髪をミルクティー色に染めていた。


「また染めました?」

「この色にしたくて何度も染めてたんだよ」


 ガタリと前の席に座ったノア先輩は、で? と言葉を投げかけた。


「何してんの? ひとりなんて、なんかあった? いつもふわふわ女子といるのに」


 珍しいなと呟きながら、にこりと笑った彼の名前は、天野ノア。

 コケットーでのハンドルネームは方舟さん。映像科選考でその美しい映像と編集能力は飛び抜けている。孤高の天才と呼ばれており、映像に関しての妥協のなさからか他者と映像を撮ったことはない。そんな先輩とは随分前からの付き合いだ。主にコケットーでしか話してはいないためか、久しぶりに聞いた声にそういえばこんな声だったなとぼんやり思い出す。


「ふわふわ女子って」

「ふわふわだろ? パーマの。まぁそれはどうでもいいんだけど、前、言ってのどうなった?」


 さて、なんと切り出そうと悩んでいるときにノア先輩がそう言った。


「まえ?」

「ほらコケットーで」


 そういったノア先輩の言葉それっと思わず声が出た。


「それ?」

「そう! そのことでわたしノア先輩に話したいことがあったんです!」

「なんか想像つくけど一応聞くな? 何?」


 宮村のときと同じ反応で苦笑してしまう。


「ノア先輩! 一緒にしてくれませんか」

「えー。やだ」


 すてきな笑顔を浮かべるノア先輩にぴしりと固まる。


「ボランティアじゃないからな」

「ギャラがあれば……」

「それが全てじゃないけどな」


 そういうノア先輩をじっと見る。少しだけ困ったように笑っては勘違いするなよ、と言葉を出した。


「別にめんどくさいとか、アキラちゃんが嫌とかじゃないから」


 ただ、なぁ。と困ったような声で続けられた言葉に耳を傾ける。


「方舟としても天野ノアとしても。できないし、だめだろ」

「だめ?」

「周りもうるさいから」


 その言葉にあぁ、と頷いてしまいたくなる。きっとノア先輩のところにはいっぱい話がきているのだろう。一個一個を対応していればキリがないのだと悟る。


「あと、一応アマチュアだけど。あれで賞もらったりとかしてるからさ。只働きはしたくねぇの」


 悪いなと続けた言葉に思わず唇を噛む。


「でもノア先輩しか思い浮かばなくて……! どうしたら、いいって言ってくれます?」

「じゃあ」


 ノア先輩はにっこり笑った。


「ほかじゃないメリットを教えてよ」


 その言葉にクルクルと頭の中を回転させたけどいいのが思い浮かばない。


「えっと」

「えっと?」

「じゃあ」

「じゃあ?」


 復唱されるたびに思い浮かぶことが消えていく。


「かわいい後輩と思い出が作れる?」

「は? かわいい後輩ってどこ?」


わざとらしくキョロキョロされて余計に悩む。


「多分、すごく素敵な絵があります」

「それってプロ?」

「プロ、じゃないけど」

「じゃあアマチュア?」

「そういうわけでもなくて」

「じゃあダメだな」


考えれば考えるだけメリットもアピールできるなにかもないということに気がついてつらくなる。


「じゃあ! 買います!」

「は?」

「わたしがノア先輩を買います!」

「買う?」


 クックッと面白いものを見たようにノア先輩は笑った。


「えっと表現悪かったな……。ギャラ! そう、ギャラ、払います」


 そういうとノア先輩は面白いものを見るように目を細めた。


「やっぱりアキラちゃん面白いわ」


 そういうとぐしゃりと頭を撫でる。


「ギャラ、期待してるなー」


 その声が弾んでいるように聞こえたのは多分気のせいじゃないと思う。




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