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「で」

「ん?」

「他のメンバーの目星は?」

「ハハハ」


 宮村を説得して数日、学祭のためにと文芸部の部室に来た宮村に今まで書いていた作品をいくつか出していたら宮村がノートをパラパラと開きながら言う。ギシリと椅子がなる。ついて着たサヨは暇なのかスマートフォンをポチポチといじっている。サヨが後をついてくるのはいつものことなので今更気にはしない。


「言っとくけど俺は絵しかしねぇからな」

「わかってるよ!」

「目星くらいはついてるんだろうな?」

「ひとり、今日お願いする予定」

「へぇ」

「え、サヨの知ってる人?」


 興味なさげな宮村とは正反対にサヨがぴくりと顔をあげた。


「ん、多分知らない人かな?」

「えぇー」

「えぇーって何?」

「アキの周りの人でサヨの知らない人がいたかなって」


 交友関係の狭いわたしとはちがい交友関係の広いサヨはサラリと不思議そうに言う。ざわりと心が動いてしまったが気にしても仕方ないと諦めをつけて、いるよ、と軽く返事をした。納得していなさそうなサヨはねぇねぇ、誰々? と聞いてくる。


「なぁ」

「なに?」

「アニメ制作の話だけどさ」


 宮村が強制的に話を引き戻してくれたことに少しの感謝をしながらなに? と聞く。


「どんな話にしたい?」

「サヨはねぇ」


 わたしよりも先にサヨが口を開く。


「なぁ俺、波多野に聞いてんだけど。なんで波多野じゃなくてあんたが答えんの」

「え、だって」

「っていうか誰」

「アキの親友のサヨだよ! アキはきっとサヨにも聞いてくれると思うんだけど」


 サヨがなにか悪いことある? とこてりと首を傾げた。なんというのが正解なのか言葉を探していると宮村がはぁと溜息をついた。


「波多野」

「なに?」

「また今度な」

「え、帰っちゃうの?」


 サヨの言葉に反応を返す気がないのか、宮村は一度サヨをみてからわたしをチラリと見た。言葉にされなくても分かっていた。その視線はどこかわたしを責めているものだった。


「え、ほんとに帰ったの」


 キョトンとした表情のサヨは隠す気なくぽろぽろと言葉をこぼした。


「信じられないね、あの人ほんとに帰ったよ! いいの? ああいう人で」


 少し口を尖らせてサヨは言う。サヨが人の悪口を言い出す時いつだって、同意を求めていた。だよね? そう思うよね? その言葉に頷いてしまえば何かわたしの心なのかわからなくなってしまいそうだった。


「ねーサヨ」

「何?」

「宮村は」

「えー、あんな人別によくない? だってすごい勝手だよ? 絵書ける人なんてほかにいるって! なんならサヨがかこっか?」


 へらりとなんてことないように言う。わたしにはあわないから、それだけでどれだけの人を切り捨ててきたのかと聞きたくなってまじまじとサヨを見た。


「なぁに? あ、アキもそう思う? サヨ手伝うね」

「違う」

「え?」

「宮村は、あんな人じゃないし。絵は宮村に描いてもらう」

「え、えー? なんでー?」

「わたしが、そうしてほしいからなの」

「サヨ描くよ?」

「ごめんね、宮村がいいの」


 そういうと不機嫌そうに顔を歪めた。


「ねぇ、手伝おうとしてくれてありがとう。大丈夫だから」

「なんで?」

「え?」

「なんで大丈夫なの? サヨ、アキの親友だよ?」


 手伝うよ? その言葉になんと説明したらいいのかがわからなくなってしまって思わず掌を目に当てる。


「ちがう、違うの」

「なにが違うの?」

「全部だよ」


 混乱して、いいたいことがどれなのかなんて明確に出てこない。思考回路はぐちゃぐちゃで、何を表現してもうまくいかないだろうと思えた。深く息を吸い込んでは自分で自分に、冷静に、と言い聞かせる。


「宮村はいい人だよ。宮村の描く絵が好きなの。そこをサヨに、他の誰でも変えるつもりはないよ。サヨが心配してくれているのは、わかるけど、それをサヨに言われてどうこうするつもりはないよ」

「サヨ、アキのこと親友って思っていたのに?」

「それは、そう、だとわたしも思ってるけど」

「じゃあなんで親友のいうことひとつ聞いてくれないの?」


 叫ぶようにかすれたその言葉にストンと心の中のもやもやがおちたような気がした。


「そう、そうなの」


 なにが? というサヨの言葉に答える言葉はきまっていたの。


「サヨとは違う」


 は? 珍しくサヨが口調を崩した。


「サヨにとっての親友がいうこときいてくれるものなら、わたしはサヨの親友じゃなくていい。わたしにとっての親友とサヨにとっての親友は違うね」


 サヨは決まり悪そうに目をそらした。


「サヨも……」

「ありがとう、でもいいから」


 帰ろ?

 そういうとサヨと静かに歩き出した。

 なにも言葉の出ない気まずい道だった。

 もともと交友関係の狭かったわたしはサヨと気まずくなってしまえば一気に話す人が減ってしまった。そういえば何だかんだと学食も移動も一緒にいたんだなと思い出す。人懐っこいサヨと気まずくなっているのがなんだか不思議な気がした。


「サヨちゃんと喧嘩したって聞いたけど」


 めずらしく話しかけた人はそう言ってははやく仲直りすするんだよと言いにきた。ちょっと離れたところからちらりちらりとこちらを伺うサヨにわたしはなにも言えなくて背を向けた。





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