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「宮村」
「うぉ」
なんだよ、といいながらノートをぱたんと閉じている。
「やっぱり、絵描いてるじゃん」
「見えたのか」
「見えた」
「で?」
「え?」
宮村の表情は曇ったまま低い声が聞こえる。
「俺が絵を描いているから、なに?」
「えっと」
「それがお前になんか関係ある?」
そういう宮村にないけど、としか言葉にならない。
「ないけど、ないけど」
でも! というその声がいやに響いて周囲の視線を集めてしまっていた。
「はずかしいやつだな」
そう言いながらこっちと、空いているほうに進んでくれる宮村の背中を見て、高校の時に、世話好きすぎて同級生の男子におかんと揶揄われていたな、と思い出す。
「さすが、おかん」
「おい」
「ごめん、冗談」
「まぁいいや。で?」
宮村の発言にゴクリと唾液を飲み込んだ。
多分、これが最後のチャンスだと思った。
「あのね。わたしはやっぱり宮村に協力して欲しい」
そう言うと納得していないような表情を浮かべた。
「正直な事を言うと、宮村がなんで絵を辞めたのか知らない。知らないしわたしは宮村から聞くまでそれを知らなかった」
そう言うとだろうなと小さく言いながら息をはいた宮村の姿を視界に入れる。おそらく、話を聞いてくれるだろう姿勢をしてくれている宮村に感謝の気持ちを感じながら畳み掛けるように言葉を紡いだ。
「わたし、小さい頃、小説家になってそれがアニメになるのが夢だった。で、宮村の書いた絵を見た。朝の校舎だったよね。あれを見たのが最初」
宮村はそれを聞いて思い出すようにしばらく黙った。そしてゆっくりと口を開いた。
「あれは、なんの賞にも出してない、俺から言えばボツな」
「それでも! それでも、わたしはその作品に心が動いたの。あの作品を書いたのが同級生だって、知って。こんなに綺麗に絵って書けるんだと思ったし、すごい同級生がいるとも思った。なんで宮村が絵を辞めたのかとか知らない。知らないけど、やっぱりわたしは宮村に書いて欲しい。絶対宮村がいい!」
そう言い切って宮村を見るとほのかに赤くなった顔と鋭い目をこちらに向けていた。
「波多野、お前、なんであんなの覚えてるんだよ。他のことは覚えてねぇのに」
「ほかのこと?」
「なんでもねぇ」
「綺麗な絵だったから」
「俺は絵はもう」
「宮村、描くの好きなのに。本当に辞められるの? だっていつの間にか描いちゃうくらい好きでしょ?」
「さっきの」
「ごめん、見えちゃった」
さっき宮村がぼんやりと書いていたのは講義質の風景で、恐らく暇があって紙とペンがあればぼんやりとしながら描くのだと思う。
そう言うと宮村はあーとかうーとかしばらく頭を掻きながら唸っていた。そしてキッとこちらを見ると、波多野と名前を呼んだ。
「な、何」
「お前のその学祭の話、乗ってやる」
「え! 本当!」
「ただし」
宮村の言葉に喜ぶと宮村は釘を刺すように言った。
「アニメにするならその他にも必要な人材がいるよな? 編集、声、絵の関係は俺がするからいいとして。他のメンバーを波多野が集める事。俺は単位ちょっとやばいのあるから学業に専念する」
「うん、分かった!」
「それから」
「え、うん」
まだあるのかと宮村を見ると読ませろ、という。
「読ませろ? 何を?」
「お前の書いた話だよ。アニメにしなくてもいい。とりあえずここ1年に書いたやつ、読ませろ」
「え、なんで」
雰囲気を掴むため、かなという宮村に、用意しておくねと伝えると任せたと言葉が聞こえた。