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「アニメになりそうなの、アニメになりそうなの、どこ、どーこーなーのー」
「下手くそ、なんだその曲」
「学祭がんばるぞーって曲」
宮村は呆れたような口調で部室に入ってきた。
「で?」
部室の綺麗な方のパイプ椅子にドカリと座った宮村は試すように目を細めて聞いてくる。ギシリとパイプ椅子が鳴る。
「ねぇ、それ古いんだからさ、気をつけて座ってよ」
「耐久性の問題じゃね?」
「そっかなぁ」
「それより、学祭だよ、学祭」
「うん! そうそう!」
手にとった何冊かのノートをパラパラとひろげながら宮村に近付く。
「あのさ、手伝って!」
「さっきのうたで大体はわかったけど一応聞くな? 何すんの?」
「アニメ! 作ろうと思って!」
「お前、文芸部だよな?」
「そうだよ?」
何言ってるの? と言うと考えなし、と言わんばかりに呆れたようなため息が聞こえる。
「アニメ研究会とかと被るんじゃねぇ?」
「え、そうかな?」
「確認しろよ、じゃあな」
立ち上がる宮村を押し止める。
「待って! お願いまだしてない!」
「予測がついた、答えはノーだ」
「ねぇ、まってよ! 宮村絵上手じゃん」
「絵を描くのを辞めたからこの大学にいるんだよ」
「辞めたの!? なんで!」
「もう描かねぇよ」
付き合い長いのになにも知らないのな。
宮村はそういうと出ていく。宮村のいたところにはコロンと飴がころがっていた。
宮村の描いた絵を見た時、魔法のようだと思っていたのを覚えている。どうしても宮村に描いてほしい、もうわたしのイメージの中の絵は宮村の描いたものだった。
「なに、落ち込んでるの?」
「サヨ」
「うまく行ってない?」
数日しても宮村に絵のことを言えずにいたときにサヨが顔を覗き込んだ。
「学祭どうするか決めた?」
「計画中だよ」
「てつだえることあったら教えてね」
「え、いいの?」
「うん。あたしがアキに伝えちゃったから。もし知らなければ悩まなかったかなと思って」
しゅんとしたサヨにちがうよ、と言う。
「知らなければ確かになにもしなかったかもだけど。知らないまま、廃部ってなったほうがわたしは嫌だったから。だから、ありがとう」
サヨはそっか、とへにゃりと笑った。
サヨの背後に宮村がいた。窓の外の景色をノートに描いていた。
「あ」
「ん?どうしたの?」
「ごめん、サヨ! 用事できた!」
「えー?」
サヨの返事もそこそこにわたしは宮村に近づいた。