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 サヨから紹介された西野先輩はシルバーの眼鏡がよく似合う深い声をした人だった。執行部の人と忙しく会話をしていたからと思えばサヨの姿をみて笑みを浮かべては優しい声を出した。聞き取りやすいいい声だ。

サヨが軽く説明をした後に西野先輩はわたしをみた。見定めるようにじっとりと見た後にため息に押し出されるように言葉を発する。



「それで、なんだっけ? 文芸部の存続?」

「はい!」

「却下」

「なんでですか!」

「理由はいくつでもあるけどどれが聞きたい?」


 にこりと笑ったままの言葉に頬が引きつる。


「ぜんぶ、教えてください……」

「文芸部の部員数は?」

「15人です!」

「え、そんなにいたの!?」


 よかったねぇ、と横にいるサヨが笑う。


「うち、幽霊部員数は?」


 う、と言葉に詰まる。眼力のあるその先輩に負けてなるものかと目を合わせるが、すぐにそらしてしまう。


「じゅ」

「じゅ?」

「じゅうよん……」

「えぇ、アキ以外みんなじゃん……」


 サヨの落胆した声にそう、そうなんだよと深く頷いた。


「文芸部の活動実績は?」

「えっと」

「学祭での活動は?」

「ん、と」

「正直なところをいうと、文芸部が好きならやればいいと思う。ただし、愛好会でもなんでもいいから他所でやってくれ。そしてあの部室を他の部室にさせてほしい」


 そう言う西野先輩に、反論したのはサヨだった。


「アキだってがんばってるのに! もう少しどうにかならないの?」

「それを言ってもな、実績もなにもない部活に部費を出すほど優しくはないんだよ。それに執行部で話はもう纏まっている」

「じゃあ、実績作るよ! 今度の学祭で! ね? アキ?」


 サヨの言葉にコクコクと頷くだけだった。


「わかった。とりあえずこの話は学祭での実績があれば、検討しよう」


 ため息をつきつつ、そう言った西野先輩は、それでいいな? とサヨに伺う。サヨはちらりとわたしを見てアキ、とか細い声を出した。


「ごめん、余計なことしたかも」

「そんなことない、ありがとう。がんばるね」







 サヨと西野先輩に頑張ると言った手前、頑張りたいところだけどどうしたらいいのかがわからない。うーん、とどうしようか悩んでいると背後に気配を感じた。


「邪魔」

「え、わ、ごめん!」


 振り返ったさきにいた男にため息をついた。なめらかプリンととろけるプリンという名称の異なるちいさなプリンを取った宮村はスタスタとレジに向かう。


「あ、ねぇ、宮村」

「なに悩んでんのか知らねぇけどあそこに立たれたら購買意欲が減るだろ」

「それはごめん! でも2つも買ってるじゃん」

「こっちはなめらかととろけると極上を買う予定だったんだよ」

「え? そうなの?」

「極上プリンは売り切れだし」


 重た目の前髪、鋭い目つき、高い身長。一言で言えば迫力のある男だった。無類のプリン好きで、バイトの給与日には購買のプリンを買っては外のベンチで食べている。昔から同じ学校同じクラス大学では学部こそ違うものの共通科目が一緒になることが多く腐れ縁との言葉がよく似合う。


「宮村、そんな態度だと年下の彼女さんに振られるよぉー?」

「もう振られた」

「え! うそ、いつ?」

「えっと、3日前かな」

「えぇ! なんで!」

「見た目とのギャップがって言われたよ」

「えぇ。宮村のギャップっていい方向にしか行かないと思ってたよ」

「それ、前の彼女のときも言ってたよな」


 強面な宮村はプリンが好きだし、下に兄弟がいた影響で料理もこなせる。裁縫は得意じゃないといいながら雑巾くらいは縫えるだろう。お菓子作りは分量さえ測れば美味しいものが出来そうだ。読書やゲームも好きで見た目に反してインドアな趣味を持っている。それに確か教師から美大に勧められるほどの美術センスもある。

 なんとなく隣を歩きながら閃いたことがあってにまにまと笑ってしまった。


「なに、企んでるんだよ、お前」

「えー、なんでもないよぉ」


 いつも宮村が座るベンチに座ってプリンをあけてスプーンで掬ったのを見計らって口を開いた。


「宮村、あのさ」

「ん?」


 プリンを集中して食べたいだろうか、と言わんばかりの視線を無視してお願い! と頭をさげた。


「学祭、文芸部、手伝だって!」

「はぁ?」


 宮村に否定をされる前に言い募る。


「文芸部廃部危機なの! 手伝ってくれないかな!」

「いやだ」

「なんで!」

「お前なぁ、学祭でなにするんだよ」

「えっと、ほら、んーと」


 はははと言葉を濁すとほらなと呆れた声が聞こえた。


「何するのか決めてねぇのに人に手伝えっていうのは違わねぇか?」

「じゃあじゃあ、相談乗ってよ! 何したらいいかな?」

「自分で考えろ、自分の大切なところなんだろ。それを人に投げるのは違うだろ」


 宮村は呆れたように言うといつの間にかカラになったプリンの容器を持つとふぅと息を吐いて立ち上がった。


「あまえんな」


 ボソリと言った言葉が胸に刺さる。宮村、と声をかけるもそれが聞こえているのか聞こえていないのか、宮村はスタスタスタと歩いて去っていった。



「何をするか」


 こぼした言葉は風に乗って遠くに飛んでいった。



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