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「人を増やそうと思います」


 3人で話を決めて絵を書いて編集をしてとしてしばらくが経った。わたしは前から目星をつけていた人に声をかける前にふたりにそう宣言をした。


 効果音、音楽を取り入れたいと考えたときに過ぎったのは前していたバイト先の常連の町田あかりちゃんこと、マッチーだった。聞いたことのない鼻歌をよく歌っていたマッチーのその曲は今でも耳の奥に残っている。

 1年生のマッチーは基礎科目ばかりでおそらく毎日大学にきているだろうとあたりをつけていた。

 1年生の講義の表をみて、必須科目をみつける。


「人を増やすの?どうやって?」


 にたにたと楽しそうにいうノア先輩にスカウトです、と告げる。


「スカウト?」

「イメージソングとか、ほしくないですか?」

「いや、それより声優探せよ」


 宮村のツッコミはごもっともだけどもそれをしてくれそうな人が浮かばない。今わたしたちが頭を悩ませているのは声優だった。理想は西野先輩の声だが、頼めるほど親しくない。


「西野先輩してくれないかなぁ」

「多分ダメだろ」


 宮村の言葉にそうだよねぇと口にする。


「西野先輩は忙しいだろうからちゃんと他の候補考えているんだよな?」


 確認と言わんばかりに言われてうっと言葉に詰まる。


「そこは」

「そこは?」

「どうにかなるよ!」


 強く言えばはぁとため息をつかれる。それに返事をする前に講義室から出て来たマッチーがあれ? と言葉を発した。


「アキ先輩?」


 平均よりも随分低い身長、ショートカットの髪に細身な見た目をしているマッチーは不思議そうな顔をして近づいてくる。ぺたぺたとサンダルが鳴る。


「マッチー」


 このあと講義や用事がないことを確認してマッチーを文芸部の部室に案内をした。そこで現状とお願いをしようと口を開く。


「ねぇ、よければさ」

「ん?」

「マッチーにも手伝ってほしい、音楽作って欲しいんだけど」

「絶対イヤ! イヤです!」


 断言してマッチーは立ち上がると言う。


「なんでわたしが作んなきゃいけないんですか? わたしもう作っても人前に上げないって決めてるんですよ! たとえ周りの誰がわたしを評価しても。わたしはもう、天才って言われるの、飽きたんですよ」


 マッチーはぽつりと言葉を漏らした。


「贅沢な悩みだな」


 ノア先輩が馬鹿にしたように笑う。


「贅沢でもなんでも。この判断を誰になんて言われようがどうでもいい。わたしが作ったやつだからって対して見てもいないのにネームバリューで評価されても嬉しくもなんともないし。わたしのことなんも知らないひとたちが勝手に明るいとか美人とか実は男とかそんなことを好き勝手に言うのも気分悪いんです。わたしっていう表現をしたくてはじめたのに枠に固められて息苦しい場所になっていった。天才なんて、言葉、嫌い」


 うつむいたマッチーは荒々しく言うとだから、と口にした。


「わたしアキ先輩のこと嫌いじゃないですけど、こういう話はもう持ってこないでください! 大体なんでわたしなんですか!」

「マッチーの鼻歌、好きだったからだよ」

「は、はなうた……」

「そ! 鼻歌」

「覚えてないですよ! そんなの」

「耳に残ったんだよね」


 そういうとそれ、忘れてくださいと苛つきながら口にした。


「むーりー」

「え! ひどい」

「ね、マッチー。マッチーが忘れてって思っても覚えてるし、マッチーが嫌だと思ってもマッチーの作った作品に心が動いた人は居るんだよ。マッチーが嫌っても、それに救われた人も多分いる」


 そういうとマッチーはアキ先輩には絶対にわからないと口にした。


「好きなものを好きなようにしておんなじ趣味で楽しくしたかったのに。天才って言われて周りから誰もいなくなった。たとえ誰かがわたしの作った何かで感じていたとしてもわたしは好きなものも酸素を奪われた。天才なんて言葉で片付けるところに、音楽を作っていてもどこにも出す気はないです」


 なにも言えないでいるとノア先輩が無理だろ、とサラリと言う。


「一時的に例えば音楽をどこにも出さなかったとして。それは一時的なものでしかないだろ。絶対無理だろ、一度賞賛を浴びたら。一度表現する楽しみを知ったら。一度、自分がそれを好きだと思ったら、例えなにを言われても辞めるなんて、無理」

「そんなの」

「どうせアカウント変えてもう一回するの繰り返しだよ」

「なんでそんなこと言われないといけないの!」


 マッチーとノア先輩が言い争う中、宮村がはぁと溜息をこぼした。


「なんかさ、ふたりとも難しく考えすぎじゃね? 好きなら好きでいいじゃん」


 なにが悪いのかわかんねぇなぁ。

 今までの話を聞いていたのかと疑うほどにあっさりと言う。


「そんな簡単な」

「簡単だよ」


 宮村はそう断言した。


「物事はいつだって簡単だしシンプルだ。それを複雑にしてるのはきっと自分自身なんだよ」


 まるで自分に言い聞かせるような宮村の言葉は胸に刺る。






「今日はどうせもう遅いから帰るか」


 そう言い出した宮村の腕をぐっと掴んだ。


「お!?」


 びっくりした、と言う前に被すように言葉を発した。


「ね、飲みにいかない」


 なんとなく、今宮村を誘うべきだと思った。


「それ、わたしも行っていいですか」


 マッチーがそういうとノア先輩も仕方ねぇなと言う。


「せっかくだからこの4人で行くか」





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