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紅牙抜け忍 −ガリュウ−  作者: 伺見間士
第1章 冒険者組合
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第1-3話 "不死身"ザーゲ

「ここが冒険者組合本部か。でっけーな」


 王都城下町の中心に陣取る、やたら細長い柱で構成された石造りの建物。

 てっぺんが尖っていて尚更高く見える。

 近くにある神殿と比べても遜色ない立派さで、この街においてかなりの勢力を有しているのが伺える。

 一階部分は門番もなく、誰でも出入りできる様子だ。


 もっともここは人間族至上主義の国。獣人や亜人種なんて一人も歩いてねぇ。

 俺も普通の冒険者見習いとして堂々と潜入できれば中の様子が探れるんだが、幻術と変装で誤魔化せるかどうかが問題だな。

 なんせ狼と虎が混ざったような魔獣から進化したと言われている紅牙族の顔は、人間と違って鼻が尖っている。

 そのせいでただの変装じゃすぐに見破られるから、紅牙族が人間の街に溶け込む際には幻術で見た目を誤魔化していた。市場の一般人相手ならそれで問題ないが、冒険者組合ともなると見破られる恐れがあった。

 隠匿の術で気配を消して入る分には問題ないだろうが……。


 雑踏に紛れて冒険者組合本部を観察していた俺は、ふと違和感を覚えた。

 どこかから見られているような感覚。視線を感じるという程はっきりしたもんじゃないが、ネットリとした嫌な感覚が、目の前の建物から向けられているような気がする。


 今入っていくのは……ちとまずいか。

 こういう時の勘は信じといたほうがいい。

 違和感の正体までわからなくても、なにかあるんだろう。


 俺はそのまま人の流れに乗って、鍛冶屋街の方へ移動した。



◆◇◆



「この気配……まさか……な」


 冒険者組合本部三階、その最奥部に位置する組合長室。

 組合長ザーゲはかつて死闘を繰り広げた存在に似た気配を感じ、戸惑っていた。

 隣で報告書を読み上げていた秘書は、ザーゲが無意識に漏らした殺気を受け、青い顔をして縮こまっていた。


「……報告を続けろ」


「は……はっ」


 呆けていた秘書に続きを促す。

 しかし、ザーゲの頭の中には拭いきれない不安が渦巻いていた。


(たしかにあれは異我族、いや『ヴ・リコ=ラカス(神殺し)』の気配に似ていた。だがしかし、ヤツは俺がこの手で滅ぼしたはず……。まさか、復活したとでも言うのか……?)


「近頃また"脱兎"の目撃情報が増えていることから、ここアマルティアに戻ってきているものと思われます。奴と協力関係にあるとされるスラムの地下組織については、引き続き調査中です。最後に、マッドベアの討伐任務についていた"野太刀"から、任務完了の報告が届いております。彼はそのままクラスペダ周辺の調査を行うとのことです」


 思案にふけっていたザーゲは、秘書の報告にふと引っかかるものを感じた。


 クラスペダ。

 ここ首都アマルティアより西南に位置する、アンスロポス王国の国境山脈麓に栄える鉱業と林業の街だ。かの山脈の遥か向こうには、()()()の残党が集落を築いているという噂があった。


 だが、山脈の向こうは人間の生きれる環境ではない。

 凶悪な魔獣が跋扈(ばっこ)し、かつて神の元で共に戦ったドラゴン族や魔族の末裔達が覇権を争う修羅の地だ。

 幾度か調査に向かわせた精鋭達も誰一人として帰ってこなかった。


 なにより下手に刺激すれば、奴らが居場所を求めてここアンスロポス王国へと攻め込んでくる恐れもあった。



「シーバスよ。紅牙族を知っているな?」


「は……? それは、神殺しの?」


 シーバスと呼ばれた秘書は、片手でメガネを持ち上げながら気難しい顔で記憶をたどる。

 ザーゲに視線で先を促され、シーバスは冒険者組合の資料から得た知識と教会で聞いた説教の記憶からその部分を思い出す。


「かつてこの世界を作り、このアルカ大陸に初めての統一国家『エッセ・ウーナ』を作り上げ、様々な種族を統治していたという神。その神を喰らい、力と知恵を得て大陸最凶の獣人となったのが紅牙族だと言われています。千年の歴史を誇ったエッセ・ウーナの滅亡を招き、世界に混沌をもたらした諸悪の根源だと。たしか組合の資料によればいまだ生き残り共が影で暗躍し、我々人類を破滅に導こうとしているとか」


「……ならば、その紅牙族の生き残りが今どこに潜伏しているか、知っているか?」


「なにを……。それがわかれば苦労はありません。我々冒険者組合だけでなく、王国中の組織が捜索しても痕跡さえ掴めないのですから。本当に生き残っているのかも一部では疑問視されています」


 ザーゲは深くため息をつくと、椅子の背に深くもたれかかり目を閉じた。


 かつて神に選ばれし七人の勇者の一員として、多大な犠牲を払い滅ぼした異我族。

 だが、その存在を知る者はもういない。


(神を殺したのは異我族だ。そしてその異我族は()()が確かに滅ぼした。だが俺が蘇った時には既に、その汚名は紅牙族というそれまで存在しなかった種族に被せられていた。紅牙族とは何者なのか……。先程の気配は、ヤツに似ていたが……)


 闇の世界で暗躍する紅牙族の存在はザーゲも把握していた。

 しかし、この国で先程のような気配を感じたことはなかった。


(嫌な予感がする……。()()が、動き出している。神に与えられしこの不死の体が震えるのは、怒りか。それとも恐怖か……)



 かつて滅ぼした強敵の気配を漂わせる謎の存在。

 滅んだ異我族に代わり神殺しの汚名を被った紅牙族の生き残り。

 二つの点がザーゲの頭の中で繋がり、恐ろしい想像を生み出す。


 ザーゲは思わず両手を握りしめ、今は亡き神へ祈りを捧げた。

 けれど窓から見上げた空は鈍色に曇り、神の気配は感じられなかった。


「……グランツとヴァイデを呼べ。B級以上で索敵・捜索に向いた者を招集しろ。俺は少し出かける」


お読みいただきありがとうございます。

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