第1-1話 人間族ってのは、金さえ渡しときゃ尻尾ふって媚びへつらうんじゃなかったのか?
序章から2~3か月ぶりですが、1章スタートです!
「久しぶりだなー、相変わらずでけぇ街だわ。2年ぶりってとこか」
里を飛び出した時は、手始めに国境近くの街から調べる予定だったが……ブライアンとイーグルに出会って気が変わった。
あれほどの猛者が世界中を飛び回って集めた情報。
それが集まる場所。
人間族の国の首都。街の名前は忘れたが、俺はここにある冒険者組合本部に忍び込むことにした。
街に入る時も隠匿の術で馬車に乗り込んでたが、門番には気づかれなかった。
王家直轄地の兵士でアレなんだ。
冒険者組合本部もおそらく問題なく忍び込める。
だが、気にかかるのはイーグルが持っていた千里眼とかいう技だ。
イーグルの奴はまぁまぁ戦闘向きの鍛え方をしていた。
だが、偵察や索敵に特化した奴があの手の技術を習得していたら、俺の術が見破られない保証は無い。
まずは、乗り込む前に情報収集だ。
今この街に、やばい冒険者が来ていないか。
そしてなにより……
「メシだ!!」
庶民街の市場は情報の宝庫であると同時に、メシの調達においても最重要!
俺は旅のお供たる干し肉をかじりながら、さっそく潜入捜査を始めた。
手始めに、このうまそうな肉を吊り下げてる店からだ!
「おい、なんだこの肉は」
「へいらっしゃい! ……ん? お客さん、変わった格好だな。なんだその……怪しい黒装束は……。まさか脱走奴隷じゃあるめぇな」
「北の方から来た。日差しが辛い。それより、なんだこの肉は」
「お、おう……。こりゃ普通のオーク肉だがよ」
「これがオークか! 一度食べてみたかったんだ! 旅用の干し肉でこの袋いっぱいくれ!」
「……オークなんか別に珍しいこともないだろ? まぁ、買ってくれるってんならいいけどよ。金は持ってんだろうな?」
「ククク……心配すんな。これで足りるだろ?」
どうも俺の変装が怪しまれている。
だが、こいつらはその日の売上が命だ。
結局金を出しちまえば、俺は立派なお客さんてわけだ。
以前仕入れた情報によると、市場でどんだけ頑張っても、一日せいぜい銅貨300枚から500枚程度のはず。
そこに、こいつを出す。
「お、おま……っ!! しまえ! 早くしまえ!! なに考えてんだ、こんなとこで金貨出すやつがあるか!! 路地裏でぶっ殺されるぞ!!」
「あん? なんか期待してた反応じゃねぇな。金貨って、銅貨100枚分だろ? そんな慌てるほどか?」
「馬鹿か?! てめぇどこのボンボンだよ……。いいか、金は持ってそうだから特別に教えてやるがなぁ、銅貨10枚分が大銅貨、そんで大銅貨10枚で銀貨だ。そんでその銀貨100枚分が金貨だ! ちなみにその干し肉のでかいのが1枚5銅貨、こっちの刻んだやつなら1枚1銅貨だ……。どんだけやばいもん出したか、わかるか?」
……つまり肉で数えると、金貨1枚あればこっちの刻んだ干し肉が10000枚買えるってわけか。
この革袋なら10枚は入るから、これ1000袋分は買えるって感じか……
「なに?! そんなに持てんぞ?!」
「あ、いや、そもそもうちにそんなに干し肉ねぇから」
あぶねぇ。銅貨の価値は知っていたが、そっから上はちょっと間違って覚えていた。
それに、こんな上手に加工した干し肉が1銅貨? あまりに安すぎる。
この国はよっぽど肉が余ってんのか?
いや、食い物の価値がその程度ってことか。
俺達少数民族とは違って、食い物を調達する専門のやつらもいるんだ。
焦って買わなくても困らない程度には、備蓄も充分あるんだろうな。
しかし、金をちょっと多めに渡して情報を買う予定が狂ったな。
このオーク肉をいくらで仕入れてんのか知らねぇが、干し肉に加工して1枚1銅貨じゃ10枚売ったところでろくな儲けにならねぇはずだ。
こんなんじゃ、機嫌よく喋らせるには足りねぇな。
「ほい、じゃあこれ1袋で10銅貨な」
「……いや、違うな」
「違わねぇよ。1枚1銅貨だから10枚で10銅貨だ。てめぇが計算できねーからってまけてやらねーぞ」
「……お前は俺に、金の種類と価値を教えてくれた。これはその情報料だ。とっておけ」
俺はそう言って、干し肉の代金とは別にさらに10枚銅貨を渡してやった!
「……ま、くれるってんなら貰っとくがよ。てめぇ、なんかムカつくな」
「なに?!」
俺の期待していた反応と、全く違う冷たい視線が返ってきた。
「そうやって金を恵んでやれば誰でも機嫌よくなると思ってんのか? こちとら10銅貨の儲け出すのにも必死に働いてんのによ、そこへ簡単に金渡されて、ありがとうございますってなるか? 苛つくだろ? 金に困ってねぇ奴に上から恵まれてよ、てめぇはいい気分かもしれねぇがな」
「なにぃ? 文句があるなら返せ!」
「それとこれとは別だ。これはもう俺のもんだ。貰えるもんは貰っとく」
「ずりぃぞ! 貰うんなら文句言うな!!」
「ハッ。金でなんでも上手くいくと思ってるボンボンに言われる筋合いはねぇ。これは授業料だ。わざわざ教えてやったんだからな」
なんだとぉ……?
このクソボケカスが。
人間族ってのは、金さえ渡しときゃ尻尾ふって媚びへつらうんじゃなかったのか?
前に忍び込んだ貴族の書斎にはそんな資料もあったが……
「おう、その干し肉もってさっさと失せな。金持ちのくそったれが」
「ぐぎぎぎぎぎ」
くそ……出だしから失敗した。
そういや、殺すか盗むかばっかりで、こうやって人間族とまともに話すのなんざ全然やったことがねぇ。
なんだよ。
戦うよりよっぽど難しいじゃねぇか。
俺、こんな世界で生きていけるのか……?
妙にくたびれて市場から離れようとした俺に、走り寄ってくる人間がいた。
お読みいただきありがとうございました。
金の価値は単純に
銅貨=100円
大銅貨=1,000円
銀貨=10,000円
金貨=1,000,000円
くらいのつもりで書いてます。
でも計算が面倒なので詳しいツッコミは無し!