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死神を討伐したタカは3人がオフィサーを急襲した地点に戻ろうとその方向に足を向ける。丁度その時その方角から多数の光の玉が飛んできてタカの体に吸収される。彼は何が起こったのかわからず困惑する。少し考え一つの可能性に思い当たるとおもむろに、「出るか?“改造ジェットパック”」と手のひらをかざしつぶやく。何も現れないのを確認すると次に“アンダーグラウンド セキュリティ”、最後に“プログラム フェイカー”を取り出そうとするが何も現れなかった。この結果がさらに彼を困惑させる。彼は仲間が徴収官に殺され、自分たちのしていた“誰かが死んだら、そいつのカードは生き残った者のカードになる”という賭けがアーティファクトの効果によって成立していたと考えたのだ。次に彼は“改造ネズミ捕り”や“K-メイカー”といったシュンのほかのカードをいくつか取り出そうとする。結果、シュンのカードの何枚かが現れてしまう。タカはシュンが殺され、現れなかったカードはケンかジョージに持っていかれたのだろうとあたりをつけ、「シュン。誰かをかばったんだろうな。いや、調子に乗りすぎただけか?ともあれ、お疲れさん。」とつぶやくと広場に向かって走り出す。しかし間もなく、先ほどより多くの光の玉がタカの方向へ飛んできてそのまま体に入り込む。
「は?何が起こっていやがる!ケンか?」。タカが走りながらそうつぶやきカードを確認すると彼の予想通りケンのカードの何枚かを取り出すことに成功する。ケンはいつも冷静な男だが、シュンとの付き合いはだれよりも長かった。シュンが殺されて頭に血が上った隙をつかれて殺されたんだろうか、とタカは一番ありえそうな予想をするがそれでも彼の知るケンならそんなへまはしない。彼は嫌な予感を抱きつつも、流石にジョージは逃げ切るだろう、何があったか聞かなきゃな、と考えながら速度を上げる。しばらく走りようやく広場が見えてきたところでさらに、その方角から彼の体をめがけて光の玉が飛んでくる。「冗談よせよ!」と走り、叫びながら彼はカードを確認すると“プログラム フェイカー”、“改造ジェットパック”、そして“アンダーグラウンド セキュリティ”以外の3人のカードはすべて彼の手のひらから現れる。
広場に到着したタカがそこで大勢の人間が死んでいることを確認する。多くの物の死体は暴力や、外傷で死んでいる。そこにいたはずのオフィサーたちは消えていて立ち上がれるものはここには彼一人しかいない。彼がしばらくあたりを捜索すると、痛めつけられ死んだ者たちの中に真新しい傷はないシュン、ケン、そしてジョージの死体を発見する。彼は彼らをそのままにしておき広場の真ん中に移動すると、ひどく寂しそうな顔をしながら、タバコに火をつける。今回はチャッカマンOOOだけではなく、無意味にドクター トランスファーも具現化している。仲間を殺したやつがもしこれを見たなら絶対に狙いに来るだろうという目論見からだ。タカは肺に含んだ煙を一気に吐き出すと、新鮮な空気を吸い、大声で叫ぶ。
「ジョージ!シュン!ケン!やったぞ!俺たちは、死神を倒したんだ!」
それにこたえるものはだれもいない。いや、1人の男が彼に小走りで近寄ってきて彼に言う。
「何があったか、知りたいか?」
男達はかつてもちもち姉さんことナオミを襲撃した男であった。タカはその言葉にうなずくと彼から詳しい話を聞く。
「まず、俺は子分と一緒に徴収官につかまって、そこで縛られていたんだ。」と彼は話し始める。「そんな時、シュンと、ケンさん。あと顔は初めて見たから確かではないけど、多分ジョージが徴収官どもを襲いだしたんだ。」
「計画通りだな。」とタカは相槌を打ち目撃者は続ける。
「3人とも、強かったよ。死神も一人で逃げていった。だが俺はとても3人がこのまま徴収官を倒しきれるとは思えなかったんだ。ある程度痛手を与えたら3人も逃げるだろうと。だから透明になって、この子分と俺だけでも助かろうと思って、透明になって逃げだしたんだ。」
「意味ねぇじゃねぇか。そっから先が知りたいんだ。」とタカが口をはさむが意に介さずさらに「あいつらを安全なところに逃がしたところで、欲が出てな。徴収官から何か盗んでやろうと思ってまたこっそり近づいて行ったんだ。」と彼は続ける。タカも思わず笑みをみせて「やるじゃねぇか。」という。かつての襲撃犯は真剣な顔になり、「ここからだ。」とおびえるように話し出す。
「突然。あの辺の空間が歪んだんだ。そしてそこからおっかない機械と、一段と偉そうなオフィサーが出てきた。多分、うわさに聞く“トップオフィサー”ってやつだ。奴は「なんとか先生に会いに来たら、面白そうなことになってるじゃん。」とか言ってやがった。俺はちっとも面白くなかったね。トップオフィサーはともかく、おっかない機械は透明になっていた俺に気が付かないわけがないんだから。」彼は冷や汗を流して続ける。
「最初はシュンが突っかかっていったよ。シュンにトップオフィサーがお互いの切り札と、命を賭けたゲームの提案をしているところまでは聞いた。あとは逃げたから見てねぇ。しばらく隠れて音がやんだ頃に様子を見に戻ったら、また空間が歪んで今度はオフィサーどもがそれに吸い込まれて消えていったんだ。」と言ったところで話は終わる。
彼の話を聞いたタカは考え込むように黙る。目の前の彼が嘘を言う意味もないし3人がそれぞれ同じ賭けをしていれば切り札だけ呼び出せない理由も説明がつく。彼の言うことを信じることにしたタカは一つ決心し瞳に炎が宿る。見るだけで焼き尽くされそうな気持ちになる瞳と目が合った事件の目撃者がタカの思考時間が生んだ静寂を破る。
「行くんだろ?3人のカードを取り返しに、壁の中に。」
「ああ。当然だろ。」とタカは返す。
「なら、こいつの力を役立ててくれ。」と目撃者は1枚のカードを差し出す。そのカードは“九星財閥の暗殺者”。透明になることができる、彼のフェイバリットカードである。
「どういうつもりだ?」とタカは聞く。
「ケンさんには恩がある。」と目撃者。さらに「おかげさまで、もう、死神はいない。ここで透明になってコソコソ隠れるよりも、俺のカードは、俺の魂は、壁の中ででっかい仕事をやってるほうがふさわしいのさ。」と加える。
目撃者はタカの炎の宿った瞳に負けないぐらいの熱量を持った瞳で彼の瞳を見つめ返す。タカが「ありがとう、お前の魂、確かに受け取った。」とはっきりというと、彼は去り際に「そいつは“九星財閥の暗殺者”!目に見えるものだけを信じる愚か者に刃を突き立てる者さ!この“タクロー”様の魂さ!忘れるなよ!」と残しその場を後にする。