表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/24

17

タカはその晩をナオミの家で過ごし翌日、彼女から教えられた建物に来ていた。8階建ての鉄筋コンクリートの建物である。洗脳の機械は地下にあると聞いていたタカは九星財閥の暗殺者を背負いながら下に向かって続く階段を下りていくと大きなホールにたどり着く。薄暗い空間の中、統一性のない服装をした老若男女の大衆が壇上の人間の演説を聞いている。

「、、、で、あるからして!人間は全員愚かである!教祖様の!ありがたい機械によってのみ我々は解放されるのである!よりよい世界を作るためにできる限り多くの人間を教祖様の機械のもとへ導くのが我々の使命である!」。タカがそこへたどり着いたとき、壇上の男はそうしゃべっていた。タカは大勢の人間が一人の話を聞くという状況を生まれて初めて見たのでそれを物珍しく聞く。最初に喋っていた男が壇上から降りると今度は別の男が縛られた、見るからに弱っている少女を連れて壇上に上がる。

「諸君!」壇上に上がった男が口を開く。「この女は!もっとも愚かな人間の一人であった今池一等徴収官の娘である!先日!慈悲により教祖様の機械に導いてやったにもかかわらず愚かであることから解放されなかった、劣等種である!今日はこれを用いて劣等種の取り扱いを諸君に教示する!」とさらに続ける。すると壇上の男はカードを一枚具現化する。あらわるのはまがまがしい椅子。少女をそれに座らせると、彼女はただでさえ苦しそうだった表情をさらに歪ませ悲鳴を上げる。しかしその悲鳴はすぐにやむ。代わりに壇上向けられ放たれた銃の発砲音に、男が悲鳴を上げる。

「調子はどうだい?豚ども。相変わらず良い趣味してるな。」姿を現したタカが機械兵を傍に控えさせそう言う。椅子の拷問機械は彼の機械兵の能力により機能停止していたのだ。

「貴様、その見た目。ドクタートランスファーを持っているという例の壁外生物だな。ああ、誤解しないでほしい。」とタカがそこにたどり着いたときに壇上にいた男が話始め、続ける。「我々は壁外生物を差別しない。重要なのは、教祖様の機械により愚かさから解放されるか、されないかである。今の攻撃は許してやろう、そして教祖様のもとに導いてやろう。感謝するといい。」と彼は提案するがタカは「興味ねぇな。」と一蹴する。男はタカがそう言うことも想定していた、といった風に「ならば壇上に上がれ!ゲームをしようではないか!」と返す。タカがニヤリと笑い壇上に上がるとゲームが始まる。

「お兄さん、逃げて。私はどうせもうすぐ、死ぬから、、」。ゲームが始まると弱った小さな命が一生懸命タカに伝える。それに対しタカは「安心しろ、俺もどうせいつか死ぬ。」と答える。少女は意外そうな顔をすると弱弱しい笑顔を見せると、ぐったりとする。

「それは君たちにとっても忌々しい今池一等徴収官の娘だぞ。なぜ助ける。」男はタカに問いながらカードをスタンバイする。対しタカは「お前らが気に食わねぇだけさ。」と答えカードをスタンバイする。

「まあ、様子見さ。こい!サイバイマシン!」とタカが選んだのは自爆能力のあるサイバイマシン。

「解放されていない者はやはり、愚かだな。現れろ!“理科室の悪戯心”!」と言う男の前に現れるのは動く人体模型。数字は3。サイバイマシンの自爆能力によりもろとも吹き飛ばされ、お互い一敗。戦闘が終わると男は大衆のほうを向き、演説を開始する。

「諸君!私はかの愚かな、力だけは持っていた今池一等徴収官を破ったものに一つ、黒星をつけた!これが愚かさから解放されたものの力だ!」

その言葉に大衆は歓声を上げ、「流石伝馬様だ!」と口々にする。伝馬というのは彼の苗字である。大衆のボルテージは上がり自然と「伝馬様!伝馬様!」とコールが起こる。タカは「俺が自爆しただけじゃねぇか。」と口にするも大衆の耳には届かない。このように大勢に注目されながら行うゲームは彼にとって初めての経験である。しかも自分は大衆に倒すべき敵として認識されている。どうにもやりづらさを感じながら彼はカードをスタンバイする。

「次のカードはこいつだ!“屋上封鎖機”!」そういう男の前に現れるのはかかしのような機械。数字は3である。

「やりづれぇが、本質は俺とお前の勝負。そうだろ?」そういうタカの目の前に現れるのはチャッカマン OOO。機械のかかしは手も足も出ず焼き尽くされる。

その様子を見ていた大衆からは悲鳴が上がる。すかさず男は「心配しなくともよい!今のは相手の強力なカードを消費させるため、わざと負けたのだ!」と演説をする。それを聞いた大衆からは「すごい!考えもしなかった!流石伝馬様だ!」と声が上がり伝馬様コールはさらに勢いを増す。それにタカは非常にやりづらさを感じる。「本当かよ?どうだかな?」ととりあえず挑発してみるがその挑発にいつもの勢いがなく男もまったく気にしない。

「とりあえずうるせぇ奴らを黙らせてくれ、“ロックハート・メタルボディ”!」。タカが次に選んだカードは3のカード。心なしか奇抜なギターを持った機械は大勢の観客を前に嬉しそうである。

「粉砕しろ!“アンチ-ヘリコプターミサイルティーチャー!”」と男の前に現れるのはいかつい男を模した、背中に小さいミサイル発射台を背負い腰に警棒を携えた機械。数字は5。背中に担いだ発射台から小さなミサイルが飛び出しロックハート・メタルボディの動きを止めると腰の警棒でそれを破壊する。

「すごい!追い詰めたぞ!流石伝馬様!すごい!」と大衆のボルテージは最高潮になり、今日1のボリュームの伝馬様コールが始まる。その勢いはタカを少し焦らせる。彼の手札には規格外高機能機械兵も改造ジェットパックもない。相手は5のカードも持っていた。さらにいつもならば焦ったところで相手に表情を悟らせることはないが大衆の声が彼を圧倒し思わず焦った顔を見せてしまっていた。それを自覚した彼は少し笑うと引き締めなおし、「そこでわめいてる豚どもは、俺らの勝負に関係ないんだぜ?」といつもの調子で彼に語り、カードを信じてスタンバイする。「口を慎め、ここにいる者はすべて愚かさから解放されたものだ。」と男はカードを出す。「来い。“クローズドアット 8:30”!」。現れるのは、自動で開閉される門。数字は4である。

「悪かったな。少しうろたえたぜ。お前はいつも通りやってくれ、“デューティー ノンペイド”。」。タカの出した黒い機械は閉まっている門を無理やりこじ開け、破壊する。その様子を見た大衆は信じられないものを見た、という顔で少しの間呆然とすると、「ありえない!どうなっているんですか!?」、「何かの間違いですよね?」と口々にする。タカはそんな大衆に中指を立て、男に向かって「じゃあ、洗脳する機械とやらのカードをいただこうか。」と口にするが、男は「私は持っていない」と答える。タカはナオミが洗脳する機械を持っていたのはオフィサーだと言っていたことを思い出し、確かにこの場にオフィサーはいないことを確認すると「じゃあ、この場所を放棄しろ。」と告げる。男の体は勝手に動き出し大衆に向かい、「この拠点は放棄する。今後のことは、本部に聞くんだ。」と告げる。大衆は統率を失い、それぞれが思うように勝手に行動しだす。そんな彼らには構わずにタカはぐったりとしていた少女のほうに向かい話しかける。

「おい、大丈夫か?」とタカが語り掛けると彼女は「見てたよ、かっこよかった。」と弱弱しく返す。タカは「そんなこと聞いてねぇぞ。耳もイカれちまったか?」と冗談めかして言うと少女は笑う。

「お兄さん、お父さんを殺したの、違う人だったんだね。キョーソ様って奴だったんだよ。悪い奴だね。」と彼女は言う。さらに「どうして、お医者さん、ドクター トランスファー、盗んじゃったの?」と続ける。

「あれはだれかが生きるために人を殺す機械だ。美しくない。お前ならわかるだろ?」とタカはしっかり彼女の眼を見て答える。彼女も彼の眼を見ながら「わかるよ。お兄さんも壁外生物だもんね。私、お兄さんが死んじゃうなら、お医者さんも我慢するよ。」とそれに答える。

「俺、酒作れる機械持ってるんだぜ。死ぬ前に飲んどくか?」とタカが1枚のカードを彼女に渡しながら不意に口にする。

「私、子供だよ。お酒はダメだよ。」と彼女は受け取ったカードをしっかり見るとそれを手のひらにしまい答える。タカは「そんな綺麗で、強い目をした子供がいるなんて信じないぜ。」と答える。その言葉に彼女はクスリと笑うと「でも、ダメだよ。だって、気分じゃないの。」と大人ぶって答えると、ゆっくり目を瞑る。タカはその答えに少し笑うと、彼女だったものをやさしく抱きかかえ建物を後にする。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ