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そびえたつ高層ビルを目印にタカは暗闇を行く。彼は壁の外のそれとは違う計画性を感じさせる並びのしっかりとした住居の並んだ平らにならされひび一つない道路を誰に見つかることもなく進む。しかし進んでいくうちに人通りと街灯が多くなり彼の歩みは遅くなる。それでもできるだけ見つからないように暗く細い道を選び、時に透明になり彼は進んでいく。そして彼はいまだ明かりのついた建物ばかりが並んだ大きな道にたどり着く。酔っ払いばかりとは言え人通りは多いその繁華街ともいえる場所を目の当たりにした彼は初めての光景に少し感動すると同時に思うように進めなくなるもどかしさも感じる。彼は周囲に機械やロボットが存在しないか確かめながら、九星財閥の暗殺者を背負って慎重に進む。彼の進む道をふさぐ大きな道を迂回するように移動するタカがある薄暗く細い道に差し掛かった時に彼の目に興味深いものが映る。それはゲームをする二人。仕立ての良いスーツを着崩している酔った中年と品質は悪くないものの汚れている服を着た若者の対戦である。

「間抜けなオヤジ狩りが!この私に勝負を挑んだことを後悔するんだな。」

中年が若者に向かってそういう。彼の傍には2体の機械が控えており若者の方には1体もいない。若者が2敗しており中年は一敗もしていない状況だということがタカにもわかる。若者にとってはあと一歩で負ける状況だというにもかかわらず、彼の目はその状況を楽しんでいるといわんばかりに輝き、口角もそれを補足するように上がっている。タカはそれを見て若者がゲームを楽しんでいる良いプレイヤーだと思ったからこそ足を止めたのだ。中年は若者の様子に気味の悪さを感じながらカードをスタンバイする。

「まったく、悪人は何を考えているかわからない。ああ、言い忘れていたが私は“終日新聞社”に勤務していてね。君をオフィサーに引き渡した後顔つきで記事にしてやる。それで人生終わりだ。悔い改めるんだな。」

そう中年が付け加えると若者はこらえられず大声で笑い、返答する。

「終日新聞!通りで良いカードを持ってたわけだ。でも、あれだよね、唯一の新聞社にこんな間抜けが勤めてるなんて大丈夫かなぁ?」

その声の調子は中年を心の底からバカにしているものだ。中年はいらいらしながら何も言い返さずに態度でそれを表す。それを見た若者が付け加える。

「間抜けじゃん。ゲームは終わってないのに勝ったつもりになっちゃってさぁ。自分の感情で記事書いちゃってさぁ。弱いカードスタンバイしたからって口数減らしちゃってさぁ!」

若者の言葉をいらいらしながら聞いていた中年は彼が最後に語気を強めて言ったことに思わず驚く。彼は強いカードから出していった結果手札に弱いカードしかなくなっていたので1のカードをスタンバイしている。しかし彼は若者は先の2戦、1のカードしか出しておらずまともなカードを持っていない、持っていたとしても多くないと判断すると心を落ち着ける。もっとも彼にとって得体のしれないオヤジ狩りに一敗でもするのは気分の良くないことではあるが。若者もカードをスタンバイし、2人のカードが現れる。中年の前には頼りなさそうなロボットが、若者の前には拡声器を持ったロボットが現れる。若者のロボットが拡声器が大音量でこの場にいる誰もが理解できない言語を垂れ流すと中年の機械は破壊され、ゲームが終わる。「何が起こっている!」と狼狽する中年と、大音量でついでに九星財閥の暗殺者を破壊されてしまったタカに若者が説明する。

「“力なき者の拡声器”は勝った時、ゲームで負けている1のカードの数だけ相手につく敗北の数が増えるのさ。今回は2枚、俺の1が負けていたから彼自身の勝利と合わせて一気に君は3敗したのさ。難しく考えないでも現実と同じ、弱者は死んで初めて悲劇となって力を得る、そういうことさ。」

彼はそう言い終えるとゆっくり中年に近づいていく。中年はそんな彼をおびえるように見ながら「待て、そうだ!私は次期の選挙で終日新聞社の社長に選ばれるかもしれないほどの男なんだ!望むなら入社させてやってもいい!だからカードは、」と言いかける。その言葉は若者の「カード全て寄こせ。」の言葉にさえぎられる。ちなみに終日新聞社は唯一のマスコミと言うことと、その権限にオフィサー組織にも従わなくてよいというのもあり社長は選挙で決める。自分の体から出ていく光の玉を見ながら絶望する中年に追い打ちをかけるように若者はカードを何枚か具現化すると金をゆする。抵抗する手段もない中年はすっと金を差し出し逃げるようにその場を後にする。

「調子はどうだい?俺ともやるか?別に何も賭けなくてもいいぜ。」

その様子を見ていたタカが若者に声をかける。タカは良いプレイヤーとのゲームは楽しいということと自分は強いということを知っているからこその発言である。

「その恰好、噂の壁外生物じゃん。さっそく犯罪者同士楽しくやろう、と言いたいところだけどオフィサー来るから場所を変えよう。」

その言葉にタカはもしかしたら自分に有利な場所に連れ込む気かもしれないと少し警戒する。彼が良いプレイヤーだろうが無条件ですべて信頼することはできない。そのタカの警戒を感じ取った若者は笑いながら言う。

「俺はちゃんとした犯罪者だから持ってる奴からしか奪わないって。確かに君はカードは持ってるかもしれないけど所詮壁外生物じゃん。」

そういう若者の目と、その言葉の調子からタカは彼の譲れないものやアイデンティティを感じ取る。タカは若者を信じ、慣れた様子で細く暗い人通りの少ない道を選んで進んでいく若者についていく。2人がしばらく歩きたどり着いたのは繁華街から少し離れた場所にある住宅街。そこにある周りの家と何も変わらない平凡な一軒家の玄関を通り2人はその中に入っていく。その広く新しい家の中は少し汚れているが、タカは1人分の生活感しか感じられない。彼は建物の大きさに対して住んでいそうな人間が少ないことに少し違和感を覚える。

「ここは俺の家さ。俺一人の家。家族はある日突然頭が狂ったかと思えばどこかへ失踪しちゃったからね。」

若者はタカに説明するようにそう発言する。タカにしてみれば家に違和感を覚えたものの彼の事情を聴いていくよりも早くゲームを始めたい。「まだ生きているといいな。」とだけタカは返すと若者は軽く笑い2人は何も賭けずにゲームを始める。2人は目を無邪気に輝かせ純粋に対戦を楽しむ。一戦終われば2戦目、3戦目と二人は続けていく。カードのパワーの違いからタカだけが勝利を積み上げていく。それでも若者も目を曇らせず心の底から対戦を楽しむ。2人は対戦を続け、夜が明けるころタカのカードを把握し、読みがかみ合った若者がついに勝利を収める。しかし若者は勝利したというのにどこか何かをあきらめた様子で「やっぱ、強いね。俺なんか、ダメだ。」と口にする。

「楽しかったじゃねぇか。相当良いプレイヤーだと思うぜ。」とその言葉を聞いたタカが口にする。実際彼は負けているし、そもそも彼にカードが揃っていれば実力は五分だと感じていたからこその発言だ。

「駄目さ。結局俺は一生雑魚をゲームで倒して生きていくか、強者に挑んでみじめに散るか、その2つしかない。ゲームは楽しい、好きだし得意なのはわかってる。けど学校でも良い成績をとれなかった、親も消えて職歴もなければ金になるカードもない。」と若者は先ほどまで楽し気だった声を若干暗くして言うとまた声の調子を戻し「まともに生きてはいけないさ。まあ、わかっていたし、それでもいいんだけど。」と続ける。その言葉を聞いたタカは軽く笑って答える。

「おいおい、まともじゃなかろうが生きていけるならいいだろ。どうせ良いカード持ってても奪われるときは奪われるんだ。だがゲームの腕は奪われねぇんだぜ。誇れよ。」

タカの言葉を聞いた若者も少し笑い、「まあ、贅沢言ってるだけさ。」と答え、さらに続ける。

「俺、今思ったんだよね。壁ってさ、壁外生物から力のない人間の市民を守って効率よくカードや資源を取り返しながら発展するために立ったって聞いたけど、どうなんだろうね。今の俺にはあれが鳥かごにしか見えない。俺だって人間さ。でもここは生きづらい。君を見てると壁の外の方が生きやすそうに見えるし、無限の世界に希望が広がっているような気すらしてくるよ。」

その言葉を聞いたタカも深く考える。彼にとって壁の中の世界は、オフィサーに縛られていて、その豊かさが壁外からの搾取からくるものだということを置いておけば、物が満ち足りていて死人も少ない、見たこともない立派な建物がたくさん立っている上、道路もきれいで細かいところまで住みやすさに配慮してある夢のような場所である。しかし目の前にいる、彼の信頼に足るゲームプレイヤーは心の底からこの場所は住みづらいと思っていることが彼にはわかる。それ故タカも「壁の外を知らねぇだけだ。」と一蹴することはできない。結局彼が何か答えを出す前に若者が切り出す。

「そろそろ朝だし、犯罪者たちは一休みしようか。ああ、忘れる前に教えておくけど君の狙ってる金山後方長官は相当強いって噂だよ。壁ができてからずっとカードを受け継いできたんだってさ。正直諦めてここで俺と一緒に犯罪者しとくのが賢いと思うけどね。」

若者のその言葉にタカは「バカ言え。こんな生きづらい場所でやっていけるか。」と答えると若者は笑い、少し寂しそうにベッドのある部屋にタカを案内する。2人は夜が来る頃に目を覚まし、お互いに別れを告げるとそれぞれ持つものから奪いに夜の街へ繰り出していく。


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