12
いつも通りだらだらと過ごす二人のアパートにある日。訪問者が現れる。扉を強く何度もたたきながら「出てこい!ここにいるのはわかっている!」と訪問者は怒鳴る。タカも栄もついにオフィサーにバレたか、どうしてだろう、と考えるがとりあえずタカは隠れて栄はドキドキしながら何も隠してません、と言いたげな表情を作り扉を開ける。そこにいたのは一人の、オフィサーの制服を着た男だった。その姿を見た栄はせっかく作った表情を崩し驚愕する。
「ようやく見つけたぞ!栄!」そういうのはオフィサー試験を受けるために彼女からぺちぺっちを徴収しようとしていた彼女のいとこだった。彼はさらに「いろいろ文句を言いたいところだが、いい。俺の女になれ。口答えは許さん。」と続ける。
「いやよ!どうして!」彼女が思わず叫ぶと男は彼女に平手打ちをくらわし「口答えは許さんと言っただろう!安心しろ!お前の親にも話は通してある!」と叫ぶ。さらに「今日は確認に来ただけだ。来週また迎えに来る。」と続け、「逃げられると思うなよ。お前を追跡するためのカードを手に入れたんだ。」と加えその場を去る。目元に涙を浮かべながら呆然と立ち尽くしている彼女に隠れていたタカが現れ声をかける。
「モテるんだな。いいことじゃねぇか。」
彼の声を聴いた彼女は少し考え彼に飛びつき懇願する。
「ねぇ!私を攫ってよ!壁の外でもいい、むしろ、外がいい!連れて行ってよ!」
それを「悪いがやることがあるんでな。」とタカは一蹴する。それでも栄は引き下がらない。
「ねぇ、あなたになら、タカさんになら、私自身も、ぺちぺっちも、私のすべてを上げてもいいから。ねぇ、お願い。」と彼女は弱弱しく、少しだけ色っぽい声でタカにそう願う。
「悪いが、」タカがそれに答える。「ガキの子守は大変だってもちもち姉さんが言っていたんだ。」と言い切る。
「私だってもう20よ!」と怒ってこたえる彼女に対しタカは、「目が、何も知らないガキの綺麗なそれじゃねぇか。」と答える。
その発言を聞き、彼女はどうあがいてもタカは自分を攫っては、求めてはくれないことを悟る。心が悲しみに支配され思わず涙があふれ出そうになる。彼女は涙を必死で止めながらどうすれば、苦手ないとこの下に行かなくて済むのか考える。彼女はぼんやりと、その方法を知っている気がしていた。その方法の正体を一生けんめい記憶を探り明らかにしようとする。その過程で彼女は人生で一度も見たことのない映像がよぎる。彼女の知らない美しく、かっこいい女性が汚い男たちに囲まれながらも柔らかな笑みを崩さず立ち回り、切り抜けていく映像である。それは彼女がタカから聞いて想像していたもちもち姉さんの姿である。脳内でその映像を見た彼女の心に一筋の、細い、細い光が差す。相変わらず心の大部分は絶望が占めている。それは彼女も自覚しているが心の中の彼女自身にはもうその光しか見えていない。顔からは自然と笑みがこぼれる。そのまま彼女は、彼は絶対に断らないだろうという根拠のない自信を抱きながらタカにもう一つお願いをする。
「ねぇ、タカ。私にゲームを教えて。」
タカはその言葉を予期していなかったが、彼女の瞳を見ながら答える。
「ああ、いいぜ、サカエ。よく見たら綺麗な目してるじゃねぇか。」