帰還・・・彼らの、みんなの未来。
一応本編完結です。もう少し後で書き足すかもしれません。皆様のおかげで目標としていた評価1000ポイントを達成することができました。本当に感謝いたします!!あとはその後の彼らを少しもう一話程後で書きたいと思います!!最後のほう遅くなって申し訳ありません!!ありがとうございました!!!よろしければ!!本当によろしければご感想お願いいたします!!・・・やっと胃の痛みが・・・治まるかな・・・
竹原は絶頂した。もはや取り返しのつかない所まで理不尽な自己満足に支配された彼の中では全てが自分の都合のいいようにしかとらえられなかった。
火をつけて憎い隆文、義明を自分の中の正義の名のもとに殺す。そこには罪悪感などあるわけがない。己の行動全てが正しい。だからこそ竹原は義明、隆文が助かったことが許せなかった。
そして、隆文の姿を確認した時に、竹原は迷わなかった。全ての元凶、自分がこんなことになった原因が助かる。自分がこんなぼろ屑のような身体、味わった屈辱、そんな奴が生きていることが許せない。隆文さえいなくなれば、またうまくいく。全部なかった事に出来る。
そうだ、あいつは存在してはいけないんだ。俺の人生に居てはいけない。だからこれから俺が行う事は正しい。俺の幸せな人生のために・・・死ね!!!
「ぎゃはははははははははは!!!」
野次馬がごった返す災害現場、消防隊、救急隊、それぞれが一生懸命に職務を全うさせ、少しでも命を救おうと奮戦する、崇高な命の現場、そこに竹原はアクセルを踏み込み凶器と化した自動車、重量1.5トンの鉄塊を猛スピードで突っ込ませた。
集まってきた人間の事など目に入らない。誰を巻き込もうと知った事ではない。人など関係ない。俺が幸せな人生を送る為ならどうでもいい。隆文を殺せればそれでいい。
ドン、ドスン、バギ・・・
何人も轢いた。跳ね飛ばした。一切気にならなかった。人々は一瞬の事で避ける暇もなかった。何人もの人間を巻き込みながら、鉄塊は加速し続けた。
自動車がぶつかる衝撃は速度によって変わる。例えば時速40キロで衝突した時は高さ6メートルから自動者ごと落ちたのと同じくらいの衝撃がある。しかし60キロで衝突した場合、そ衝撃は高さ14メートルから落下したほどに膨れ上がる。
つまり、速度が増せば増すほど衝撃は乗にして増していく。竹原はただ隆文に向けて最大の速度で突貫した。周りの救急隊など目に入らなかった。
時速100㎞で1.5トンの鉄塊が隆文に突っ込んだ。
隆文はよけなかった。避けるような体力はなかった。必死で救急隊を跳ね飛ばすことが精いっぱいだった。最後に残った搾りかすのような力で他人を助けた。残ったのは身体が真っ黒になった、ぼろきれのような自分の身体だけだった。もう折れたあばらが肺に突き刺さり呼吸もできないような状態の自分だった。
精神が切れていた。皆を助けられたと安心して精神が緩んでしまった。初めてと言っていい、自分を褒めてやりたいほどの満足感。その甘美な思いに幸せを感じていた。自分自身が望み、初めて自分の為だけに他人を助けられた。それが途方もなく嬉しかったのだ。
そして隆文は空を飛んだ。100㎞で車がぶつかった衝撃は40メートルのビルから落下するに等しい。その衝撃をまともに食らった。大きい隆文は舞い散るゴミのように吹き飛ばされた。
「ぎゃははははははははははははは!!!!!!」
車は当然のことながら減速などせず、そのまま燃え続けるビルに突っ込み、壁に激突した。
竹原はとても嬉しそうに、狂喜しながら車と壁に挟まれてプレス機にかけられたようにミンチになり、爆発炎上した。自己満足、自分本位、歪んだ精神に支配された男は最後まで愚かなまま惨めに逝った。
・・・隆文は・・・地べたに横たわっていた。もう自分の身体の感覚がない。酷い状態だった身体はなお破壊され、真っ黒に炭化していた腕も千切れ、腹からは腸がこぼれ、足は幼児が捏ねた粘土細工のように歪に折れ曲がっていた。どうやらあばらが心臓まで達しているらしい。もはや呼吸もできない。身体のいたるところから皮膚を突き破り骨が見えている。
・・・ああ・・・俺は・・・死ぬな・・・ここまでになったら・・・もうどうやってもダメだ・・・もう頭は働かない・・・暗い・・・目の前が暗い・・・
やっと・・・俺が生きていていい理由を見つけたのにな・・・それなのに・・・ここで終わりか・・・もう熱さも痛みも感じない・・・冷たい・・・ただただ・・・冷たい・・・
・・・死にたくないな・・・もっと人の笑顔が見たかったな・・・俺が頑張れば・・・笑ってくれる人がいるって気づいたのにな・・・死にたくないな・・・
・・・なあ・・・崇、義明、お前らは俺みたいになるなよ。きちんと生きて行ってくれ・・・こんな、間抜けな最後を迎えないでくれ。俺みたいに大事な事に気づいたら手遅れだったなんて事にならないでくれ・・・
・・・菜穂子、これからお前は辛い事がいっぱいあるだろう。でも負けるな。・・・ごめんな、俺がもう少し頼りになってればお前にそんな思いをさせなかったかもしれないな・・・
・・・義明、お前はこれからだ。きちんと罪を償って自分に対して胸を張れる生き方をしてくれ・・・立派な人になれなんて言わない。でも自分で自分を褒められる人になってくれ・・・
・・・崇、俺と会ってくれてありがとう。俺と友だちになってくれてありがとう。妹さんと仲良くな。もう俺はいなくなるけど、お前の夢かなえてくれ・・・お前なら大丈夫だ。俺の憧れだもんな・・・義明と・・・友達になってくれると・・・嬉しいな・・・
・・・ああ・・・最後に・・・お前か・・・朋子・・・そうか、俺は・・・またお前を突き放したのか・・・子供のころは、俺が弱すぎて・・・そして・・・今は・・・俺が馬鹿なせいで・・・お前を壊した・・・二回壊した・・・
・・・お前は弱かった・・・俺以上に弱かった・・・俺と同じ誰かに依存するしかなくなっていた。俺は他人に、そしてお前は俺に依存してしまっていた・・・そう育ってしまった・・・そして俺が壊れたせいでお前も壊れた。
・・・お前が壊れなければ、義明もここまでにならなかった・・・もしかしたら崇とも上手くいったかもしれない・・・
・・・ははは・・・俺の・・・せいかな・・・壊れちゃったのは・・・
・・・隆文・・・モルガだ・・・隆文よ・・・お前に聞きたいことがある。
・・・なんだい?
・・・解ってるだろうがお前はもう死ぬ。もう俺にもどうすることもできん。ここがイルムトならばどうにでもなるが・・・この世界では俺の力は大きく制限される。
・・・解ってるよ・・・でも・・・死にたくないなあ・・・俺は何か・・出来たのかなあ・・・
・・・だから、隆文・・・帰らないか?イルムトへ・・・俺はお前を救いたくてこの世界にお前を送った・・・そしてお前は救われた・・・違うか?
・・・ああ、救われたよ、俺は初めて自分の事を自分で認められた・・・それは何よりも幸せな事だ・・・
この世界では俺は力を発揮できない。しかしイルムトでならば治せる・・・この世界に来るときにイルムトとの境界に穴をあけた。だから戻る事自体は可能なんだ。
・・・俺は?・・・もし俺がイルムトへ帰ったとしたら・・・
お前がこの世界に戻った直前、俺を倒した後に戻る。そこでは時間がたっておらず、お前は元通りの身体になる・・・
・・・ここに残された・・・崇や義明や菜穂子はどうなるんだ?あいつらは俺を必要としてくれている。死体もなくなったら・・・気持ちの整理ができないだろう・・・
・・・そればかりは・・・どうしようもない・・・
・・・なあ、モルガ・・・俺が居なかった世界に出来ないか?
・・・何?
・・・もし最初から小松原隆文という人間がいなかったら・・・そうすれば義明も菜穂子も崇も・・・朋子もおかしくなってなかった・・・時間は戻せない・・・だけど・・・この世界から俺と言う存在が・・・痕跡も残さず消えてしまえば・・・
・・・それは、人々の記憶からお前の事を消す・・・という事で理解していいのか?
・・・ああ・・・
・・・お前は・・・この世界に・・・そこまで・・・
・・・違うよ、モルガ。俺はこの世界に絶望なんかしていない。だってこんな俺でも優しくしてくれた人がいた。頼ってくれた人がいた。本気でぶつかってきた人がいた。とっても大切な人達だ・・・だから、これ以上彼らに不幸になってほしくない。俺が死んだら泣いてくれるだろう。そして悲しむだろう。俺はね、そんなみんなの姿を見たくないんだ・・・
・・・それでお前はいいのか?
いいに決まっている。俺はね、他人の泣き顔が一番嫌いなんだ・・・だから、みんなの笑顔の為なら、喜んで俺は消えれるよ。
・・・記憶の操作はできる・・・もともとこの世界に無理に送ったのは俺だ。だからそのことに起きた事象は俺が操作できる・・・さかのぼって小松原隆文と言う人間を消す事も出来るだろう・・・本来ならば途方もない魔力が必要だが、本人であるお前がそう望むのであれば・・・可能だ・・・
・・・ははは、さすが魔王様だ。いや、もう俺か。
・・・変わらないな、お前は・・・あくまでも行動の全ては人の為か・・・不器用で賢く生きられない・・・なあ・・・隆文、お前は変われたか?
ああ・・・俺はここに戻ってきて、初めて自分の事が好きになれた・・・ありがとうな、モルガ、俺を戻してくれて。俺は小松原隆文、そしてモルガ、お前だ。俺は自分の為に人々の盾になる。そのことを解らせてくれた。俺の本当に望んでいたことが解った。俺は自分で気づかなかったけど、歩んでいた道に間違いはなかった・・・俺は幸せ者だよ。生きる意味を見つけられた。
・・・そうか、そう言ってくれるか・・・ありがとう、隆文・・・俺もな・・・お前に救われたよ・・・5000年・・・いや、人間だったころと合わせたら5020年・・・生きてきてよかった・・・お前に会えた・・・俺も幸せ者だ・・・
・・・さあ・・・帰ろう、イルムトへ・・・
・・・一陣の風が吹いた・・・・
人々の記憶からは隆文と言う存在は消え、何事もなかったように世の中は回っていく・・・
幽鬼のようになっていた朋子はしばらくののち、回復の兆しを見せてきた。隆文の記憶がなくなった事により根本的な原因が消えたからだ。もう少し時間はかかるだろう。しかし朋子の心の中には、思い出せないが優しい、いつも一緒にいて見守ってくれた暖かい存在があった・・・誰だかは解らない。でもその人は朋子とともにある・・・だから、大丈夫・・・
・・・ごめんな・・・
風の中にそんな声が聞えた・・・朋子は、枯れていた涙が溢れてくるのを止められなかった。
何故か解らない、いるはずもない人に謝り続けた。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・お兄ちゃん・・・ごめんなさい・・・」
病室で、一人泣きながら謝り続けていた。
朋子はこれからさまざまな人に会わなければならない。義明に会って謝らなければならない。その結果義明に殺されようともだ。もし許されるのなら・・・崇に謝りたい。自分の口で自分が行ってきた事を話したい。妹には罵倒されるだろう。崇には拒絶されるだろう。でもそうしないと・・・朋子は前に進めない・・・
・・・優しい声が聞えた気がした・・・誰かが肩を抱いてくれた気がした・・・
記憶にはない・・・でも・・・誰よりも知っている・・・暖かい、大きな手・・・すぐにそれは消えてしまった・・・でも・・・朋子は・・・それだけで進めそうな気がした・・・
「・・・ありがとう・・・お兄ちゃん・・・」
大事な物を確かめるように朋子は胸の前で心臓に両手を当てて、もう忘れていた笑顔を取り戻した。どれくらいぶりだろう・・・こんなに本心から笑えるのは・・・
・・・ありがとう・・・お兄ちゃん・・・
あの場に居た義明の仲間も全員少年院、刑務所へと入った。皆過去に行った事を隠すことなく全て警察に話、罪を償っていた。そうすることが自分達、そして迷惑をかけた人たちへの誠意であり、これから生きていく事で絶対に行わなければいけない。そうしないとあの人への冒涜となる。あの人が誰かは解らない。でも記憶になくても魂に刻み込まれている。
炎の中、自分の身を厭わず助け出してくれた大きな背中、義明との魂のぶつかり合い。その人は教えてくれた。不器用ででも一生懸命に、他人のために苦しみながら精いっぱい生きる。そんな生き方でいい・・・そんな気がした。
思いだせない。誰かは解らない。でもその人は希望だった。腐っていた自分たちに希望を見せてくれた。だからその人に恥じない生き方をする。
その人は義明を、そして自分達を助けてくれたヒーローなのだから・・・
・・・暖かい、優しい風が吹いた・・・
義明は少年院へと入っていた。義明が行った事はほぼ正当防衛、過剰防衛、ただ崇への暴行、それも崇は訴えなかったためそこまで重い罪にはならなかった。あと数年。いや、つきものが落ちた義明は模範的な生活を送っていた。この施設で義明はいつも笑顔で接し、罪を償っていた。そのおかげでもっと早く出られそうだった。
ある日、義明に面会があった。誰だろう?心当たりはない。もしかしたら仲間の一人が刑期を終えて面会に来てくれたのかな?
少し困惑しながら義明は面会室へと入った・・・
・・・一人の老人だった・・・
・・・少しよれたポロシャツとズボン、苦労して生きてきたせいか実年齢よりはずっと老けて見える・・・でも・・・誰よりも優しい顔、大好きな顔、義明にとってのヒーロー・・・
茂田さんがそこに居た・・・
義明を見つけると、本当に嬉しそうににっこりと笑ってくれた。ケガの後遺症もあるのだろう、少し足を引きずっていたが元気そうだった・・・
義明は動けなかった。勝手に涙が溢れてきた。あまりの感情に動けなかった。茂田さんはそんな義明を優しく見つめながら言ってくれた。
「久しぶりだな、義明・・・」
声を聴いた瞬間に義明は崩れ落ちた。茂田さんだ・・・優しい茂田さんの声だ・・・義明って言ってくれた・・・俺に会いに来てくれた・・・
「うあああああああああああんんんん!!!!」
義明は止められなかった。刑務官に身体を起こされて面会室の椅子へと案内された。嬉しすぎて身体に力が入らない。顔は馬鹿みたいに涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。
しゃくりあげ、話そうと思っても言葉が出ない。茂田さんはそんな義明を優しく見つめ泣いていた。
少し落ち着いたころ、茂田さんが小さい箱を出してきた。
「・・・ちょっと早いかもしれないけど、あの夜の続きをやりたくてな、これ・・・」
ケーキだった・・・義明が茂田さんに祝ってほしかった夜に買っていったケーキが入っていた。
「お前がどこで買ってくれたのか聞いて回ってな・・・おしゃれな店で買ってくれたんだな。」
茂田さんは照れたような顔でそう義明に言った。
「茂田さん・・・俺・・・俺・・・」
「おめでとう、義明。生まれてきてくれてありがとうな。俺と会ってくれてありがとうな・・・」
「うあああああああああ・・・・もだざん・・・・おれ・・おれ・・・」
何よりも欲しかった言葉をもらった。
・・・面会室に届く光は暖かく、柔らかい空間の中一人の大きな男と老人を包み込んでいた。
・・・・良かったな・・・頑張れよ・・・
優しい、頼りがいのある声が聞えた・・・
菜穂子は変らず学校生活を送っている。呼び出される事もほぼなくなってきた。友達はまだ静子一人、でも一人でいい。その分絆は深い。自分の汚い所、弱い所、静子は全部聞いてくれた。怒ってくれた。そして手を差し伸べてくれた。感謝、嬉しさ、果たして菜穂子は今までそんな気持ちを他人に向けた事があっただろうか・・・
そんな人がいた気がする・・・何も解らない・・・けど自分を怒って、助けてくれた人がいた気がする・・・優しくて、厳しくて、最後には助けてくれた・・・菜穂子が一番つらい時に傍にいてくれた・・・思いだせない・・・でも暖かい・・・
大丈夫、私は大丈夫、その人が私の心の中にいる・・・私に馬鹿になれって言ってくれた・・・私は馬鹿みたいに生きる・・・その人みたいに不器用で真っ直ぐに生きる・・・
・・・幸せになれよ・・・菜穂子・・・
うららかな太陽の中、暖かい風が吹いた・・・
すっぽりと抜け落ちている・・・何か大事な人が・・・去って行ったような気がする・・・崇は病室のベッドの上で目覚めた。何か悲しい夢を見たような・・・
ベッドの脇には由香が座り、ベッドにもたれて寝ている・・・不思議なくらい身体に痛みはない。酷い重症だったはずだ・・・でも・・・身体が軽い・・・
ああ・・・大切な、大切な人が助けてくれた・・・何となくそれが解る・・・暖かくて、大きくて、優しくて、頼りになって、でもどこか寂しそうで、俺が憧れ続けた人・・・
その人が俺を助けてくれた・・・俺を初めて褒めてくれた・・・俺に夢をくれた・・・
解らない・・・誰だったのか解らない・・・でもいた・・・俺と一緒に過ごしてくれた・・・そして助けてくれた・・・
一緒に夢を見た。俺が救急救命士でその人が医者で・・・いっぱい他人を助ける・・・そんな夢を見た。その人は俺のために真剣に怒ってくれた。俺のために身体を張ってくれた・・・いたんだ、その人は・・・
消えたんだ・・・解らない・・・誰だったか解らない・・・でもありがとう・・・あなたのおかげで俺は強くなれた・・・
あなたがいたから俺は、生きることに目標を持てた。俺は自分で立てるようになった。
俺はあなたに憧れた。そしてあなたも俺を大切に思ってくれた・・・俺に友達という物、本当の意味で接してくれた。俺の宝物になりました。
由香・・・妹にあなたが怒られてるの何となく覚えてます。内容は良く解らなかったけどあなたは俺のためにいっぱい泣いてくれました。怒ってくれました。俺の頼みを聞いてくれました。
きっと義明も救われたでしょう。あなたは救ってくれたでしょう・・・自分を捨てても義明を救ってくれたでしょう。俺を導いてくれたみたいに・・・
だから、俺は悲しくありません。あなたならどこに行っても大丈夫。絶対に変わらない信念を持ち、他人を救い続けるでしょう。自分を犠牲にしながらそれでも立ち上がるでしょう。
願わくば、あなた自身が心から救われますように・・・ありがとう、俺に会ってくれた大切な人・・・俺に会ってあなたは救われましたか?
・・・救われたよ・・・崇・・・夢・・・頑張れよ・・・
病室の中、朝の柔らかな光の中、誰かがそう言った・・・
・・・・勇者は帰還した・・・
数々の心にその生き方を残して・・・不幸な人々を守る為に現れ、そして去って行った。勇者は、勇者たる者は弱者の盾、何度折れても立ち上がる心、虐げられ何度敗北しようと再び立ち上がる心、自己を顧みず不器用でも誠実に生き抜く者。
情けなくてもいい、悔やんでもいい、間違ってもいい、負けてもいい、それでも立ち、進み続ける者。勇者とは生き方なのだ。数ある中での一つの生き方だ。
報われず、馬鹿正直に、他者を気遣い、進み続ける者。愚かなしかし尊い生き方。それが勇者だ。
隆文はまぎれもなく勇者であった。
自分に失望し、他者のために生き、報われる事もなく、報われる事など期待せず、されど折れずに進み続けた。泣き、怒り、恥じ、苦しみ、自分に対する嫌悪を抱えながら進み続けた。
人間として抱える負の感情を抱え続けながら、なおも他者への献身の為だけに生きてきた。それがいいとは言わない。むしろ馬鹿にされてしかるべき生き方であろう。
だからこそ勇者たりえた。賢く生きれなかったがゆえに勇者たりえたのだ。
100人いたら100人が馬鹿にするような生き方。だからこそ勇者とは誰もがなれない。そこを貫き通すことなどできない。
自分に心底絶望しないとそんな生き方はできない。絶望したとしてもほぼ全員他者への嫉妬、怒り、その末の凶行に繋がるだろう。
隆文は心が死んでしまっても歩き続けた。どれだけ馬鹿にされようが歩き続けた。言葉も通じない、何も解らない場所で文字通り泥水を啜り、糞便にまみれ、食べる物もろくにない、いつ命を失いかねないような場所で歩き続けた。
そして元の世界に戻ってからも変わらない。隆文は隆文のまま、隆文としてイルムトへ帰って行った。大事な物を義明、崇にもらって帰って行った。
勇者など本来はいらない。生きていく上でいらない存在だ。勇者が必要な所、それは闘い、虐げられている弱者、不幸が産まれる場所だからだ。
崇は救われた。義明も救われた。菜穂子も救われた。朋子はこれから自分が行ってきた事を自分で清算していくだろう。
もはや勇者の出番はない。後はそれぞれがそれぞれの人生において勇者の生き方を胸に刻み、生きて行けばいい。心に勇者の残滓を抱いたまま生きればいいのだ。
そして、人々は苦悩と他者への劣等感を持って生きていくだろう。悩み、人生に疲れた時、隆文と言う、誰よりも不器用で、愚かで、それでも歩き続けた人間がいた。そう思ってもらえればいい。その姿は刻み付けられている。隆文の記憶を失っても、生き様は刻みつけられている。
さあ・・・勇者は去った。そして君たちの未来が始まる。
難産に次ぐ難産でした・・・これからは書き溜めてストックを大量に増やしてから投稿しようと思います・・・一通り見直すと書き手がどれだけぶれてていたか良く解りますね・・・恥ずかしい・・・えー・・・賛否激しい話となってしまいました。隆文君、ぶれてますねえ・・・書き手の迷いですな。




