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帰ってきたその後で・・・  作者: ヒラゾウ
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私は小松原朋子

恵まれた家庭に生まれた事は理解してるわ。

でも一つ違いの兄貴には憎悪しかない。


小学生の時にお前の兄ちゃんいじめられているぞ。って言われた時の衝撃が解る?

それまで頼りにしていたお兄ちゃんが馬鹿にされていじめられていた事の苦痛が解るの?

それは私の存在を否定することだわ。だっていじめられているお兄ちゃんを

頼りにしていたってことじゃない。「私のお兄ちゃんは頼りになって誰よりも逞しく強くならなければならないの!!!だから虐められるなんてことはありえないの!!!」

そんな事を言った男子をぼこぼこにしたわ。


当然よね、誰よりもカッコよくて素敵でいい匂いをするお兄ちゃんを馬鹿にしたんだもの。

私は周りの男子よりも背も高くて成長していたの。

だからみんな私に従ったわ

でも私から何か言った事はないわ。

なるべく問題が起きないようにおとなしくしていたわ。

お兄ちゃんを馬鹿にした男子にも後で謝っておいたわ。

馬鹿な男子は気にするなって笑っていたわ。ちょろいわね。


でも中学生になって解ったわ。

本当にお兄ちゃんはいじめられているんだ。

皆の前でオナニーを強制されるくらいいじめられているんだ。

正直ブクブク太っていくお兄ちゃんを拒絶してしまっのは確かだわ。

記憶の中に居るお兄ちゃんとかけ離れていくお兄ちゃんに失望してしまった。

お兄ちゃんは誰よりも綺麗でいい匂いがしてカッコいいお兄ちゃんだったのに。

いつの間にか豚みたいに食い漁ってブクブクと太り始めたわ・・・


もう私の知っているお兄ちゃんとは違った存在になっていたわ・・・

太って、気持ち悪い笑みを浮かべてただへらへら笑っている。

私はそんなお兄ちゃん我慢がならなかったわ・・・

私の理想の男性像はお兄ちゃんなの。私の手を引いてくれたお兄ちゃんなの。

今の兄貴は違う。ブクブク太ってへらへら笑ってごまかしてみっともない。

私の前だけでは昔のお兄ちゃんでいてほしいの。


でもどんどんお兄ちゃんの目からは光が消えて行ったわ・・・

私は兄貴の洗濯を別にしてほしいってお母さんにお願いしたわ。

今の兄貴は朋子のお兄ちゃんじゃない。

私が知っているお兄ちゃんはカッコよくていい匂いがするお兄ちゃんだ。

あんな豚のような人間じゃない。




兄貴は最後にお風呂に入るようになって掃除もするようになった。


私がそう決めた。豚の後に入るなんて冗談じゃない。

泣きながら笑顔で掃除してるわ・・・みっともなく素っ裸で泣きながら。


情けない・・・・気持ち悪い・・・

・・・もっと自信を持ちなさいよ!!へらへら笑っていることに腹が立つ。



菜穂子ちゃんはもうとっくに離れていったって聞いた。

当たり前よね、今の豚みたいな兄貴なんて見捨てられて当然だ。


誰かは知らないけれどあの豚兄貴よりはよほどいい男なのだろう。



・・・兄貴を見るととっくに菜穂子ちゃんを諦めている事を感じる・・・

中学2年生の後半くらいだったろうか・・・

諦めた・・・どうしようもない感情を感じた・・・


馬鹿じゃないの?どうにかなると思ってたの?

可愛い菜穂子ちゃんがあんたみたいな豚と付き合ってくれるわけないでしょう。



その時豚兄貴が何か私に話しかけようとしてきた。

でも何を言っていいか解らない様子でもごもごしていた。

腹が立ってきて思い切り蹴ってやった。すごすごと笑いながら豚は部屋へ戻った。

・・・何か言いたいなら言いなさいよ。そのあきらめたような眼を見ると腹が立つ。


イライラしてたまらないから学校でも暴れた。

不良と言われる連中とも付き合うようになってきた。


豚兄貴に似ている奴を見ると率先して虐めてやった。

もう豚兄貴の事を思い出すのも嫌だった。

子供のころの兄貴を覚えている分なおさら今の豚に腹が立つのだ。



馬鹿みたいにへらへらして何にも言わないでいじいじと部屋にこもって!!

怒りなさいよ!!反抗してみなさいよ!!わがまま言ってみなさいよ!!!

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!!


・・・もう死んでくれないかな。



高校生になった豚はさらに虐められているようだった。

毎日汚いどろどろの制服で帰ってきた。


母さんと話してもう別に暮らそうと決めた。

適当に金を渡して一人で暮らさせてしまおうと思った。

同じ空間に居ることも我慢ができなくなっていた。


話が決まった後、リビングに行って家族のアルバムを開いた。

もう私の中では豚兄貴は死んでしまっていた。

最初からいないことにしようと思った。

だから消してやった。写真の豚の部分をぜんぶ塗りつぶして破り捨ててやった。


・・・これで豚は消えた、家族から消えた・・・



そんな事を考えてコンビニにでも行こうと玄関に行って靴を履いた瞬間、ドアが開いて豚が現れたわ!!!私は何も考えないで思い切り手に持っていた靴ベラを振り下ろしたわ。


おもいきりぶたの目に当たっちゃったわ・・・


・・・いい気味、ルールを破って入ってきたんだから当然の事よ



「なんでこっちから入ってくるのよ!!気持ち悪い!!せっかく彼氏とデートだったのに台無しじゃない!!あんたのせいで台無しよ!!この豚!!気持ち悪い!!気持ち悪い!!」



仲良くしている男はいたけど彼氏というほどでもない。

友達の家に泊まりに行くだけだったけど豚を責めるのにデートって言ってしまった。


ああ・・・腹が立つ、なんでこの豚は私をこんなにイライラさせるのかしら。手が止まらないじゃない。

背中を丸めてごめんなさい、ごめんなさいなんて言うたびにこの豚にむかついた。



そのうち疲れて手を止めた。せっかくお風呂に入ったのにこの豚のせいでまた汗をかいた。

最後に思い切り股間を蹴り上げてやった。

豚はぐぎゅッとかいう声を出して蹲った。


「・・・さっさと死ねばいいのに・・・」


ビクンと豚は震えたようで泣き出したみたい。

いい気味。



次の日、帰ってみると豚は居なかった。

家族も別に心配してなかった。

私もどうでも良かった。ただ死んでいたら手続きとかめんどくさい事になるなと思った。

家族もしょうがない様子でもう一日帰ってこなかったら捜索願いを出すかと言った。


世間体と言うものがあるので出しておかないとまためんどくさい事になるとの事だった。

本当に迷惑をかける豚だ。死ぬならだれも知らない所で遺書でも残して死ねば簡単なのに。


次の日、しょうがないから母さんが警察へ捜索願を出そうとした時、

ふらりと豚が帰ってきた。母さんも私も激怒した。


「この豚!!余計な手間かけさせてんじゃないわよ!!死ぬならだれにも迷惑かけないように死になさいよ!!」


「あんたいい加減にしなさいよ!!世間体ってもの考えたことあるの?あんたのせいでどれだけ私たちが迷惑してるか解ってるの!!」


私は思い切り靴ベラで顔を殴りつけた。

バキ・・・靴ベラが折れた。うちの靴ベラは安物ではないブランド品だ。その分一生使える程頑丈にできている。それがあっけなく折れた。


豚は何も感じない、何にもなかったように立っていた。

・・・違う、いつもへらへらと笑っていた顔じゃない。ただの無表情。

怯えていた目は何も映していない。まるで感情というものが欠落している眼だった。


私たちを見ていない。石ころを見ているような眼で見ている。

私も母さんもその目に何も言えなくなってしまった。


「・・・ああ・・・そうか・・・ごめん・・・」


豚の声を聴いたのは何年ぶりだろう。

響くような低音の無感情な声だった。私たちは動けなかった。


「・・・疲れたから寝るよ・・・君たちの前にはなるべく姿を出さない・・・それでいいだろう?」


・・・これは豚・・・本当に兄貴なのか?

別人じゃないのか?・・・どもりもない・・・みじめさもない・・・

むしろ感情など消え失せた・・・虚しさだけを感じる声・・・


諦めを通り過ぎてそれが当然の事としてそのままあるような姿。


そんな兄貴は自分の部屋へ入って行った。


私も母さんも呆然とそこに立ち尽くしていた。


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