血の儀式、解放
義明編次に少し顛末を書いて終わります。
真っ赤だ・・・まっかだ・・・マッカダ・・・
何にも見えない・・・
ゴミが居た。ゴミだけが見えた。
ゴミはたくさんある。思い切りぶち殺していいゴミだ。
あああああああ・・・我慢なんてできいぞ・・・・
する気なんてなくなったぞ・・・
壊すぞ・・・壊す・・・どろどろにしてやる。ぐちゃぐちゃにしてやる。
びくんびくんとはねさせてやる・・・
おおお・・・口から何か出そうだ。
毛穴の一本一本から噴き出しそうだ。
身体が開かれそうだ。叶うなら思い切り腹を引き裂いて思い切り内臓ごと出してしまいたい。
身体中の穴という穴から何かがむりむりとひり出されていく。
固形物のような何かが俺の身体を穴を広げてひり出されていく。
ああ・・臭い・・・糞のように臭い。
ゴミだ・・・俺だ・・・俺が俺の中から俺を広げながら出てくる。
笑いながら出てくる。怒りながら出てくる。臭い匂いを放ちながら出てくる。
こんなものがいたのか俺に。
こんなものがあったのか俺に。
熱い・・・熱い・・・・ああああつううういいいいいいい・・・・
「がああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
裂けた。俺が裂けて消えた。弾けた。潰れた。
何だこれは、とにかく汚くてどろどろと腐って真っ黒だ。
俺が真っ黒だ。真っ黒は俺だ。
壊れたぞ。俺が壊れた。同じように臭いゴミがたくさんいる。
それで壊れたぞ。
・・・
・・・・
・・・・・
上島はまともに見てしまった。
義明だった者を見てしまった。
「ふうううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅxx・・・・・」
最初はスーパーのビニール袋を持ちながら笑顔のまま止まっていた。
そしてうなり出した。
最初義明が現れた時、誰だと思った。
巨大になっていた。大きいとは思っていた。
近い距離で見た義明は大きいなんてものではなかった。
山の中でいきなり巨大な羆に遭遇したらあるいはこんな気持ちになるのかもしれない。
森でいきなり虎に出会ったらこんな気持ちになるのかも知れない。
常軌を逸するほどに義明は巨大だった。
肉の壁、肉体と精神をギリギリまで酷使し続けた義明はあふれ出そうになるものを止めるために大きくなり続けていた。中学で見ていた義明とはもう別人であった。
無表情だった顔は笑顔になっていた。親しみを感じる顔になっていた。
この仲のいいホームレスにだけ向ける顔で固まっていた。
こいつ・・・こんな顔もできるんだ。
上島はまるで関係ない事を考えた。現実から目を背けたかった。
もしかしたら殺してしまったかもしれないホームレスと巨大に膨れ上がりうなり続けている巨大な肉の壁から意識をそらしたかった。だが視線は義明の顔から離せなかった。
義明が震えだした。体がなお赤黒くなって行った。
みき・・・みき・・・びきき・・・
義明の身体から異常な音が聞こえてきた。
身体中に太い、馬鹿気たほどに太い血管が浮き上がってきた。
一回り、二回り・・・いやそれ以上身体が大きくなっていってる気がした。
顔の古傷から血が出てきた。
羆など可愛かった。目の前のこの変貌していく男に比べたらどんなものも弱そうに見えた。
上島はいまさらになってホームレスの言った事が正しかったと思い始めた。
目の前の男には数など関係ない。
10人集まった仲間。10人などこの男の前ではティッシュの紙のように薄っぺらく感じた。
自分たちが1000人いても何の足しにもならない程に感じられた。
・・・殺される・・・逃げなさい・・・
ホームレスの言葉が頭の中で繰り返し響いた。
・・・そして・・・義明の顔が変わっていった・・・
にこやかな笑い顔は異様に口の両端が吊り上がり逞しい歯がすべて見えそうなほど広げられた。
異常な力がかかっているのだろう。歯を食いしばる音が聞こえてきた。
眼はこれ以上ないほどに見開かれ、眼球が飛び出そうなほど開いた。
黒い肌の義明の顔でその眼球と歯の白さが異様に輝いていた。
額には何本も血管が浮かび、何かの紋様のようにも見えた。
その場にいた全員が失禁した。小便を漏らした。
足が動かない、身体が動かない、頭が動かない、心だけが逃げろ逃げろとサイレンを鳴らし続けている。
遊び半分で絶対に手を出してはいけないモノに手を出した。
皆それが解った。もうこの場から逃げられればなんでもする。どんな事でもする。
とにかくこの場から消えたかった。明日死んでも良かった。
逃げた先で死んでも良かった。とにかく死んでもいいから逃げたかった。
「・・・あややややや・・・」
上島はもう自分が何を言っているのか解らなかった。
生まれたての仔馬のように足がぶるぶると震えだした。
そして義明は顔の下半分を血に染めていった。真っ白い歯が自分の血に真っ赤に染まった。
「がああああああああああああああああああああ!!!!!!」
吠えた。みんな忘我のかなたに行った。全部、上島という人間が吹き飛ばされた。
残ったのはただの棒切れのような自分であった。
・・・野太い、馬鹿気たほどに太い肉の塊が突っ込んできた。
・・・
思い切り叩きつけてやった。腕ごと叩きつけてやった。
殴ってはいない。こんな小さいもの殴ったら壊れちゃう。
やっと俺と遊んでくれるやつだ。大事にしなくては。
「ぎひ!!!」
面白い事を言いながらおもちゃは吹き飛んでいった。
何メートルも吹っ飛んで木に当たって動かなくなった。何かぼきんって音がしたから面白かった。
面白ければ笑わなければ、みんな俺を笑っていたんだ。
だから笑わなくちゃ、
「きひひひ・・・ぎひひひいっひいいい・・・」
何だ思わなくても勝手に出てくるじゃないか。ああ・・・楽しい。
みんな動かないね、ほうら・・・どうしたの?もっと遊ぼうよ・・・
遊んでくれないと・・・壊しちゃうよ、すぐに壊しちゃうよ・・・
握手をしてあげた。面白い友達の手を思い切り握ってあげた。
ゴリぐちゃ・・・
友達の手はとても小さくなって絞った雑巾みたいになった。
「ひぎいいいああああああ!!!」
その声が面白くて頭を撫でてやった。小さい頭だな。すっぽりと俺の手に入るじゃないか・・・
こんなもろそうな頭で、ほらミシミシ言ってるよ。顔中から血を流して、汚いなあ・・
仕方ないから俺が拭いてやるよ・・・
手で拭いたらぼきぼきと何かたくさん折れる音がした。面白くて一杯やってやった。
動かなくなった。もう君はいいや俺は思い切り地面に手で押し付けてやった。
またぼきぼきと音がして体がへこんでいった。面白いな・・・あと何人かやってみようかな。
どすん・・・何かが腕に当たった。とても軽いものだ。
小っちゃい動物が震えながらバットを俺の腕に当てていた。
ダメだよ、そんなもの使っちゃ。俺だからいいけど他の人にしたら大事になるよ。
ほら貸して・・・掴んで引っ張ったら動物の手からぼきんと音がした。もろいなあ・・・
「いぎ・・・・」
いぎだって!!いぎだって!!おもしろーいい!!
「ひひひひひひひ・・・・ぎひひひひひひひ・・・」
もっと聞かせろ・・・いぎって言え!!!
いぎ!!がひ!!あが!!ぐうひ!!
握って動物の手を小っちゃくしていったら何回も鳴いてくれた。
そのうち声も上げなくなった。つまらない。もういいや。
思い切り蹴飛ばしたらどこまで飛ぶかな?やってみるか。
ボゴズ!!!
飛んでった。木にぶつかった。残念、もう動かないからいいや、まだまだ残ってる。
あれ、みんな逃げ出そうとしている。だめだよおおお。逃がさないよおお。
まだまだやめないよおお!!!俺が満足するまでやめないよおお!!!
走って言って思い切り全員の足を蹴ってやった。
みんな吹っ飛んで変な声を上げて動けなくなった。
蹴ったところから白いものが見えている奴も何人かいた。
ちょうど地面に踏み出した時に当たったんだね、残念。
みんな変な声を上げて転がっていた。大丈夫遊んであげるから。
おもいきり遊んであげるから。踏みつけて抱きしめて高い高いしてあげるから。
「ぐひひひひひひひひ!!!!ひははははっははっはあ!!!」
勝手に口から出てくる。イライラが出てくる。
這って逃げようとしてるやつ、お前に決めた。
なんだか変な向きを向いている足を掴んだら、いだあああって叫んだ。
面白いぞ。もっと言え。そのまま思い切り振り回してやった。
ぶんぶん振り回してやった。回せば回すほど面白い声が聞こえた。
そのうち赤い綺麗なものも交じり始めた。
「ははははははははは!!!!あははははははは!!!!」
楽しいいいいいい!!!面白いいいいいい!!!
よーし!!!飛んでいけー!!ははははははは!!!!
凄い飛んでいった!!!ぐちゃって地面にぶつかって変な恰好で寝転がっている!!!
まだいる、まだイライラをぶつけられる奴がいる。
さああ・・・楽しい事をしようか・・・
・・・
・・・・
人が飛んだ。蹴飛ばされて人が飛んだ。
人間じゃない・・・あいつは人間じゃない・・・本当に殺される。
だってあんなに楽しそうに人の骨を握りつぶす奴が手加減なんかするわけがない。
バットで思い切り殴ったのに何にも感じないように怖いくらい優しくそいつの腕を折った。
笑い声をあげながら心底楽しそうに破壊していった。
人が飛ぶ。そんな非現実的な光景を見て身体が動くようになった。
逃げなきゃ・・・逃げなきゃ・・・
足に力なんか入らない、でも必死で逃げた。
ああ・・・あああああ・・・後ろから近づいてくる。
笑いながら近づいてくるううう・・・
宙を回った。空だったものが地面になった。
訳が分からない。足だった所から白い骨が飛び出していた。
「ひいいいいいいいい!!!!」
悲鳴を上げた。あいつはそんな俺たちを見て大笑いしていた。
本当に楽しそうに、子供のように大笑いしていた。
死にたくなった。今すぐ死にたくなった。
あいつに嬲られて死ぬ、いや遊ばれて人間ではなくおもちゃとして扱われる。
おもちゃにしてきた事をおもちゃにされる。
俺達がやっていた遊びをみんなやられる。
なんで俺たちはあいつに構ったようになったんだっけ?
最初はあんな奴どうでもよかったんだ。誰かが・・・
確か小松原朋子とかいう可愛い女があいつを無視しようと皆に言ったんだ。
朋子と仲の良かったやつらだ。そいつらから話しが来たんだ。
俺は無視した。他の小学校から来た知らない奴に
命令されたくなかった。やりたきゃ勝手にやれ・・・
そう思った。
甘い考えだたったらしい。俺まで無視された。
気が付いたらクラスの人間は朋子の言う通りに動いていた。
朋子は明らかに虐めといえる段階を超えたようになって行った。
だからやったんだ。だから俺たちはあいつに手を出したんだ。
俺たちのせいじゃない。それなのになんで俺達は今こんな目に合ってるんだ。
人が飛んでいった。飛んだんじゃない。飛んでいった。
ぐちゃ・・・音がして動かなくなった。俺もあれをやられる・・・
あいつは血まみれの・・・こぼれ落ちそうな笑顔で笑いながら近づいてくる。
「・・・違ううう・・・俺達じゃない・・・朋子が・・朋子が・・・」
もう混乱していた。あきらかに俺達がしたことだが、全部原因が朋子にあるように思えた。
朋子・・・そう聞いた時、あいつはぴくんと反応した。
止まった。反応があった。・・・俺は期待した。
「朋子がお前を虐めろって言ったんだ!!だから俺たちはいじめたんだ!!!だから俺たちは悪くない!!!しょうがなかったんだ!!俺たちも嫌だったんだ!!だけど朋子が・・・」
全部朋子のせいにすれば助かる。
そんな考えで言い続けた。
義明はニタリニタリとそれを聞いていた。静かになった。
・・・助かる・・・生きて帰れる・・・
暗い中、もう夜の世界がこの男にとって不幸だった。
もう少し明るければ、せめて義明をはっきりと見れるくらいに明るければ、
このような火に油を注ぐような事をしなくて済んだのに・・・
「・・・これも・・・朋子がやれって言ったのか?・・・」
「そうだよ!!お前の嫌がることをしてやろうって言って俺たちにやらせたんだ!!!だから俺たちは悪くない!!なあ!!一緒に朋子をぶち殺そうぜ!!手伝うからさ!!!」
「・・・そうか・・・そうか・・・我慢しないでぶち殺しておけばよかったんだなあ・・・俺のせいで茂田さんこんなになっちゃったんだなあ・・・」
「そうさ!!!だから一緒に朋子をぶち殺そうぜ!!みんな手伝うからさ!!!」
「・・・本当にぶち殺しておけば良かった・・・」
ゆっくりと義明は近付いてきた。
そして穏やかな声で言った。
「ありがとうな・・・教えてくれて・・・」
そう言って抱きかかえた。その男だけではなかった。
合わせて三人もの男を一緒に抱きかかえた。
70㎏程の成人男性三人を軽々と抱きかかえたのだ。
「・・・本当にぶち殺しておけば良かった・・・お前ら全員・・・」
にっこりと優しく義明は笑った。
・・・え・・・・
ごきゅ・・・・
「ふぎゅ・・・・・」
肺から空気を無理やり絞り出された。体を何か太いもので押しつぶられようとしていた。
義明は思い切り抱きしめた。力いっぱい抱きしめた。
洗濯機を絞め潰せる義明である。
人間の体など造作もなく押しつぶせる。
手と足の先をバタバタ動かしながら三人は血を吐き始めた。
声など出せない。空気がないのだ。体の中からバキバキと絶え間なく音が鳴っていた。
そのたびに口から、鼻から、耳から血が溢れてきた。
やがて、タコのような身体になった三人を離した。
ビクンビクンと震えていた。
残りの人間は丁寧に手足を潰していった。カエルのような声で泣き続けた。
やがてだれの声も聴けなくなった。
・・・・そうか・・・あいつのせいか・・・小松原朋子・・・
・・・一番でかくて臭いゴミ・・・ゴミ・・・ゴミ。ゴミ。
「ぐうああああああああ!!!」
義明は叫び、衝動的に近くの木を殴りつけた。
大きな音を立て木はめきめきと折れた。殴りつけた手は血まみれだった。
拳が裂けて骨まで見えていた・・・一切感じなかった。
真っ赤だ、まっかだ、マッカダ・・・・
何も見えない、マッカダ・・・
感じない・・・マッカダ・・・
小松原朋子・・・マッカニシテヤル・・・
一瞬忘れたイライラはかつてない規模で義明を襲った。
痒くて壊れそうだった。体中をイライラが這っていた。
「ごまづばらどもごーーーー!!!!!」
義明は夜の動くものが誰もいなくなった公園で吠えた。
やがてサイレンの音が聞こえてきた。
その時には義明の姿は消えていた。
妹さんの運命やいかに・・・




