狂獣・・・覚醒
すいませんもう一回続きます。なんかこっちが主人公でもいい気がしてきました。
中学を卒業した。
高校にはいかなかった。
集団に居たらもう抑えが効かなかった。
これ以上イライラをとどめておくのが限界だった。
「ふう~・・・ふー・・・がふー・・・」
気が付けば自分の口からそんな息が出ていた。
イライラで目の前が赤く染まりかけていた。
気が付けば何かを殴っていた。だから義明は人のいる所に行かなかった。
自分でもどうしようもなかった。どうすれば止まってくれるのか解らなかった。
孤児院は出てしまった。年齢制限の事もあるが一番の理由は一緒に居ると衝動的に殺してしまいそうだったからだ。孤児院のみんなはお別れ会を開いてくれた。
・・・もう何も感じなくなってきている自分がいた。
ただ溢れてくるイライラに全部支配されそうだった。
死ぬしかない・・・義明はそう思った。
このイライラを消すためには死ぬしかないと考え出した。
だが義明の強靭な身体は強かった。
「あがああああ!!!ぬぐああああああ!!」
毎日毎日ゴミや木を殴り続けた。
殴り続ければ死ぬと思っていた。勝手に自分が死んでいくと思っていたのだ。
死ななかった。死ねなかった。
イライラが止まらない。目の前は真っ赤だ。腹は煮えたぎっている。
腕が言う事を聞かない。聞かせるつもりもない。狂え・・狂え狂え狂え狂えクレクレk瑠絵
ゴミの山はさらなるバラバラのゴミとなった。
血は真っ赤だ。木は真っ赤だ。眼は真っ赤だ。ゴミも真っ赤だ。
全部全部真っ赤だ。勝手に口から笑い声が出ている。
母が死んだ時に出したあの声だ。
腕が千切れそうだ。千切れてしまえ。そして死ね。
胸が張り裂けそうだ。張り裂けてしまえ、そして死ね。
腰が砕けそうだ。砕けてしまえ、そして死ね。
足は破裂しそうだ。体ごと破裂しろ。そして死ね。
あた、頭が焼ききれそうだ。とっくに焼ききれている。だから死ね。
「ひはははははははっは・・・ぎががっががgっがががはははははははは・・・」
義明は自分が死ぬために人間以外の全てにイライラをぶつけ始めた。
・・・中卒でも雇ってくれる土建屋で働き始めた。
身体を動かしていれば何とか気がまぎれた。
イライラをつるはし、スコップに込めて土を、何かを壊すことに使うと気がまぎれた。
イライラとは蟲のようなものだった。
自分の身体の中を這いまわる無数のイライラという名の蟲だった。
イライラは絶え間なく体を這っていて義明という人間を食いつくそうとしていた。
現場のみんなは厳しくも優しかった。
同じ中卒で働いている奴らもいた。
聞いてみると皆義明ほどではないが酷い人生を送ってきたらしかった。
誰も義明を馬鹿にしなかった。
・・・イライラはおさまらなかった・・・
変わらず体の中を這いまわり続けていた。
仕事のみんなの前では何も出さないようにした。
仕事が終わると一人で過ごした。見つけたゴミ捨て場に向かった。
ゴミ捨て場のゴミが好きだった。この大きいゴミが自分のようだと思うと安心した。
無駄に大きい、力だけはあるゴミ。自分だった。
義明は自分のようなゴミに力いっぱい負けることのない、大きな自分というゴミをぶつけることしかできなかった。
ゴミはゴミ同士・・・お互いに食い続ければいい・・・
そう思う事でしかイライラはおさまる気がしなかった。
収まらなかった。日々強くなっていた。
「ふーー!!!!ふーーーー!!!!がふーーーー!!!!!!!」
何とか自分のイライラを仕事にぶつけていた。
だんだん我慢が効かなくなっていた。
皆の前で取り繕うのが限界に近づいていた。
成長期は終わらなかった。身長は195㎝、体重は140㎏まで増えていた。
仕事場ではみんなが義明を頼りにした。仕事場での評価は高かった。
高まる評価とは逆に義明は抑えられなくなっていった。
死ねない・・・殺してしまう前に死ねない・・・どうすれば死ねる。
仕事場のみんなを守れる・・・どうすれば俺から守れる・・・
義明は狂う寸前だった。イライラの蟲に食いつくされそうだった。
ぶっ殺させてくれ、俺を。
殺してくれ、俺を。
食いつくされる前に殺してくれ・・・
もう休憩時間も他人と居れなかった。取り繕った顔で思い切り殴り殺してしまいそうだった。
休憩時間は一人になり、自分を殴って何とかごまかしていた。
ゴミが殴れるのはゴミしかない。
一番大きなゴミは自分だった。だから自分を殴るしかなかった。
「ふうーーー!!!ふーーーー!!!ぎぎっぎぎぎっぎぎ・・・」
毎日ゴミは大きなゴミを殴り続けた。
ある時、義明が公園で休憩しているとホームレスが洗濯をしていた。
真っ赤な世界で解った。
・・・一目で解った・・・茂田さんだった。
髪の毛がだいぶ白くなって、痩せているが茂田さんに間違いなかった。
自分が間違えるわけがなかった。
「・・・茂田さん・・・」
ビクンと身体が震えて茂田さんは振り返った。
「・・・義明?」
「・・・そうだよ・・・義明だよ・・・」
茂田さんは泣きながら義明に抱き着いてきた。
義明は全てが消えた。茂田さんが触ってくれたことで消えてしまった。
こんなに小さかったのか・・・こんな小さな体で俺を守ってくれてたのか・・・
茂田さんは義明に謝り続けた。
俺が情けないばかりにお前に苦労を掛けた・・・
俺がもっとまともに生きていたら・・・
茂田さんは小さな体を震わせて謝り続けていた。
義明はそんな茂田さんに大きくなった身体で赤子のように縋り付いた。
「・・・茂田さん、俺ね、茂田さんのおかげで生きてこれたよ。」
「茂田さんが言ってたこと守って生きてこれたよ、それで中学も卒業できた。」
「俺、茂田さんが居なきゃダメになってたと思うよ。だから茂田さん、謝らないでくれよ、胸を張ってくれよ。茂田さんは俺を助けてくれたんだからさ・・・」
ボロボロ泣きながら義明は言った。感情をもって泣くことなど忘れていた。
義明は肌身離さず持っていたペンダントを茂田さんに見せた。
茂田さんは嬉しそうな顔で懐に手を入れた。もう手垢で汚れ切った物だった。
茂田さんは義明とおんなじ写真を懐から出した。
義明はもうだめだった。親を見つけた迷子のように縋り付いて泣き始めた。
それから二人でずっと話し続けた。
義明は毎日仕事が終わると茂田さんの所へ通った。
茂田さんと会うとイライラが消えて行くような気がした。
全部元に、茂田さんが初めてラーメンを、暖かいものをくれた時の気持ちに戻れた。
・・・それが義明の感じた幸せだった。
そんな姿を中学の同級生の男が見つけた。
高校もドロップアウトして、やることもなくぶらぶらとうろついている時、中学でいいおもちゃだった身体がでかいだけの奴を見つけた。
その男は同じような仲間をたくさん知っていた。
皆中学で義明を虐めていた仲間たちだった。
みんな上手く高校生活を送れず、やることもなく日々を送っているだけの集団だった。
あいつが何もできないのはみんな知っている。
どうやら働いて金も稼いでいるらしい。
いい金づるを見つけた。ついでにまたおもちゃにしてやろう・・・
男の名前は上島と言った。
上島は仲間を集めた。
そして仲良くしているホームレスをぼこぼこにしたうえでまた義明をおもちゃにしてやろうと考えた。
皆ストレスが溜まっていたのである。
中学時代は義明がいたからストレスなど感じなかった。
勉強や受験でたまったストレスをみんなぶつけられたのである。
高校に入るとそんな存在はいなかった。
上島は自分のストレスを発散する方法をいじめ以外に考え付かなかった。
そして我慢できずに暴力事件を起こして退学になった。
皆同じような理由で退学になった。
そんな集まりだったのだ。当然荒れた。好き放題にした。
もう家族からも見放され始めてきた。
上島は義明のせいにした。あいつが居ればこんな事にはならなかった。
おとなしく俺たちのおもちゃになってればよかった。
勝手にどこかへ行きやがって、おかげで俺が高校を辞める羽目になった。
全部あいつのせいだ。
身勝手な考えは全員に共通していた。10人は集まった。
手当たり次第に連絡を付けてそれだけ集まった。
だから義明が一番苦しい方法を考えたのである。
仲良くしているホームレスをぼこぼこにしたうえで嬲ってやろうと思った。
自分たちが受けた屈辱を何倍にもしてやってやろうと思った。
皆すぐに集まった。行き場のない不満をぶつける相手を、義明を探していたのだ。
いつもあいつは夜に来る。だからその前にやってやろうと思った。
ホームレスはすぐに見つかった。
汚いねぐらで何か写真を見てニヤニヤしていた。
もう日も暮れて誰もこの公園には近づかない。
一応誰か来ないか仲間の一人に見張らせていた。
上島はホームレスのねぐらを持ってきたバットで思い切り叩き壊し始めた。
段ボールとビニールシートで作られたねぐらはあっけなく破壊された。
ホームレスは何が起きたか解らないような顔で間抜けに座っていた。
汚らしい、痩せた年おいた男だった。
上島はいきなり何も言わずにホームレスの顔を蹴飛ばした。
2メートルぐらい吹っ飛んでホームレスは地べたに転がった。
ホームレスのいた場所に白いものが転がっていた。
蹴った時に歯が折れたらしい。そのまま数の暴力に訴えホームレスを嬲った。
「・・・しあき・・・よし・・・」
何かぶつぶつとつぶやいていた。関係なかった。
ただのおもちゃ、そんな感情しかなかった。
やっと見つけた楽しいおもちゃ、嬲る事しか頭になかった。
「・・・よう、汚いの。お前なんでこんな目に合ってるか解るか?」
上島はホームレスの頭を踏みつけながら訪ねた。
「・・・わからな・・・い・・・なんで・・・」
「俺たちがむかついてるからだよ!!バーカ!!!」
上島は足を振り上げ思い切り頭を踏みつけた。
ぐちゃっと嫌な音がした。
そのまま胴体を蹴り上げて仰向けにした。
ホームレスは顔中から血を流して泣いていた。
「・・・なんだ?泣いてんのか?いいぜ、泣けよ、もっとみっともなく泣いちまえ!!」
ホームレスは不明瞭な声で、それでもはっきりとした声で言った。
「・・・かわいそうな子たちだな・・・」
「・・・ああん・・・」
「こんなことでしか自分の気持ちを解消できないのか・・・情けない・・・」
「・・・てめえ・・・もう一回言ってみろ・・・」
「悪い事は言わん・・・すぐに離れなさい・・・もうすぐ義明が来る・・・あいつはずっと我慢してたんだ。殺される。君たちにも親はいるだろう・・・親を悲しませることになる前に逃げなさい・・」
上島は無言でバットをフルスイングした。ホームレスの腕に当たってぼきんと音がした。
ホームレスはそれでも上島に話しかけた。
「逃げろ・・・何とか俺がごまかしてやる・・・だから・・・義明から逃げろ・・・」
義明から逃げる。それは上島が一番許せないことだった。
義明はあくまで体のいいおもちゃだった。そうでなければならないのだ。
自分の為に都合のよく存在している人間。
皆そうだった。そしてそこまでするつもりもなかった暴力をホームレスに振るい始めた。
ぼきん・・・ごきん・・・ホームレスの身体から不気味な音が響き続けた。
「ぎゃはははははははははははははははははは!!!!!!!」
集団の暴力は一人の小さな老人のホームレスを飲み込んでいった。
ぼきん・・・最後に音がしてホームレスが動かなくなった・・・
上島は気が付かなかった。気が付いた時には遅かった。
ビクン・・・ビクンとホームレスの身体が震えていた。
殺すつもりはなかった。ただある程度痛めつけて義明に見せれれば良かった。
死んでしまったのかもしれない・・・
誰が殺したのか解らなかった。いつの間にか見張りに立っていた人間も暴行に参加していた。
そして重い、巨獣の足音が近づいてきた。
「茂田さーん、今日は塩ラーメンにしたよ。肉もいっぱい買ってきたから今日は塩鍋にしよう、俺はまだ飲めないけど酒も買ってきたんだ。だから今日は・・・」
今日は義文の17歳の誕生日だった。祝ってもらおうと小さな二人分のショートケーキも買ってきた。こっそり後で出すつもりだった。茂田さんに祝ってもらいたかった。頑張ってコンビニではないちゃんとした洋菓子屋から買ってきた。誕生日だと言うと店員のおばさんは丁寧にラッピングしてくれてリボンも結んでくれて蝋燭も二本くれた。
「おめでとう。良かったね。」
おばさんは嬉しそうな笑顔でそう義明に言ってくれた。
義明はケーキを出した時の茂田さんの顔を思うだけで嬉しくなった。
おめでとうと言われた。そして茂田さんが一緒に祝ってくれる。
義明の最高の一日になるはずだった。後は茂田さんが居ればそれでよかった。
茂田さんに生まれてきた事を認めてほしかったのだ。祝ってほしかったのだ。自分が生きていていい事を確認させてほしかったのだ。他でもない茂田さんだから義明と一緒に生まれた日を祝ってほしかったのだ。
そして義明が見た茂田さんは、
たくさんの若い男に囲まれて血だらけになって体がおかしい方向に向いて
ビクン、ビクントハネテイルモタサンダッタ・・・
・・・・・・ぶちん・・・・ぶちぶちぶちぶち・・・・・ぶつぅぅぅぅぅぅん・・・・ガリガリ・・・ゴキン・・・びきいいいんんんんんんんん・・・・・
大きな・・・取り返しのつかない何かが義明の中で千切れた音がした。
枷が千切れて飛んだ音がした。優しく守ってくれている枷が千切れた音がした。
「・・・ふぅううーーーーーー!!!!huxuuuuuuuuuu---!!ふぅうううぅううぅぅううぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅうぅぅぅうぅぅxxxxxxxxxx--------------!!!」
真っ赤に染まった。今までとは比べ物にならない位真っ赤になった。何も見えなくなった。
そして惨劇が始まった。生まれて初めて手加減なく自分以外の生きたゴミに向かって義明は突貫した。
義明は狂った。
次回、狂います。書き手が納得できるまで狂う予定ですので少し時間がかかるかもしれません。申し訳ありませんがご理解をお願いいたします。




