都築義明
一応ラスボス予定です。いやあ・・・どうしましょうね・・・
都築義明
17歳 身長198㎝ 体重150㎏
巨大な体躯と力を持っている大男。
彼は日米のハーフとして生まれた。
父親は誰だか解らない。母がたまたま派遣の軍人との遊びでできた子供だった。
都築ができた事で母は実家から勘当された。
どこの誰とも解らない子供、しかも日本人でない子供。
自ら快楽に溺れて作った子供。
母は大事に育てられてきた。実家も裕福だった。
だからこそ許されなかった。義明の存在が許せなった。
しかも母は婚約していた。その相手を裏切って義明をはらんだ。
実家は母を見捨てた。不義を犯した母を切り捨てた。
義明を孕んでいることが解った時には堕胎するには遅すぎた。
母は全部自業自得の末捨てられた。
慰謝料は全て実家が払い、母には当座の生活費だけ渡されて縁を切られた。
生まれたばかりの子供、そして未婚の母。
一目で日本人とは違う風貌の子供。
そんな子供を持つ母がまともに働けるわけはない。
母は風俗で働き始めた。最初はキャバクラ。
そしてどんどんと転がり落ちるように性風俗の店へと移動していった。
義明は託児所にあずかられきりとなっていた。
三歳になった義明は母と小さなアパートで住んでいた。
母は毎日夜働いている。義明は母が自分の為に苦労していることが解った。
だから日中声を出さないよう、音を立てないよう気を付けていた。
空腹にお腹が鳴るときも体を丸めて必死に隠した。
母はパンやおにぎりを買ってきてくれた。
毎日酔って帰ってきて玄関に買ってきた袋を投げ出して布団に潜り込んで寝た。
6歳になった。
保育園など行けなかった。そんな余裕はなかった。
いつも母は機嫌が悪かった。二日酔いとストレスでいつも真っ青な顔をしていた。
酒とタバコ、汗の匂い、部屋が小さいためトイレの匂いも充満していた。
義明はそんな6畳ほどの部屋で膝を抱えて音を出さないように座っていた。
昼は母が寝ているために起こさないように静かにしているしかなかった。
母が仕事に行ったあと幼い義明は頑張って部屋を掃除した。
帰ってきて母が褒めてくれるかもしれない。
そう考えて部屋を掃除した。小さなアパートには風呂はなかった。
母は仕事場で体を洗ってくるが義明は小さなキッチンで毎日冷水で体を洗っていた。
冬場は辛かった。暖房機器は母がいるときにしか使えなかった。
灯油がもったいない。火事になったらどういうつもりだ。
一回義明がヒーターを使った時にそういわれて殴られた。蹴られた。
それから義明は冬の夜は身体を洗えなかった。毛布にくるまって耐えていた。
あるとき母が毛布が臭いと言って義明に火のついたタバコを押し付けた。
何日も着たきりの汚いトレーナーとジャージ、身体から漂う匂い。
この日から母の態度は一層冷たくなっていった。
義明は父親である黒人似であった。そのことがなおさら母が気に入らなかったのだろう。
いつしか・・・お前のせいで・・・お前のせいで・・・
そう母は義明を見ながら言い続けるようになった。
義明は何も言い返せなかった。お母さん、そういいたかった。
母の視線は義明を拒絶していた。
・・・我慢できなくてお母さんとつぶやいた。
母は無表情になり義明を掴み上げると外へ放り出してドアを閉めた。
ごめんなさい、ごめんなさい。義明はドアを叩きながら必死に謝った。
そしてドアの前で泣き続けた。
夜まで泣き続けた。母の出勤の時間になった。
ドアが開かれて母が姿を現した。
母は義明を睨みつけて
「・・・二度と言うな・・・」
そう言った。義明は部屋へ入れてもらった後泣き続けた。
母が帰ってくるまで泣き続けた。体が臭いから嫌われるのかもしれない。
僕が母と肌の色が違うから嫌われるのかもしれない。
泣きながら冷たい水で体を洗い続けた。硬い亀の子たわしで体をこすり続けた。
落ちなかった。自分の身体の色は落ちなかった。
血が出てもこすり続けた。寒い思いに耐えながら身体中血を流しながらこすり続けた。
落ちない・・・落ちない・・・
義明は泣き続けた。
流れた血は母が帰ってくるまでに義明が全部綺麗に掃除した。
冷たい水と流れた血は義明の体温を容赦なく奪っていった。
汚い雑菌だらけのたわしから菌が入ったのだろう。
義明は高熱を出して動けなくなった。ぶるぶると身体を抱えて蹲る事しかできなくなった。
母が帰ってきた。どんな存在でも今の義明には救いの神に見えた。
これで病院に連れて行ってもらえる・・・
薬を飲んで休める・・・
「・・・なんだこのガキ?きったねえ・・・」
母の後ろからチンピラのような男が出てきた。
義明は訳が解らなかった。
「・・・どうでもいいわよ、こんなガキ、本当にこいつさえいなければ・・・」
母は震える義明を掴み、外へと連れだした。
「・・・これで夕方まで時間を潰してきなさい。絶対に帰ってくるなよ。」
千円札一枚渡されて追い出された。
義明は崩れそうな身体を支えながらなんとか公園にたどり着いた。
そして公園のベンチで横になって体を丸めた。
死ぬ寸前だった。
「・・・おい」
誰かが話しかけてくれた。
・・・公園に住み着いているホームレスだった。
ホームレスは毛布を掛けてくれた。暖かかった。
「うあああああ・・・・」
義明は泣き出した。ホームレスは戸惑った。
必死で義明をあやそうとしていた。
ホームレスの名前は茂田さんと言った。
茂田さんは義明のために薬を買ってきてくれた。
小さい茂田さんの家へと入れてくれた。
本当に小さい、段ボールとビニールシートで作られたボロボロの住処。
そこが義明には何より暖かく優しかった。
茂田さんがカップラーメンを作ってくれた。
何よりも美味しかった。ずっと冷たいパンとおにぎりしか食べてこなかったのだ。
泣きながら食べる義明を見て茂田さんは頭を撫でてくれた。
茂田さんは優しかった。
何も言わない義明に色々と話してくれた。
茂田さんは昔、建設会社の社長をやっていたらしい。
羽振りも良く、家族も妻と子供が3人いたらしい。
義明に身の上話を聞かせてくれた。
頑張って働いていたが妻の裏切りに会って全部失ったらしい。
何もかもがどうでも良くなって全部捨ててしまったらしい。
茂田さんは孤独になった。孤独が好きになってしまった。
だから孤独に耐えていた義明が気になったらしい。
「頑張ったんだなあ、偉いぞ。」
義明の頭を撫でてくれながら茂田さんは言った。
義明は茂田さんの汗くさい身体に抱き着いて大声で泣き始めた。
そして茂田さんと一緒に寝た。
茂田さんは一生懸命義明を看病してくれた。
決して多くない自身のお金を使って義明の薬を買ってきてくれた。
3日後、義明は回復した。
茂田さんはまたラーメンを作ってくれた。
鍋に肉や野菜を入れたごちそうと言えるラーメンを作ってくれた。
生きてきて一番美味しかった。
「辛かったらいつでもおいで、何にもないけどラーメンぐらい食わせてやるから・・・」
茂田さんはそう言ってくれた。
泣きながらお礼を言って義明はアパートへ帰った。
母は何も義明に関心を示さなかった。
子供がいなくなってもどうでもいいと言った態度だった。
連れ込んだ男に熱を上げて義明などどうでも良かったのだろう。
男と電話していて義明を無視していた。
母が仕事に行った後は茂田さんに会いに行った。
茂田さんについてどこでも行った。
空き缶を拾った。食べるものを探した。
一緒に粗末だが暖かいご飯を食べた。
母からもらう小遣いを溜めていた。
溜めた小遣いで茂田さんに毛布を買った。
それにくるまって茂田さんと話すことが一番の楽しみになった。
義明は10歳になった。
通っていた小学校ではいじめられていた。
肌の色が違う、貧乏である、片親である、口下手である、
義明の全てが子供たちの虐める理由になった。
そこに理由などなかった。いつも呼び出されていじめられた。
ハーフである義明は身体も大きかった。
周りの子たちより頭一つ分は大きかった。そして何も抵抗しなかった。
毎日茂田さんに慰めてもらった。
茂田さんは言ってくれた。
「お前は間違っていない、いつか解ってくれる人が現れる。頑張れ、辛くても頑張れ、何時でも来い。俺はいつでもここに居る。大丈夫だ。お前は大丈夫だ・・・」
「正しい事はいつか報われるんだ。俺が言ってもしょうがないかもしれないけれどお前は一生懸命生きている。だから頑張れ、泣きたくなったら泣け、でも決して暴力に訴えるな。そんな事をしたらそいつらと同じになっちまうぞ。」
「今、お前は人生で一番つらい目にあっているんだ。母ちゃんが憎いだろう・・・でも母ちゃんも辛いんだ・・・もう少し、もう少し立てば母ちゃんもお前に優しくなってくれる。だからもう少しだぞ。」
茂田さんはいつも義明を励ましてくれた。力づけてくれた。
それは義明の生き方になって行った。
母も義明が強く正しい事をしていれば優しくしてくれるかもしれない。
正しく頑張っていれば変わってくるかもしれない。
茂田さんが言ってくれると本当にそういう風になって行く気がした。
勇気をもって母に大好きだと言ってみよう。
また怒られる事になるかもしれないけれど、言ってみるんだ。
頑張って言ってみるんだ。
義明はアパートへ歩き出した。
部屋へ入ろうとすると中から怒鳴り声が聞こえてきた。
「なんでよ!!!結婚してくれるって言ったじゃない!!!」
「どこの世界に子持ちの性格の悪い年増と本気で結婚する馬鹿が居るんだよ!!散々楽しませてやったんだ!!感謝されこそされてめえみてえなババアになんか言われる筋合いはねえぞ!!」
「あんた!!!騙してたの!!!あたしを騙してたのか!!!」
「騙してねえ!!!てめえが勝手に勘違いしただけだろうが!!俺は最初から結婚なんてする気はなかったんだよ!!もうお前に飽きたんだよ!!!さよならだ!!バーカ!!!」
「てめええええええ!!!」
ガシャン、ガタガタ・・・・激しい物音が聞こえた。
「何しやがる!!!この糞アマ!!」
「殺してやる!!!殺してやるーーー!!!!」
「う、うわああああ!!!」
バーンとドアが開いてチンピラみたいな男が飛び出してきた。
腕から血を流していた。男は必死で逃げていった。
「待てー!!!!!!」
血に染まった包丁を持って母が飛び出してきた。
すさまじい顔をして男を追いかけて出てきた。
「・・・あ・・・お母さん・・・大好・・・」
「邪魔だー!!!」
ザク・・・顔を何か熱いモノが走った。
・・・え?
ドゴ・・・思い切り蹴られて柵に叩きつけられた。
義明は柵に蹲ったまま何も言えなくなった。何も考えられなくなった。
母親はそのまま男を追いかけていった。
どれくらいたったのだろう・・・
影が差した・・・目を上げると母が幽鬼のような顔で立っていた・・・
「・・・へへへ・・・へへへ・・・ふふ・・・うふふふ・・・」
母はそのまま部屋へ入って行った。
義明は身体が動くまでじっとしていた・・・
顔が熱くてたまらなかった。
骨が折れているのか酷く胸が痛んだ。
お母さん・・・お母さん・・・
必死で部屋の中へ入った・・・
母はいた・・・宙に浮かんでいた。
色んなものを身体中から出して宙に浮かんでいた。
「・・・はははははは・・・あはははははははははははは・・・・・お母さん・・・変な恰好・・・あははははははは・・・お母さん大好き・・・お母さん・・・大好き・・・お母さん大好き・・・・あははははははははははは・・・お母さん・・・変な恰好・・・あははははははおかしい・・・」
義明は笑い続けていた。涙などでなかった。
何故かは知らないが笑い声だけが出てきた。
やがて救急車とパトカーがやってきた。
義明はそのまま病院へ連れていかれた。
笑い続けたまま連れていかれた。
顔は包丁に切られて一生傷が残るそうだ。
胸はあばらが何本も折れていたようだ。
関係なかった。笑い声だけが出続けた。
「あははははははは・・・・はははははははは・・・・ははは・・・はははははははは・・・」
鎮静剤を打たれて義明は眠った。
気がついても何も感じなかった。病院のベッドで笑い続けていた。
見舞いに来る人などいるわけがなかった。そんな付き合いなどなかったのだ。
自分も、母親も人づきあいなどなかった。母親の両親さえも来なかった。
義明は改めて世界に自分は一人だと感じた。
悲しくもなかった。何も感じなかった。
そして義明が入院して1週間後、見舞いがきた。
茂田さんだった・・・いつもとは違うこぎれいな恰好をした茂田さんだった。
茂田さんは見舞いに来るために必死で日雇いで働いて服と散髪、入浴をしてきたらしい。
そして見舞いの品として小さなペンダントをくれた。
そして恥ずかしそうに、小さな使い捨てカメラを取り出した。
「遅くなってすまん・・・ちょっと色々手間取っちまってな・・・お前に何が要るのか考えてたら遅くなっちまった。」
照れながら頭をかいた手はもう落ちない汚れにまみれて黒くなっていた。
どれだけ茂田さんがここに来るのに頑張っていたか一目で解った。
孤独を選んだ人間、全部捨てた人間が日雇いで働いて、栄養不足で満足に動かない身体で必死に力仕事をやり自分に会いに来てくれた。
どれだけの人に馬鹿にされたのだろう・・・怒鳴られたのだろう・・・
茂田さんはそれでも義明に会いに来てくれた・・・
「・・・俺・・・あんまり頭が良くないからさ、お前に必要なものが何なのか今いち解らなくてさ・・・だから、思い出を作れればって思ってカメラ買ってきたんだけど・・・場違いだったな・・・」
茂田さんはそう言って照れながら頭をかいた・・・
義明は忘れていた涙が溢れてきた。笑い声も止まっていた。
「・・・茂田さん・・・茂田さあん・・・」
義明はそれしか言えなかった。
「・・・義明・・・辛かったな・・・頑張ったな・・・」
茂田さんは義明を抱きしめた。頭を撫でてくれた。
いつもの茂田さんとは違う石鹸と男の匂い、そしてかすかに匂う大好きな茂田さんの匂い。
・・・お父さん・・・
義明は心の中でそう言った。
「・・・おれ・・・撮りたい・・・茂田さんと一緒に撮りたい・・・」
「・・・そうか・・・そうか。俺と撮りたいか・・・そう言ってくれるのか・・・義明・・・」
茂田さんも泣き始めた。
看護師さんに頼んでベッドに二人で腰かけて取ってもらった。
義明は顔に包帯を巻いていた。
茂田さんは顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。
しかし二人とも今できる最高の笑顔で写真に納まった。
不細工で、満たされた二人の姿が写っていた。
まだ都築君の話は続きます。




