竹原と出会い
ラスボス登場の回です。多分・・・だといいな・・・
竹原は荒れていた。
学校では竹原は王であった。
何をしても良かった。誰も竹原に逆らえなかった。
気に入らない奴はぼこぼこにしてやった。
竹原の信じるものは自分の強さだった。
学校では誰にも負けなかった。
自分は強いそれを実感して歪んだ愉悦に浸っていたのだ。
それが全部消えた。隆文に何もできずに負けた。
遥かに弱いと思っていた柴田に一撃で反吐をはかされた。
みじめに地べたを這いずり回った。
しかも柴田はほとんどの罪をかぶって少年院へ行った。
竹原は学校からも周りにいた人間からも放り出された。
菜穂子に電話しても出なかった。
竹原は一人きりになった。
・・・自分は強い・・・自分は強い・・・
毎日ぶつぶつと繰り返しつぶやいていた。
やがて竹原は街に出た。毎日強さを確認するために喧嘩に明け暮れた。
誰か得構わず喧嘩を吹っ掛けた。
強そうな人間、自分の強さを実感できる人間。
自分よりはるかに弱そうなやつには構わなかった。
自分より体の大きな人間、背は低くてもしっかりと筋肉がついている人間、格闘技をやってそうな人間、そんな人間を見つけたら喧嘩を売った。
竹原が求めていたのは自分の強さの確認だった。
特に金銭を奪ったり、必要以上にぼこぼこにすることはあまりなかった。
竹原は街で無敵だった。柔道とコンクリート、最悪な組み合わせだった。
一度コンクリートに叩きつければそれでほとんど終わった。
柴田にやられたことで打撃の恐ろしさも解っていた。
一撃で行動不能になる打撃があることが解った。
空手、ボクシング、キック、そういうやつにはうかつに近づけなかった。
急所を守りながら必死でしがみついた。
組んでしまえば好き放題に出来た。絞め落として、関節を極めた。
・・・俺は強い・・・俺は強いんだ。
竹原は歪んだ笑みを浮かべていた。
警察を呼ばれたことは一度や二度ではなかった。
なんとか逃げ出した。
ある時、ゲーセンでたむろしている不良の集団に喧嘩を吹っ掛けた。
どこかの愚連隊?のような集団だった。
関係なかった、竹原はそれほど血に飢えていた。
己の強さを示せる存在、獲物、それだけを求めていた。
その集団は竹原の挑発にすぐに乗ってきた。
路地裏の小路に連れ込まれて囲まれた。
相手は4人だった。同じチームで動いているらしかった。
人数は多くない、小路だったら人数の多さも何とかなる。
壁や地面に頭を叩きつけてやれば何も言わなくなる。
竹原はつっかけた。
いきなり拾っていたビールの空き瓶で思い切り一人目を殴りつけた。
それで一人沈んだ。
二人目は襟を引いて足を崩して勢いよく壁に頭を叩きつけた。
二人目も沈んだ。
三人目は竹原にしがみついてきた。
羽交い絞めにしようとした。
柔道の猛者である竹原にはちょうどいい体勢になった。
そのまま腰を沈めて背負って投げた。
さすがにアスファルトの地面に頭を叩きつけるのはやめて背中から叩きつけた。
それで悶絶して三人目も沈んだ。
四人目は誰かに連絡を取っているようだった。
スマホで必死に早く来てくれと頼んでいるようだった。
竹原はその電話が終わるのを待ってやった。
暴れられるのならそれでいい。竹原は仲間が来ることを喜んだ。
電話が終わった。
「・・・終わったか?」
竹原は四人目の男に聞いた。
「・・・お前はもう終わりだ。絶対に勝てない人を呼んじゃったからな。」
「へえ、何人呼んだ?」
「一人だ・・・」
「一人?それで大丈夫なのか?もっと連れてきてもいいんだぜ?」
「その人が来れば全部終わりだ。絶対に誰も勝てない人なんだ。お前も強いが次元が違う。その人は俺たち仲間がやられたら絶対に許さない人だ。今回はお前が無理やり因縁をつけてきた。俺たちはここまでする気はなかった。ただお前が謝ればそれで終わらせるだけだったんだ。でもお前は問答無用で俺たちの仲間を倒した。」
「不良を気取っているくせにずいぶん優しいんだな。馬鹿くせえ。勝てなかったからって文句言うなよ・・・喧嘩はなんでもありだろうが、てめえらが間抜けだから悪いんだよ。」
「俺たちは不良だ、屑だ。でも最低限のルールはある。喧嘩は大好きだ。だけどな、喧嘩ってのはふいうちじゃねえ。戯言だってのは解ってる。でも俺たちはそれが好きくねえ。やるときはタイマン、今回だってお前がいきなり手を出さなければタイマンでやるつもりだった。まあ囲った時点でいいわけだがな。単純にお前が少しでも話が通じるような奴だったら俺たちは何もしなかったんだよ。でもお前はいきなりビール瓶で殴りつけた。無抵抗な人間を壁に打ち付けた。」
「・・・喧嘩だろうがよ・・・一人対四人当たり前だろう?そうしないと俺がぼろくそにやられるかもしれなかったろうが。」
「その通りだ。だから今回は俺たちにも非がある。だからお前がやった事は忘れてこのまま帰ってもいい。俺達の頭はそういう所に厳しいからな。今頭を呼んだが、お前がこのまま帰るのなら俺から状況を説明してなかったことにもできる。俺たちの頭は強い、お前よりはるかに強い。どうする?」
「・・・決まってるだろうが。」
竹原は四人目に突っ込んだ。
四人目、添島という男は竹原を向かい打った。
添島はキックボクシングをやっていた。
強烈なローキックで竹原の腿を打った。
竹原は左足が消えたように感じた。
添島はそのまま崩れた竹原にハイキックを打ち込もうとした。
竹原は崩れる身体をさらに加速させて沈み込んだ。
わざと力を抜いて沈み込ませた。ハイキックは空を切った。
そして添島に致命的な隙を与えてしまった。
竹原はそのまま添島に組み付いた。引き倒した。
倒した以上竹原の独壇場であった。
馬乗りになって殴り続けた。
添島も抵抗したが下からのポジションでは力が入らない。
最後には竹原が腕ひしぎに固め、添島の腕を破壊した。
絹を裂くような声を上げて添島は動かなくなった。
竹原はやっと感覚のもどってきた左足を抑えながら立ち上がった。
危なかった、もし一瞬でも身体を下げるのが遅ければここで寝ていたのは竹原だっただろう。結果は竹原の勝ち、しかしもう一度この男と戦ったら勝てるかどうか解らなかった。
でも勝ったのは自分だ。強い・・・自分は強い。
竹原は雄たけびを上げた。
「うおおおおおおおおおおお!!!!!」
雄たけびを上げる竹原、月の光が差し込む小路・・・
そこに影が差した。全てを隠すように大きな影が差した。
・・・なんだ?
竹原は小路の入り口に目を向けた。
壁ができていた。
いや、壁と思うような巨大な人影が居た。
自分より頭一つ分以上高い巨大な人影が居たのだ。
身長は2メートル近い、体重は良く解らない程縦も横も広かった。
さっきの男が呼んだ頭という男が来たのだ。
頭がこいつなのだ。それが解った。
「・・・添島たちをやったのはお前か?」
そいつは低い声で言った。
「ああ、俺だ。文句があるか?」
「一つ聞きたい。」
「なんだ?」
「添島、ああそこの四人だ。みんなお前がやったのか?」
「そうだ、俺がやった。」
「・・・そうか、添島たちはお前ひとりにやられたんだな。だったらいい。」
「何がだ?」
「一体多数で負けた添島たちが悪い。お前は帰っていい。お前は悪くない。」
「・・・なに?」
竹原は腹が立った。こいつのいい方はどこか隆文に似ていた。
一番頭にくる男に似ていたのだ。竹原はそれだけで沸騰した。
「・・・おい、部下がやられてずいぶん冷てえじゃねえかよ・・・敵を討ってやろうとか思わねえのか?」
「相手が俺の価値観にそぐわない事をした時だけだ。俺は本気を出しちゃいけない。だから俺が許せないと思うやつだけが俺の敵だ。お前は違う。多対一で勝った。別にふいうちだろうが何だろうが最初に多人数で囲んだのは添島たちだ。お前に非はない。当たり前の事だ。だからいい。俺からも謝ろう。すまなかったな。」
竹原はこの上なく腹が立った。まるで隆文のような言い草だった。
最後に会った隆文と重なって見えた。頭に来た。
街に出て自分の強さを再確認できている最中だったのだ。
竹原は隆文の深さ、強さがはっきりと解らないまま退学になった。
だから隆文に対する恐れと怒りが混同してしまっていた。
目の前の肉の壁が隆文に見えた。隆文より大きな体の男が隆文に見えた。
「・・・ふざけんなああああああ!!!!!」
竹原は突貫した。
思い切り腹に向けて蹴った。
跳ね飛ばされた。蹴った力をそのまま返されるかのように跳ね返った。
竹原は構わず突貫した当たり前だ、隆文だったら当たり前の話だ。
あいつは自分なんか相手にしなかった。だから跳ね返されるのは当たり前だ。
俺は強い!!俺は強いんだ!!隆文なんかに負けないんだ!!
竹原はそいつの襟と袖をとり思い切り背負いをかけた。
竹原の必殺の技であった。
177㎝柔道をやっている人間では決して大きくない体格。
遥かに大きな相手も投げられたのは竹原の磨きこまれた速さと技術であった。
体重の軽い竹原が勝ってこれたのは相手の重心より下に回り込むことが秀でていたからであった。
会心の技の入りであった。
たとえどんなに大きな相手でも宙に飛ばすはずの入りであった。
・・・ガクン
動かなかった。
子揺るぎともしなかった。
まるで巨大な大木に帯を巻き付けて打ち込みを行ったようであった。
訳が解らなかった。最高の入り方をしたはずであった。
竹原は焦った。まるで打ち込みの稽古のように何度も何度も背負いをかけた。
びくともしなかった。訳が解らなかった。ただの打ち込み稽古のような光景だった。
「・・・いい技だ・・・」
大木がそういった。
そして巨大な手を竹原の頭に打ち付けた。
ドバン・・・
大きな肉を打つ音がして竹原の意識は消え去った。
一撃、ただの一撃で竹原は沈んだ・・・
巨大な肉は仲間の4人を抱えて去った。
竹原は翌朝、気が付くまでそこでへたり込んでいた。
「・・・うううううう・・・・」
言い訳の効かない敗北、隆文に続いて二回目だった。
自分は強い・・・せっかく取り戻し始めてきた自信を根こそぎ折られた。
しかも本気でつぶされた訳ではなかった。
ただ竹原をおとなしくさせるために放った一撃だった。
本気で打ち込めば竹原など殺せる力があることが解った。
加減されたのだ。気を使われたのだ・・・
それは受けた竹原が一番良く解った。
「うううううううう・・・・・ああああああああ・・・・・」
竹原はいつの間にか泣き始めた。自分よりどう考えても強い人間がいることが解った。
自分は糞のような存在だと思い始めてしまっていた。
ただ抵抗できない弱い存在を自己満足で打ち据えていた情けない存在だと思い始めてしまっていた。
竹原を支えていたのは自分の強さ、それだけである。
心の強さではない。単純に暴力に依存してきただけだ。
そして今まではそれがすべてだった。
それだけでよかったのだ。
それが、竹原の生きてきたすべてが全部ぽっきりと折れてしまった。
隆文、柴田、謎の大男、全部に負けた。
隆文と大男には全てをやっても通じなかった。
竹原はどことも知れない汚い小路で膝をつきながら泣き続けた。
もう何を頼りにしていいか解らなかった。




