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帰ってきたその後で・・・  作者: ヒラゾウ
12/45

菜穂子

幼馴染ざまあ?まだ落ちていくかもしれません

菜穂子は追い込まれていた。


学校で居場所などなかった。

彼氏である雅人が消えたせいだ。

雅人はさんざん好き放題にふるまってきた。

菜穂子は竹原と付き合っていた為横暴な態度で周りに接していた。


みんな菜穂子を持ち上げてちやほやしてくれていた。

その加護がなくなったのだ。もう菜穂子を守るようなものはなくなってしまっていた。


竹原がおかしくなってきたのは隆文が登校しなくなった時からだ。

少しの事でもイラつくようになり、周りにあたり始めた。

菜穂子の事も優しく扱ってくれていたのに怒ると暴力を振るうようになった。


菜穂子は竹原の機嫌を取ることに毎日必至だった。

だから一緒になって周りに強く当たっていた。

いつ竹原が怒り出すかびくびくしながら毎日を過ごしていた。


その分それ以外には当たり散らすようになっていた。

竹原におびえながら逃げるように今まで友達だった者、持ち上げていた者に当たった。


そんな竹原が消えた時、そこには敵しかいなかった。

完全な自業自得であった。今まで竹原という暴君の力におびえて菜穂子に接していただけだったのだ。


居なくなった以上菜穂子に優しくする必要はない。

むしろさんざん好き放題やってくれた分報いを与えなければならない。


無視、無関心、死ねと書かれた教科書、下駄箱には生ごみ、休み時間になるとわざと菜穂子に聞こえるように悪口を言われた。


「なんかこの辺臭くない?」


「ビッチ臭がするよね、さんざん威張ってたくせに一人じゃ何にもできないごみの匂いがするよね。」


「・・・一緒にやめればよかったのにね、自分だけが大事なんだろうね。」


「ああいう人間にはなりたくないよね。」


聞こえるたびにトイレに逃げ込んで泣いていた。

だんだん解かってきた・・・


隆文がいたから自分の立場は守られていたのだ。

竹原の緩衝材となって竹原の気を静められていたのだ。

今になってよくわかる。竹原はクズだった。誰かを攻めていないと自分を保てないクズだったのだ。

それを隆文が一身に受けてくれていたのだ。


隆文がいたから自分は竹原から優しくされていたのだ。

隆文が消えてから竹原は菜穂子に暴力を向けるようになった。

菜穂子は隆文にずっと守られていたのだ。


隆文は心が深く、耐える事に慣れすぎてしまっていた。

己の心など消えてなくなってからもずっと笑って受け入れていた。

誰よりも優しく深い心を持っていたのだ。


幼馴染である菜穂子はそんな隆文に甘えていたのだ。

やさしさに付け込んで隆文だったら何も言わなくても受け入れる。

隆文にだったら何をしてもいい。

いつも笑ってごまかしてくれる。


小さい頃は庇った。

でもいつも笑ってごまかしている隆文をいつの間にかみんなと一緒になっていじめていた。

竹原と付き合ったのも隆文に対する当てつけだった。

正直竹原の事が好きだったかと思うとそうでもないように思える。


ただそのころには隆文をいじめるのが当たり前になっていた。

だから付き合って隆文がどういう反応をするのかが気になった。

竹原に抱かれるときは一生懸命演技した。

竹原は抱くときも自分の事しか考えなかった。痛いだけだった。


隆文に自慰をさせる。今考えると狂ったことをさせた。

いや、狂っていたのだ。

隆文が怒るのを期待していたのかもしれない。

隆文に感情を出させたかったのかもしれない。


正直本当にさせるとは思ってなかった。

もしさせたのが自分だとばれたら怖かった。

しかし、学校にも親にもばれなかった。

本当は隆文がかばってくれたのだったがその時の菜穂子は気が付かなかった。


そして自慰から隆文へのいじめはエスカレートしていった。

こいつになら何をしても大丈夫。そう思ってしまった。

登校してきた隆文にわかるように竹原と抱き合ってキスをした。

そんなときでも隆文はへらへら笑い続けていた。腹が立った。


そして液体湿布を陰部に塗り付けた。

隆文はのたうち回った。

痛い痛いと泣き笑いながらのたうち回った。

みんなげらげら笑っていた。自分も笑っていた。


次の日から隆文は来なくなった。みんな気にもしなかった。

菜穂子も気にしなかった。すぐにまた来るだろうと思った。

隆文だったらまた笑いながら学校に来ると思っていた。


次の日、隆文がしばらく休学すると知らされた。

菜穂子はなぜか胸が痛くなった。

そこまで追い込んでしまったのか?

隆文だったら大丈夫、そうじゃなかったのか?


私たちのせいで来なくなったのか?

認めたくなかった。隆文だったら何をしても受け入れてくれる。

それが隆文だったはずだ・・・


それからひと月ほどたった。

今だったらわかる、自分たちは隆文に依存していたのだ。

隆文の優しさに付け込んで自分たちのストレスを発散してしまっていた。

隆文が全部受け止めていてくれたのだ。

そして自分たちはそれに甘えていただけだった。


居なくなって初めてわかるもの、隆文という存在の大事さ。

竹原や他の人間は気づいてもいないだろう。

だが幼馴染だった自分にはわかる。

思えば隆文はそういう人間だった。

幼いころから怒ったりせず、優しくみんなに接してくれていた。


誰かが泣いているとそっとそばに来てくれて一緒にいてくれた。

菜穂子が理不尽なことで怒っても優しく微笑み返してくれていた。

自分は悪くないのに、菜穂子にごめんねと言って菜穂子をかばってくれていた。


隆文だけだったのだ。

菜穂子のわがままを許してくれていたのは。

それに甘えてつけあがった。

かばう側からいじめる側へと動いた。


一度そうなるともう止められなかった。

どこまで隆文が受け入れるか試すようにいじめた。


・・・そして登校しなくなり、休学した。


この時になって初めて菜穂子は罪悪感に包まれた。

今更、本当に今更悪いことをしたと思ったのだ。


・・・すべて遅すぎた。


竹原は自分でも気づかないうちに気性が荒く暴力を振るうようになった。

誰彼構わず尊大な態度を取り、

気に入らないと菜穂子に当たった。


もう菜穂子は竹原の機嫌を取ることしか頭になかった。

抱かれることに嫌悪感を感じるようになっていた。

他の取り巻きの連中に抱かれるのも死ぬほど嫌だった。


数か月もそんな日々が続いた。

もう精神は限界に近かった。

本当に学校をやめて引っ越そうと思っていた。


またつらい一日が始まる・・・

そう思って竹原の機嫌を取りながら一緒に登校した。


そして・・・見慣れた、懐かしい大きな背中を見つけたのだ。

それは一番ほしかった背中であった。

菜穂子の救いとなる背中であった。

やっと終わる・・・隆文が戻ってくる・・・つらい日が終わる。

菜穂子は安堵と喜びに心が躍った。


「おい、豚、てめえ何いまさら来てんだよ。ちゃんと死ねって言っておいたろう?来た以上は覚悟してんだろうな?取りあえずまた可愛がってやるからよう。」


「あんた。まだ生きてたの?さっさと死んどけば良かったのに。雅人にまた虐められるよ?もう引っ越せば?」


本当は来てくれたことに感謝した。

私を助けてくれる幼馴染が帰ってきたと思った。


・・・他人と言われた。興味がないといわれた。


本当に無感情な他人を見る目で言われた。

隆文の身体を持った別の人だと思った。


帰ってきてない・・・隆文は帰ってきてない・・・


隆文は私を助けてくれるはず、そんな目で見ないはず。

いつもへらへら笑ってごまかしていたはず。

笑わない・・・この人は笑わない。


あれ?どこに行ったの?隆文が消えちゃった・・・

いつの間にかうずくまって泣いていた。


次の日から雅人は休み始めた。

隆文の様子を見ていたが本当に周りに関心がない様子で過ごしていた。


たまに目が合っても何の興味を示さない目だった。

本当に知らない人を見る目だった。

・・・言った通り他人を見る目だった。


怒ってもいない、嬉しがってもいない、

無関心、どうでもいい存在。

そんなものを見る目だった。

今までの私を見る目じゃなかった。


なんでだか置き去りにされた。捨てられた。そんな気がした。


・・・そして雅人が登校してきた。

すぐに呼び出されて無理やり抱かれた。

さんざん好き放題にされた。殴られた。体中あざになった。


雅人が退学になった。私にとって地獄はここからだった。

雅人がいなくなったことで雅人が行ってきたことの不満が全部私に来た。


雅人の機嫌を取るために一緒になって行ってきたことの付けが来たのだ。

クラス中から無視をされた。

休み時間には呼び出されて殴られた。

更衣室では隅に追いやられて逃げ場のない場所でさんざんけられた。

身体中にマジックで卑猥ないたずら書きをされた。


たすけて・・・たすけてよう・・・隆文・・・


毎日泣いていた。自業自得・・・

そんなことは菜穂子自身が一番良く解かっている。

でも助けてほしかった。隆文に助けてほしかった。


言えない・・・言えるわけがない・・・


今までどんなことを隆文にしてきたか・・・

どんな辱めをしてきたか・・・


竹原がいなくなったせいで冷静になってくる頭は自己嫌悪につぶされそうになっていた。

その分助けてなど隆文に言う資格が自分にはないと思った。


笑いかけてほしい・・・幼い頃みたいに笑いかけてほしい・・・

そんなこと言えない・・・言う資格がない・・・


いつの間にか菜穂子は夜、何かを求めて街をさまようようになっていた。

どこかへ行きたかった。できる事なら幼い、まだ隆文が自分に笑いかけてくれてた頃に戻りたかった。


・・・どうして・・・私は・・・あんなことを・・・

・・・もう謝れない・・・そんな資格もない・・・

戻りたい・・・

戻りたいよう・・・助けて・・・助けてよう・・・


いつの間にかかなり遠くまで来ていた。

道路の拡張工事を行っているところに来た。


何気なく工事現場を見つめた。


・・・ああ・・・一緒に私も埋めてくれないかな・・・


ふらふらとその現場を見て回った。

そして・・・見つけた。

隆文が働いていた。ヘルメットをかぶって、全身に大汗をかいて必死に働いていた。


菜穂子はその姿に見ほれた。嘘偽りもなく必死に働いている隆文は輝いていた。

時間も忘れて見ていた。学校では見せない真剣な顔、現場の監督に怒られながらも懸命に土嚢を運ぶ姿。

何より楽しそうに動き回る尊いその姿。


竹原やいい加減に生きている人間には絶対に出せない輝き。


菜穂子はいつの間にか泣いていた。

どれだけ大切なものを失ったのか今更気づいて泣いていた。

工事現場では明かりが現場に照らされて菜穂子は影になって見えない。

しかし菜穂子の位置からは隆文が良く見えた。

いつまでも見ていたかった。


そして休憩時間になったのだろう。

みんなが休み始めた。隆文も腰を落とし休憩し始めた。

隆文のそばに金髪の若い男の子が来た。話し始めた。


・・・そして見てしまったのだ。

菜穂子が無くしてしまったもの、一番ほしかったもの、決してもう自分には向けられない最高のもの。


・・・隆文は笑っていた。

いじめられていた時に見せたへらへらした顔ではない。

屈託のない、優しい、心底嬉しそうな顔で笑っていた。

楽しそうにその男の子と話していた。


眩しかった・・・そばに行きたかった。話したかった。


「・・・・ううううう・・・・あああああああ・・・・」


菜穂子はもう立ってられなかった。

うずくまり泣き続けた。

もう行けない・・・あそこへは行けない・・・


工事現場のバリケード、片手で持てるような軽いバリケード。


それが何よりも高い壁に見えた・・・



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