小松原隆文
多分異世界の話はすぐ終わります。よろしければお付き合いくださいませ。
小松原隆文
17歳、高校2年生。
彼はいわゆるいじめられっ子である。
身長は187㎝、体重は130㎏
かなりの肥満体で巨漢である。しかし、大きい身体とは反比例するように心が弱かった。
彼は好きで太ったわけではない。小学生になってから彼はいじめられ続けた。
休み時間や放課後、帰り道、身体が大きくて何も言わない、言い返せないでくの坊。
隆文は口下手であった。話そうとすると口が上手く動かずどもってしまう。
結果何も言い返せなくなってしまった。
殴っても蹴ってもへらへらと笑ってごまかすしかできない間抜け。
子供ながらの残酷さ、無邪気な悪意は彼に全て向けられた。
最初は庇ってくれた幼馴染の女の子も隆文の無抵抗さ、いつも笑ってごまかしている情けなさにすぐにいじめる側に回った。無視されているうちはまだ良かった。
せめて居ないモノとしてくれていたら良かったのだ。
しかし子供は残酷で他人を慮ることはできなかった。
面白ければ際限なくどこまでも行ってしまう。
休み時間にトイレの個室に閉じ込められて上から汚水をぶっかけられた。
午後の授業は体操着を着たが次の休み時間に同じことをやられた。
びしょ濡れの汚い恰好でそのまま授業を受けていた。
教師は見て見ぬふりをした。隆文が家族に何も言わない事を見越して放置したのだ。
隆文の家は裕福であった。毎日小遣いを使ってコインランドリーでパンツ一丁になって誰かが来ないかビクビクしながら衣類を洗うことが隆文の日課であった。
誰かが来たら洗濯機と洗濯機の間に隠れてやり過ごした。
大きな体を小さく丸めて押し込んで必死に人がいなくなるのを待った。
親には毎日叱られていた。金遣いが荒い。何をそんなに使っているの。
隆文は全て洗濯に使っていた。
親からもらった小遣いで親に心配をかけたくないために全て使っていたのだ。
隆文は何も言い返せなかった。
もし言ったら自分がいじめられていることがばれてしまう。
親には、家族には心配をかけたくない。隆文はいつもと変わらず笑ってごまかしていた。
それがよくなかったのだろう。親からも暴力を受けるようになった。
気持ち悪いものを見るような眼で見られ始めた。
それでも隆文は隠し続けた。笑い続けた。何も言えなかった。
馬鹿のように食い始めた。身体を大きく、脂肪をまとえば殴られても蹴られても耐えられた。
衝撃を吸収してくれることが解った。だから太ることにした。
太る事、それが隆文の唯一の防衛手段だったのだ。
小学校高学年になると親はもう隆文に何も言わなくなった。
気持ち悪いものを見るような眼で見るようになった。
ブクブクと太っていく醜い子供、親は隆文に無関心になった。
新聞配達を始めた。このころには同級生から金を巻き上げられるようになった。
小遣いではとても足りなかった。洗濯は自分で洗剤を買って公園の公衆便所で隠れてするようになった。
乾くまで個室にこもり誰にも会わずに乾くのを待った。
乾ききらず帰ってももう隆文に興味のない親は何も言わなくなった。
食事も別で取らされた。そのうちに作ってくれなくなった。
自分で作り、どうやったら太れるか考えた。
太った体での新聞配達は辛かった。しかし一日の中でその時間が隆文の心を癒してくれた。
誰にも会わず、暗い中を一人で走りポストに入れる。
自分は今一人で仕事をしている。誰にもいじめられることはない。
殴る人も無視する人もお金を取る人もいない。そう思うと安心できた。
中学生になると洗濯を別で一人でやるように言われた。
一つ下の妹が隆文と一緒に自分の服を洗われるのを嫌がったためだ。
両親も妹も美形であった。それゆえにブクブクと太った隆文に嫌悪感を隠しもしなかった。
隆文はそれでも家族の事を大切に思っていた。
どんな扱いをされても自分と血がつながっている。
そう思うと救いになったのだ。だから家族に話しかけようとした。
だが口下手な隆文は話し出すまでに時間がかかってしまい、誰も話を聞いてくれなかった。
思春期に入ると隆文に対するいじめは苛烈を極めた。
無理やり身体が大きくて太っている隆文は柔道部へ強制的に入らされた。
隆文はここで竹原雅人と言う男子生徒と会った。
竹原は中学生で初段の黒帯を持っていた。
学年は同じだが小学校のころから柔道をやっていた竹原は隆文に目を付けた。
技を教えてやると言われ、締め上げられ、極められ、投げ飛ばされた。
身体が大きくて抵抗しない隆文は格好の標的となった。
竹原以外の部員も隆文を責めあげた。気を失ったらバケツに顔を突っ込まれて起きさせられた。
そしてまた同じことを飽きるまでやらされた。
竹原は強かった。試合に出ても負けることなどなかった。
部は竹原を持ち上げ、竹原に頼ることになった。
当然であろう。中学生の柔道など初めて始めるものだ。
竹原は小学生から柔道をやり、十分なアドバンテージを持っていたのだ。
体力よりも知っているか知ってないか、中学生の未熟な身体ではそのことが大きい。
竹原は無敵だった。教師も竹原になにも言えなかった。
隆文に目を付けた竹原は隆文を苛め抜いた。
中学3年の夏、教室の中でみんなの見ている前でオナニーを強制させられた。
幼馴染、菜穂子と言うほのかに恋心を寄せている相手をやらないと犯すと脅されてしまった。
その場には菜穂子もいた。死にたくなった。
隆文が迷っていると竹原と取り巻きの男子生徒が無理やりズボンを下げた。
「いう事を聞かないと菜穂子を犯して全員の肉のおもちゃにするぞ・・・」
隆文はあきらめた。力を抜きされるがままになった。
力なく垂れさがる陰部を持ち大声で叫んだ。
「僕はみんなに見られて興奮する変態です!!!」
大声で何度も言わされた。休み時間ずっとやらされた。
竹原たちは大笑いしていた。菜穂子も笑っていた。
みんな気持ち悪いものを見ているような顔で笑っていた。
隆文はそれでも菜穂子を守れたと思うと救われた。
隆文だけが呼び出されて説教を受けた。
親も呼び出されて話をされた。隆文は頭を下げて謝った。
菜穂子を守れた。それだけで自分のやった事は無駄じゃないと思うと耐えられた。
三日後、竹原と菜穂子が抱き合ってキスをしている姿を見た。
後で知った話だがもうずっと前から竹原と菜穂子は付き合い、身体の関係もすでに澄ましていたそうだ。
そして公開オナニーも菜穂子が竹原に言ったらしい。
柔道部でさんざん嬲られて帰宅すると隆文は自分の部屋にあるアルバムを見ていた。
小学生低学年までだがそこには家族みんなで撮った写真があった。
父と母と妹そして自分、笑顔で笑っていた。
その中には菜穂子と一緒に撮った写真もあった。
隆文は菜穂子の写真を取り出して燃やした。それがささやかな抵抗であった。
家族はもう隆文を家族と思わなかった。ただの汚い物として扱い始めた。
両親は世間的にも地位の高い仕事につき、見目も麗しい。
だからこそ自分の血を引く子供が隆文だと思うと我慢ならなかったのだろう。
隆文が使用した後のためにトイレに消臭剤と消毒液を置かれた。自分が済ました後はそれを使って綺麗に掃除するように言いつけられた。
風呂は最後に入り、上がった後は浴室全てを掃除するように命じられた。
バスタブを掃除しながら、隆文は笑っていた。素っ裸で泣きながら笑って手を動かし続けた。
隆文の部屋は移された。裕福な家は広かった。
その中でも一番家族と触れ合えないであろう一室へ移動させられた。
業者に頼んでミニキッチン、トイレ、簡単な水場も作られた。
ようはもう家族の前に顔を見せるなという事であった。
隆文の部屋の横に出口もつけられた。そこから出入りしろという事であった。
法律上子供を扶養する義務がある。
それがある以上扶養はする。だが関わりたくない。
それが家族が隆文に出した結論であった。
隆文はそんな扱いを受けて笑っていた。もう他の顔をどう作っていいか解らなかった。
笑いながら泣く。それしか隆文にはできなかった。
人を恨むという事は自分がなければ恨めない。ほんの少しでもいいから自尊心がなければ人など恨めないのだ。隆文の自尊心などとうの昔に吹き飛んでいた。笑って受け入れるしかなかった。
洗濯機など使えなかった。簡単な水場で手洗いをして部屋の中で乾かした。
自分が顔を見せると父さんも母さんも可愛い妹も嫌な顔をする。
そう思うと隆文は孤独に耐えられた。
忘れてなかったのだ。小さなころ一緒に外食に行った時笑いながら自分のためにハンバーグを切り分けてくれた優しい母の顔を、遊園地に連れて行ってくれた時にお化け屋敷に入って一緒に手を繋いでくれた父の手の暖かさを、自分の後をチョコチョコと着いてきてお兄ちゃん、怖いと言った可愛い妹の顔を。
そんな家族の事が大好きだった。
もうほとんど無くしてしまった隆文にとってその思い出がすべてだったのだ。
家族に拒絶されながら隆文は家族に依存して生きていた。
情けない大嫌いな自分に唯一優しくしてくれたことのある家族。
そのために隆文は生きていた。
好きだった菜穂子は遠くへ行ってしまった。
しかし不思議と菜穂子を恨めなかった。ただ、当然だろうなと思ってしまった。
それほど隆文は自分に失望してしまっていた。もう自分は誰にも好かれない。
誰からも嫌われる、だけど僕には優しくしてくれた家族がいた。
今の家族じゃないけど、僕は優しくされた事があった・・・
だから、その分を返すまで死ねない。受けた愛情を返すまで死ねないんだ・・・
隆文のいまの生きる理由であった。
もうとっくに自分の事はあきらめてしまっている。
たった一人だったならとっくに死んでしまっている。
でも家族が、菜穂子が優しくしてくれた思い出は残っている。
それを返すまで、死ねなかった。何とか返して自分を消すことが隆文の願いだった。
はっきり言おう。隆文はとっくに壊れていたのだ。
いや、最初から壊れていた。感情が壊れていた。
隆文はこれ以上ないほどにゼロな人間だったのだ。
さらに言えば受けた恩は忘れずに、受けた屈辱は壊れた心が全部ため込めるほど容量が広かった。
だから隆文は屈辱も苦痛も受け入れられてしまっていた。
それは隆文にとって不幸だと言わざるを得ない。
普通の人間だったら耐えきれず親や教師に、または公的機関に泣きつき状況を改善できたはずであった。
しかし隆文は他人を、苦しみを受け入れる、我慢すると言う事に慣れすぎてしまっていた。
そして自分に絶望しすぎてしまっていた。
高校生になった。
隆文は頭が良かった。友達もいず、家に居場所もなくなった隆文は勉強するしかなかったのだ。
成績はほとんど学年で1番になった。竹原のいじめはさらに壮絶になった。
ある時、竹原の取り巻き10名ほどにトイレに連れ込まれた。
女子が4人、男子が6人、竹原の取り巻きの総数であった。
竹原に寄りかかり、菜穂子もいた。
陰部に液体湿布を塗られた。
竹原が箸でつまみ、菜穂子が塗ったのだ。
隆文は悶絶しながらのたうち回り痛い痛いと泣き続けた。
その様子を全部デジカメで撮影された。
「本当に気持ち悪い、あんた死んでくれない?あんたと子供のころに一緒だったってだけで嫌なの。もう生きてるのいやでしょ?だから死んじゃいなよ。」
「菜穂子もそう言ってるぜ、もうお前死ねよ。生きてていい事なんてねえだろ?さっさと死ね、今日中に死ねよ?もし明日生きてたら肛門にこれ突っ込んでやるからな♡」
「やーん♡私こきったない所なんか見たくないよー♡」
「それもこの豚が今日死ねばいい事だろ♡その分今日はお前の穴を思い切りほじってやるって♡」
「もおう♡雅人のエッチ♡」
竹原と菜穂子は出ていった。
取り巻きも笑いながら出ていった。
菜穂子は竹原だけでなく取り巻きの連中とも関係を持っているようだった。
取り巻き同士で交換しながら楽しんでいるようだった。
隆文は笑いながら泣き続けた。
その後、柔道部でさんざん嬲られて帰宅した。
隆文は間違えてしまった。家の正式な玄関から入ってしまった。
ちょうど妹の朋子が出かける所に出くわしてしまった。
朋子は隆文見つけると持ってい靴ベラで思い切り隆文を殴った。
呆然とする隆文の左目に靴ベラは直撃した。
左目を抑えながら隆文は蹲った。
「なんでこっちから入ってくるのよ!!気持ち悪い!!せっかく彼氏とデートだったのに台無しじゃない!!あんたのせいで台無しよ!!この豚!!気持ち悪い!!気持ち悪い!!」
朋子は蹲る隆文に靴ベラで殴り続けた。
隆文は目を抑えて耐えていた。
「死ね!!この豚!!!」
そう言って朋子は出ていった。
居なくなった事を確認して隆文は泣き笑いながら家へ入った。
家族・・・大事な家族・・・その家族に拒絶された。
隆文はもう生きる気力を失いかけていた。
自分の部屋へ戻ろうとした。
その途中、リビングの本棚にアルバムを見つけた。
自分が毎日持っているものとは違う、本当のアルバムだった。
ふらふらと隆文はそれを手に取った。開いた。
・・・開かなければよかった・・・
そのアルバムは隆文が持っているものと同じ写真が貼ってあった。
唯一違う場所、それは隆文が写っている場所であった。
隆文だけがマジックで黒く塗りつぶされ、破られ、消えていた。
・・・心の折れた音が聞こえた。ボキリとはっきり聞こえた。
隆文の生きる意味が根元から折れる音だった。
隆文は死ぬ事にした。
少ないお金で片道の切符を買った。
どこでも良かった。自分の事を知らない所ならどこでも良かったのだ。
隆文が住んでいたところは千葉であった。
持っている所持金全てを使い一番遠くまで行ける切符を買った。
静岡の山奥までこれた。
・・・いい場所だ・・・
誰にも発見されず、死ぬには最高の場所だと思った。
隆文は奥に入り、自分が体重をかけても大丈夫そうな枝を選びロープを通した。
後悔など微塵もない。無念さは腐るほどある。しかしどうしようもなかった。
自分と言う存在では何もできなかった。だからしょうがない。
そう思って隆文は首を吊った・・・・
・・・・光に包まれた・・・・
死んだと思った隆文は山の、森の中に居た。
今までいた森とは違う緑が生い茂り、生命力にあふれた明るい森だった。
ここが・・・あの世か・・・
隆文は冷静だった。
もう感情と言うモノがマヒしていた隆文は冷静に自分の置かれた状況を判断してしまっていた。
しかし、この森はそんな隆文をあざ笑うかのように隆文に試練を与えた。
木の影から子供くらいの背丈の化け物が出てきた。
今まで周りの人間の感情を読み取り続けてきた隆文には一目で解った。
こいつらは自分を殺そうとしている。本気の殺意が伝わった。
今まで隆文をいじめていた相手はあくまで自分が楽しむためであった。
だから隆文もその嵐を過ぎるのをじっと耐えて我慢できたのだ。
しかし、今隆文の前に居る存在は本気で隆文を殺そうとしている。
楽しみと同時に殺そうとしているのだ。隆文の事を嬲り殺そうとしているのだ。
遥かに自分より小さなそのゴブリンに・・・隆文ははじけた・・・
気だ付いたらゴブリンの首に自分の歯を突き立てていた。
自分の手にはゴブリンが握っていたこん棒が握られていた。
もう一匹のゴブリンは殴られすぎてせんべいみたいになっていた。
噛みついているゴブリンも絶命していた。
生まれて初めて殺すか殺されるかの経験をした。
隆文は情が深い、だからこそ自分を殺す術を自分で身に着けてしまった。
大概の事を受け入れられるまで深かったのである。
しかしこのゴブリンは本気だった。本気で隆文を殺す気でいた。
だから隆文は答えたのだ。本気の殺意に我慢してしまっていた感情を起こしたのだ。
大きな体格の隆文は爆発したら止められなかった。
止めるつもりもなかった。隆文は生れて始めて他者を打ち倒し、蹂躙する喜びに浸っていた。
「うあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
隆文は雄たけびを上げた。




