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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

明日処刑される悪役令嬢マナレイアの手記

作者: 桜芽鵺葉


この世界はゲームの世界。

乙女ゲーム「運命の恋のワルツ」の。

このメモは誰が読んでも構わないけど、ゲームが何かわからない人が呼んでも意味ないわ。


「私」の15歳の誕生日の日、眠ったらこの世界にいた。そして、みんなが私をマナレイア様と呼んだの。

夢かと思ったから、別に適当に振舞っていたけど、これはいつまでも終わらなかった。

はじめの日は、マナレイアの8歳の誕生日だったらしいから、もうこの夢が始まって10年ね。

マナレイアは今18歳だから。


この10年で一度も目が覚めたことはなかったし、夢が始まって数日経つ頃には、「マナレイアの8歳より前の思い出」が思い出されてきて、日本なんて誰も知らないような国で15年生きた方が夢だったのかもって思えた。


でも違うの。

だって、私は知らないことを知っていたんだもの。

ゲームの世界だって書いたでしょ。

マナレイアはこのゲームの悪役。悪役だから、死刑になるの。どんな悪役かっていうと、とにかく性格が悪くて嫉妬深くて粘着質で上から目線でプライドの塊で家柄と容姿マウンティングしないと死ぬんじゃないかってくらい自慢が大好きでヒステリックでっていう女の嫌なとこ闇鍋にしたような性格してるんだけど、「悪役令嬢」って言われてる通り、令嬢なの。お金持ちね。貴族の中でも一番金持ち。王様以外に自分より上の身分の人いないわけ。

つまりマナレイアは性格がそんなやばいのに、身分がかなり高いから、悪役なのに王子様の婚約者のキャラなの。

もちろん王子様はそんな悪い女を好きになるはずないから、悪役令嬢の片思いなんだけど。

片思いのくせに「王子様が好きなのは私よ!」だなんて言えるのってほんとすごいわよね。

だからこそ、ゲームのヒロインに出会った王子様は心の美しさを持つヒロインに恋をする。

当然、悪役令嬢はそれをよく思わない。

ヒロインを呼び出して罵倒したり、ある時は無視したり、イベントのダンスパーティーではドレスにワインをかけたり…する。そして主人公は王子様と一緒に悪役令嬢を断罪して、悪役令嬢は死刑にされてめでたしめでたしってストーリー。


私、8歳の時から、「これからマナレイアが一目惚れして婚約する王子様」の事も、「いつか王子様が恋をするヒロイン」の事も知ってるの。二人がどんな会話をするか、二人がどんな気持ちか、ぜんぶ。


ぜんぶあらかじめ知っていたなら、いくらでも別の道が拓けるはずよね。私はそう思ったわ。

王子の恋の邪魔をしなければ済むし、王子と婚約しなければいいだけでしょ。

お金ならいくらでもあるし、適当に幸せに生きようって思ったわ。


だから、私がこの夢に気が付いてすぐの王城のパーティに招待させられたとき、断るって決めた。

王子様に会わないように。死亡フラグ回避ってやつ。

体調悪いふりをしたの。パパとママは私に超甘いからこれで休めるし。

そしたらパパとママだけが王城に行って、私ベッドで寝てただけなのに、婚約が決まったわ。


帰宅したパパに「喜べ!マナレイアが殿下の婚約者に決まったぞ」って言われて、私、嫌だ嫌だって泣きじゃくったの。

玄関で大声で。

はじめは演技だったけど途中からはガチ泣き。

そしたら、パパの馬車からおりてきたとてもきれいな顔立ちの男の子が、困ったように笑いながら私のことを「大丈夫だよ」と慰めてくれた。

私は、癇癪中で冷静に考えれなかったから、その男の子にも「うるさいわよ!!」って泣きながら蹴り飛ばしたけどね。

でも、3回も蹴り飛ばしても男の子は私のことを慰めて、頭を撫でて「僕が守るから、大丈夫だよ」って笑ったの。

泣き疲れて寝た私は、翌日になってからようやく、彼がゲームの王子様だって気が付いた。


私は何度も婚約なんて嫌だって言った。

言い訳のパターンはたくさん使った。

「王妃になんてなりたくない」

「王子様なんて大嫌い」

「私はパパと結婚したい」

「好きな男の子ができた」

とか。8歳から12歳歳になるまで四年くらい、毎日頑張って反抗したわ。

だって、王子様の婚約者になった悪役令嬢マナレイアは、18歳で捨てられて殺されてしまうんだもの。


王子様は私が「お前なんて大嫌い」と言うたびに少し悲しそうな顔をしたけど、「好きになってもらえるようにもっとがんばるよ」と言って、婚約破棄をしてはくれなかった。

プレゼントされた花は、目の前で踏み潰した。

手を握られようとしたら、扇で手を叩いた。

王子様に「マナレイアはとってもかわいいね」と言われるたびに「お前は醜いわ。可愛い私に相応しくないのよ。血統だけの身の程知らずが!」と睨んだ。

せめてヒロインに出会う前に婚約破棄されたなら、ゲームとは違う道を歩けるはずだと信じて。

王子様は私によく笑いよく優しい言葉をかけてくれたから、私は王子様を見下し睨み罵り粗末に扱った。


私の12歳の誕生日に、王子様は「マナレイアの好きなお菓子だよ、西の国から取り寄せたんだ」と言って、ミルフィーユをくれたの。この国にはない、私の好物。

お菓子は王子様からもらったら捨てて罵るべきなのに、私はすごい嬉しくなって、食べたくなって、気が付いたら口にしてしまっていた。

王子様は食べる私をみて、嬉しそうに笑っていた。

「マナレイアが喜んでくれてよかった。やっぱり幸せそうな顔はとても可愛いね」と言って。

私は王子様を罵倒しなきゃと気が付いて、でも王子様の指が私の頬についたクリームを取って舐めて、それを見ていたら、王子様は私にキスをしていた。


唇と唇が触れ合うだけのキスなのに、とても長く感じた。王子様はゆっくり唇を話すと吐息のかかる距離で私の目をじっと見て、「マナレイアかわいい。大好きだよ」と言って、もう一度キスをされた。

私はどうしていいかわからなくて、少し震えながらも王子様にされるがままになるしかなくて、その日は、いつものように罵倒も暴力も出来なかった。


その日から私はおかしくなってしまったみたい。

王子様を見ると顔に熱がたまり、頭が回らなくなって、何も罵倒できなくなってしまう。

王子様に話しかけられても、罵倒ができないから、何を言えばいいのかわからなくて、黙っていたら何度もキスをされてしまった。


ゲームのせいなの。

マナレイアは、王子様を好きなように設定されているから、私も、まるでほんとに王子様を好きなように錯覚させられてしまっているの。


私は、もう王子様に婚約破棄を言えなくなってしまっていた。婚約破棄をされたら、嫌だと思ってしまっているから。


王子様に会えるのを楽しみに、勉学もダンスもマナーレッスンも毎日頑張ったわ。

王子様に褒めてもらえて嬉しかったから。もっと完璧に、もっと努力を、と毎日毎日。


でも、やがて、王子様が私の家に会いに来てくれる頻度が減ったわ。毎月必ず1日は時間を作ってくれたはずだったのが、三カ月に一度、半年に一度、とうとう15歳の時には誕生日の一日しか会えなかった。


そしてその時から、社交界では「次期国王たる王子よりも次期正妃マナレイア様の方が優秀」という噂が流れていたわね。

単純な勉学の成績、政治や歴史の知識、他国の言語、社交や外交のマナー、何をしても私は王子様と比較をされたわ。そして、何をしても、私は王子様より優れてると賞賛をされた。

はじめは穏やかな笑顔で喜んでくれた王子様は、だんだん、冷たい眼差しで表面だけの笑みを浮かべて喜ぶふりに変わっていった。


私は王子様に愛想を尽かされかけてることに気が付いて、いっそうの努力をした。

処刑が怖かったのはもちろんだけど、王子様に嫌われたくなかったから。

より完璧に。王妃にふさわしくなるために。


16歳になり、貴族学院に入学が決まった時は嬉しかったわ。

だって毎日王子様に会えるんだもの。

王子様は忙しいから私に会いに来れなかっただけで、これからは一緒にいられるもの。

そう思って、浮かれたの。

王子様に手紙も書いたわ。一緒に学院まで行きませんか?と。返事は来なかったけど。


入学式で首席の挨拶を私が終えると、王子様は私のことを何故か敵を見るような目で睨んでいた。


学院生活が始まってから、私は何度か王子様に声をかけたけど、面倒くさそうに「忙しいので、失礼」とだけいつも言われた。

しばらくして、宰相の息子や騎士団長の息子…ゲームキャラクターとつるむようになって、彼らが私の邪魔をするから、私は王子様と話せなくなった。

クラスメイトたちには私は影で「惨めで可愛そう」と言われていたそうね。


この頃には王子様は、シナリオ通りにヒロインと出会い、シナリオ通りにヒロインと恋をしていたの。


でもそんなの間違っているわ。

そうでしょう?

王子様はヒロインではなくて、私のことを好きだと言ったもの。

私のことを可愛いと言ったもの。

こんなの、ゲームの力で無理矢理ヒロインに恋をさせられてるだけ。

王子様が好きなのはヒロインではなく私なの。

だから、私ははじめは注意のつもりだったの。


ヒロインを呼び出した時、なぜか怯えたような目をされたわ。癪に触ったわ。私が正義で、ヒロインが悪なのに。

「王子様は私のことが好きなの。私たちは愛し合っているの。結婚の約束もしたのよ。」私はそう言った。

ヒロインは「違います!政略婚約なんてよくありません!」って言ってきた。

下級貴族のヒロインが。たいしてマナーも知らない努力もしないで生きてきたヒロインが。私と王子様のことを何も知らないくせに。

私は腹立って、思わず手を振り上げて、そしたら王子様にその腕を掴まれたわ。


私は怒りがすっと冷めた。

久しぶりに王子様に触れてもらえた。

私が王子様の名を呟くと王子様は、私の腕を捻り、何か私にわめいていた。

ヒロインをいじめるなとか、そういうことだったかしら。私、王子様から与えられた腕の痛みが、痛くて、痛くて、痛くて、正直あまり思い出せないの。


腕は捻挫で済んだけれど、治療を受けている数日間は、ゲームの恐ろしさを感じて怖かったわ。

だって、「ヒロインにああやって嫉妬して怒る」なんて、私が「マナレイア」だから、でしょう?

ゲームのせいなのよ。

全部ゲームのせい。ゲームのせいだから、シナリオ通りに私がこうやって王子様に疎ましがられなくてはいけないの。


でもシナリオ通りになんて、進ませない。

間違ってるなら、救ってあげなきゃいけない。

王子様はほんとに愛してるのは私なのに、こんなことをさせられて可愛そう。

可愛そうだから、私は王子様を許してあげなきゃいけない。

可愛そうだから、仕方ないの。

大丈夫、私は愛されているんだから。


ヒロインも、ゲームシナリオのせいで「王子様から愛されてると勘違いしている可愛そうな子」だから、私が怒るのはだめね。よくないわ。でも、だからといって、ゲームのせいで嫉妬を我慢できない可能性があるもの。

私は彼女を無視したわ。私の態度をみた何人かは、私にならって彼女を無視していたけど、私は何も命じてないわ。


なのに、王子様は私の頬を叩いた。

痛くて、痛くて、でも仕方ないものね。

ゲームのシナリオのせいだから、王子様は悪くないの。可愛そうなの。


だから、私は無視をやめたわ。

ダンスパーティーのエスコートを、当然のように王子様がヒロインを誘っていると知っても、許したわ。だって、ゲームのせいなんだもの。

愛されてるのは私だから、いいの。


なのに、パーティで、ヒロインは私に話しかけてきた。「仲直りしましょう!マナレイアさん!」って。ふざけているのかしら。

私の婚約者にエスコートされながらダンスパーティーにきたくせに。

私は思わず、手に持っていたグラスの中身をヒロインにぶちまけたわ。

呆然とするヒロインに向かって、私が文句を言おうと口を開くと王子様が彼女を助けて連れて行った。

私は信用を築きあげていた社交界での立場も失って馬車に乗り一人で家に帰った。


そして。

18歳の私の誕生日パーティー。

公衆の面前で王子様は私に婚約破棄を告げた。

傍らにヒロインを連れて。

王妃になるのはヒロインだと告げて。

私のしてきた罪を処刑により償えと言って。


ゲーム通りにことが進む。

でも、処刑は私のせいじゃないの。

ゲームのせいだから。私は何も悪くないもの。

ゲームのせいで嫉妬をしてしまったから、ゲームのせいでワイングラスをかけてしまったから、犯してもない多くの罪を擦りつけられ、犯してもない多くの罪を糾弾され、処刑をされる。


これを読んだあなたが、この世界をゲームだと気が付いているなら、ヒロインと王子様をシナリオなんかのせいで結ばせないで。だって、王子様が愛してるのは、私なんだもの。










◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎



どうやら、ゲームをしながら寝てしまったらしい。

手にしたゲーム機器は乙女ゲーム「運命の恋のワルツ」のエンディング映像を流していた。

意地悪な悪役令嬢が処刑され、王子と結婚式だ。


「よし、ハッピーエンド!」


隠し会話も全て見れて満足な私は、ゲームをセーブすると電源を切った。


何か長い夢を見ていたような気がした。





end

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