現代の落武者に告ぐ!「整えよ!!」
暇潰しになるかどうかわかりませんが、どうぞー。
海の見えるイタリアンレストランで、妙齢の年をゆうに越えたお姉様達が『女子(笑)会』中である。
その中の一人が、おもむろに口を開いた。
「ちやほやされたーーい!!」
友人一同、爆笑した。
さて、この件は、こないだの日曜日に開催された女子(笑)会でのヒトコマだ。
別にこの彼女も本気で「ちやほやされたい」などと思っているわけではない。
いや、多少は本気かもしれない。
私の予想では、冗談半分本気半分の割合だと思う。
彼女の良い所の一つは、こういう率直さなのだ。
だが残念ながら、我らはもう、ちやほやされるような年ではない。
ちやほやされていたあの時代は、遠く過ぎ去った。
こないだなんか、管理職が私に背を向けて、「若手の職員方!」と呼びかけていた。
びっくりしたよ。私、まだ若手のつもりだった。(おこがましい)
まあ、そんな中堅年齢の我々は、彼女に突っ込んだ。
「いや、無理だから!」
「そんな年じゃないやん」
「現実見ようず!」
「ええー……。でも、ちやほやされたい。どうやったら、ちやほやしてもらえるのかなあ」
諦めない彼女である。
気持ちはわかるが。
見向きもされない年齢になるって辛いよね。
努力して、美魔女にでもなれたらいいのだが、そもそも素材が……(言わせんな)
結果にコミットしても、ちやほやされるとは限らない。
私は解決法を提示した。
「ネットかなんかで、『女子大生でーす☆』と言ってみては??」
大詐欺である。
だが、顔出しさえしなけれは、ちやほや感は味わえるのでは??
だが、彼女は言った。
「そんなんしたら、『落武者』みたいな人に殺されるじゃん!」
「落武者??」
「ほら、出会い系サイトで女子大生が殺された事件があったでしょ?」
「あー!確かに落武者だったね」
うん。出会い系で知り合った女子大生が、会ってみたら微妙にBBAだった。
これは、逆上不可避である。
さて、少し前にあった『女子大生が出会い系サイトで知り合った落武者に殺される』という事件、皆様、まだ記憶に新しいのではないだろうか。
『女子大生が出会い系サイトで援交した挙げ句』というあたりは、色々ご意見もあるだろう。
しかし、私が気になったのは、次の友人の発言である。
「あんな髪型している人に、まともな奴はいない。落武者ヘアーは、絶対ヤバい奴だって!」
なかなかの暴言だ。
全落武者への熱い風評被害。
私は、抗議した。
「いやいや、善良な落武者もおるでしょ!可哀想じゃん!」
彼女は頑として言い張った。
「いいや!絶対あんな髪型の奴はおかしい奴だよ」
何故なのか。
彼女は、落武者に何か恨みでもあるのだろうか。
見た目で判断するな。
テンプレなろう小説だって、見た目で侮られて追放された奴が、山ほど"ざまあ"しているじゃないか。
私は釈然とせぬまま、チーズフォンデュを頬張った。
家に帰り、家族に落武者ヘアーの話をした。
するとその中で、『落武者ヘアーしている人のは、やっぱりおかしいと思う』という意見が出たのだ。
職場でも聞いてみた。
やはり、『落武者ヘアー異常者説』を唱える者がいる。
うーん。
絶対、善良な落武者はいると思うんだが。
じゃあ、私の周囲にいた落武者はどうだっただろうか。異常者じゃなかったはずだけど……。
そういえば大学時代の教授の一人が落武者だったな。
あの人は、うちのゼミの教授と仲良しで、いい人だったぞ?
ああ、懐かしいなあ。
大学院卒業前に、院生と教授達とで飲み会やったのを思い出したよ。
落武者教授は、私の隣に座ってた。
私が席を立った瞬間、落武者教授にお尻をペロンと触られて、驚いた思い出……。
……
……酔ってたからな。
うん。アウトや。
教育者として、やったらいかんやつだわ。
マジか。落武者って、やっぱりヤバいんか?
いや待て。落ちついていこう。まだ慌てる時間じゃない。
他の落武者……、落武者は……!
あ!ジャムおじさん!
後、コナンくんの阿笠博士!
異常じゃない……よね?よね?
実在してないけど!!
しかし、どうしてあれほどまでに、落武者ヘアーは忌避されるのか。
何故みんな、落武者の心を見ずに、頭を見て判断するのか。
人は見かけじゃないって、小さい頃に教えられたよね?
それで、ふと思い出した。
昔、『人は見た目が9割』という本を見かけたことがある。
その時私は学生で、物心つく前から暴れん坊将軍をリスペクトしていて、人を見かけで判断して侮る奴は雑魚悪役だと思ってたんだ。
私は、心を見たいって考えてた。
まあ、今も、できるだけそうありたいとは思っているけれど。
だから、なんとなくその本、題名だけで気に入らなくて、中を読まなかったんだけど、この件に関しては、私は、完全に見かけだけで判断したアホですね。
でも、社会に出た時に、現実は違った。
学生の時にあれほど化粧するなって言ってた親が、女社会人は化粧しないと失礼とか言い出して、最初は意味不明だった。
でもよく考えたら、企業面接の短時間で、『スーツ着てないすっぴんぼさぼさ女』とか、『社会常識無いやつ』で、即アウトじゃん。
社会は人間同士の交錯と受容で成り立ってるのに、他人の気持ちも空気も読めない異分子は社会の枠の中で生きていけない、と見なされるんだよね。
理想は、じっくり対話して相手の人となりを見るべきだってわかってる。でもみんな『時は金なり』で働いてる。そんな暇はない。
だから、まずは"相手に受け入れられるような身だしなみが出来ているか"が最低条件で、それに満たないやつは『ヤバい人間』ってことで、排除される仕組みになっている。
落武者も、きっと同じだ。
ガチ落武者だって、ただの武者なら、誰も文句は言わない。
落ちてるのがダメなんだ。
負けて逃げた感がハンパないから、百姓、土民に一狩りいかれるんだよ。
落武者ヘアーだって、ハゲが悪いんじゃない。
ハゲが散らかってるのが悪いんだ。
汚ならしく見えるのを放置して平気で闊歩するから、社会からのはみ出し者、異常者だと思われる。
じゃあ、どうすればよいのか。
そこで、タイトルに戻る。
落武者に告ぐ!「髪を整えよ!!」
散髪行け。もう落武者やめて、いっそ剃髪したらどうだろう。
坊主なら、百姓土民も狩らずにスルーじゃね?
頭を整える。
これが、落武者にとって、己れの身を守る手段の一つだ。(但し、やむにやまれぬ事情で落武者ヘアーを続けざるを得ない場合は、その限りではない)
こんなこと、きっと余計なお世話だが、善良なる落武者が狩られる姿を、私は見たくない。
さて、ここまで書いておいてなんだが、私ははっきり言って、どんな髪型だろうと本人の勝手であると思っている。
でも、世間様が許さないなら、社会的動物である我々は忖度するしかないのが現実だ。
ぶっちゃけ、社会常識なんて時代に応じて変化する、大多数の思い込みでしかない。
でも、それを無視すれば村八分。
個性と自由は、常識内でこそ許される。
私からすれば、落武者は個性だ。怠惰かもしれないが、別に不快感は無いし、迷惑かけてないしな。
それが、一人の犯罪者によって、落武者全体のイメージを著しく下げてしまった。
非常に残念なことである。本当にあの犯罪者は度しがたい。
落武者界の恥である。即刻剃髪してほしい。
そろそろ、まとめといこう。
これまでを振り返ると、私は巻き込まれた落武者達のために散髪を勧めてきたわけだ。
だが、こうも思うのだ。
落武者のような、社会に受け入れるのをためらうような個性的な人々は、本当に大多数のために個性を捨てるべきなのか。
未だ、その答えは出ない。




