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到達

 〘···遂にこの日を迎えました。1972年3月2日、ケープカナベラル空軍基地第36複合発射施設よりアトラス・セントールロケットにて、人類の希望を載せた『パイオニア10号』が打ち上げられます。

パイオニア10号は、木星へ可能な限り接近し、木星やその衛星の画像を送信するとともに、木星の強大な磁気圏やヴァン・アレン帯の観測を行うということです···〙


* * *


「まるで夕日のようだな」


アースはいつものように、くつろいだ感じで椅子に座り、目の前いっぱいに表示されている恒星を見る。


『この温度はいただけないわね。低すぎる。エネルギーの放出はほぼ終息に向かっているわ···』


アースは椅子の脇に肘を立て、そこに頭を乗せた。

「星の終わり···」


『そうね。赤色巨星の状態だわ。膨らみに巻き込まれないようにしないとね』


アースは何やらピコピコとボタンを操作する。


「超新星爆発も見てみたいな。巨大な死にかけの星はないか?」


そのアースの手の上に表示し直すニア。

顔を上げてアースを見上げる。


『超新星爆発ですって?ブラックホールの影響範囲をご存知?存在に気付く前に、もうすでに前には進まないわ!』


アースは両手を肩の高さに上げる。

「なんとびっくり、若返る。世の奥様たちが大喜びだ」


あはは、と笑うアースに、ニアはもう!と、はたく素振りをする。



急膨張したインフレーションの終了後に相転移により生まれた超高温高密度のエネルギーの塊、ビックバン。このビックバンが大きく膨張することによって低温低密度になっていった、俗に言うビックバン理論である。


宇宙は今も、大きく広がっていく最中である。


宇宙を研究する者にとって、これ程心躍ることはないだろう。

終わりはない。ずっと変化し、続いていくのだ。

永遠に近いほど、ずっと。


それは


宇宙を旅する者にとっては果たして


幸か、不幸、か?



「ふ〜む。ピチピチ元気な恒星は見当たらない。ニア?今回ばかりは素直に認めたらどうだい?」


アースはいたずらっ子のような笑顔をニアに向ける。


『どういうこと?』

ニアは小首をかしげた。


「寂しくて、俺に会いたいがために起こしたんだろう?ご要望に沿うよう善処しよう」

大きく腕を広げるアース。


ニアはプツン!と一瞬姿を消す。

『ち、ち、ち、違うわ馬鹿!あれをちゃんと見てよ!』


ニアの指差す方向には、様々な色合いにきらめく満天が広がる。そこにひときわ強い輝きをもつ光があった。


『アルデバラン。おうし座を形取る恒星の一つ。私達の目的地であった場所よ』


「アルデバラン···旅の目的地···」

アースは心持ち目を細めつつそれを眺める。

「まるでダイヤモンドだな···」


ん、とアースは首をひねった。

「俺の記憶では橙色巨星だったはずだ。真っ白く光っているが···」


ニアはモニターを見上げる。

『67光年離れた里に、夜空イチの光を届ける星よ。ここまで近いと色の判別はできないでしょうね』


「なるほどな。しかし···でかいな。これだけでかいとなると···」

アースは何やら計算をする。そして顔を上げてニアを見た。


「里は我々に、ここでブラックホールの糧になれと仰せか?」


超新星爆発

巨大な恒星(太陽の8倍以上)の恒星が、その命の終わりの時にパルサーを発しながら吹き飛ぶ現象である。


更に、その恒星が太陽の30倍以上の質量だった場合は、これにより起こる重力崩壊が、自己重力が中性子の核の縮退圧を凌駕するため超新星爆発の後も続き、その影響下では光すら、核の中心に引き寄せられる。


永遠に。


ブラックホールである。


ニアは困ったような笑顔を浮かばせる。

『周りに惑星もないし、ここで余生を過ごすのは遠慮したいわね』


「しかし規模のでかさには圧倒させられるな。アルデバランに比べたら、太陽なんて豆粒だ!」

アースは、観測を続けながらもそう言う。


ニアはお椀に座り込みながら、ふふ、と笑った。

『豆粒はどうかしら。小島くらいじゃない。でも本当。こんなに大きな物が、いつかやがて認識できない程縮むのね。不思議ね』


アースはニアを見た。ニアはホログラフィーだから、表情が読みにくい。だが、一方で声のトーンは素直だ。


「ニア、傍に来て」

アースは言う。ニアは、ん?と言いつつもお椀から離れない。


アースは屈んで、ニアの真ん前に顔を持ってきた。

「ちょっと行きたい部屋があるんだ」

そう言うと、アースはスタスタと部屋を出た。


ニアは怪訝そうに後ろをついていく。


連日投稿して参ります。


ーあとがき

アース:宇宙を旅する技術者。恒星間をコールドスリープ状態で過ごし、星に降り立ち調査を行う。調査は大好き、報告は苦手。


ニア:探査機に搭載されたAI(人工知能)。2〜30cm程の大きさの、少女のようなホログラフィックで現れる。アースとは、万が一の有事の際には遠隔操作できる回線がつながっているが、普段は凍結させている。元々は等身大の義体であったが、今はホログラフィックのみ稼働している。


アルデバラン:別名、おうし座α星。おうし座で最も明るい恒星で全天21の1等星の1つ。冬のダイヤモンドを形成する恒星の1つでもある。木星の数倍の質量の惑星を持つ、橙色巨星。地球からの距離は約66.61±1.06光年と推定される。

アルデバランには、『あとに続くもの』という意味があります。


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