弥平んちのモウ
モウは弥平んちの牛だ。
昨晩、そのモウが牛小屋でお産をした。
「めでてえ、めでてえ」
弥平は手をたたいて大喜びである。
だがしかし、当の親であるモウはなぜか浮かない顔をしていた。
早朝。
弥平は心配になって声をかけた。
「モウ、どうした?」
「いや」
モウが腹の下に我が子を隠そうとする。
「ほれ、やや子の顔を見せておくれ」
弥平が牛小屋に入ると、そこにはモウとは似ても似つかぬものがいた。
馬の子である。
「なんで馬の子が?」
「へへへ……」
「こいつ、うちのヒンにそっくりじゃねえか」
「まあ」
「てっことは、こいつはヒンの子か?」
「たぶん」
「ヒンとそんな仲になっていたとはな」
弥平があきれていると……。
ミャーと鳴き声がして、モウの腹の下から子猫がはい出てきた。
「なんで猫の子が?」
「へへへ……」
「こいつ、隣の五郎太んちのタマにそっくりじゃねえか」
「まあ」
「てっことは、こいつはタマの子か?」
「たぶん」
「馬と猫。モウ、おまえってやつはとんでもねえ浮気もんだな」
弥平があきれていると……。
キャィンと鳴き声がして、モウの腹の下から子犬がはい出てきた。
「なんで犬の子が?」
「へへへ……」
「こいつ、隣村の権兵衛んちのポチにそっくりじゃねえか」
「まあ」
「てっことは、こいつはポチの子か?」
「たぶん」
「馬と猫と犬。モウ、おまえってやつはとんでもねえ浮気もんだな」
弥平があきれていると……。
ブゥーと鳴き声がして、モウの腹の下からウリボウがはい出てきた。
「なんで猪の子が?」
「へへへ……」
「じゃあ、こいつは裏山の猪の子か?」
「たぶん」
「馬と猫と犬と猪。モウ、おまえってやつはとんでもねえ浮気もんだな」
弥平があきれていると……。
聞いたこともない鳴き声がして、モウの腹の下から首の長いものがはい出てきた。
「なんでキリンの子が?」
「へへへ……」
「アフリカのやつか?」
「たぶん」
「アフリカとはずいぶん遠いな」
「まあ」
「馬と猫と犬と猪とキリン。モウ、おまえってやつはとんでもねえ浮気もんだな」
弥平があきれていると……。
モウの腹の下から、大きな卵がコロンと転がり出てきた。
「卵じゃねえか」
「ああ」
「ずいぶんでかいな」
「恐竜のやつだから」
「馬と猫と犬と猪とキリンに恐竜。おまえ、恥ずかしくないか?」
「ちょっとは」
「それにおかしいぞ」
「まあ」
「いくらなんでも卵はねえだろ、卵は」
「ああ」
「しかも、おまえは男だろ」