99 剥ぎ取り
何度もこちらに狙いを定めて降り注いでくる紫色した液体。それは一発も誰にも当たらない。
エルフたちはこの時には全員が冷静さを取り戻していたから、それらを余裕を持って躱している。
だけどそんな中で俺だけがボーっと考え事をしていた。
(石を投げてみてその結果は納得したけど、ランドルフの体当たりの時、アレはどんな原理で止まったんだろう?)
あの時は加速している状態で力を入れずに「動作」だけでランドルフの服に少し手を添えるように触れただけでピタッと止まった。
あの体当たりのエネルギーは一体何処に消えたのか?何処へ吸収されていたのか?
あたかもまるでそれがはなから冗談だったかのように、最初からそんなものは無かったかのように受け止めた。
その時の感触も記憶に焼き付いている。接触した始めから抵抗も圧力も感じず、ただ布の手触りだけが伝わった瞬間、奇妙な温かさが手の平に広がったのを覚えている。
あの時考えたのは、加速を解除した時に体当たりが止めれてなかったら、勢いそのままに俺は吹き飛ばされるんじゃないか、と言う事。そしてもし逆にこちらの「力」がランドルフにいっていたら彼の命を潰えさせてしまうんでは無いか?とゆう不安だった。
だがその二つの不安は杞憂に終わった結果が出た。それにしてもその時にどんな理屈が発生していたのか、自分でやった事なのにその感覚が一向に掴めていないのだからこの先もまだまだ不安は尽きない。
ふと異臭が鼻を衝いて辺りを見回すと、地面に広がった毒液から白い煙が立ち上がっていた。
毒の成分が気化したものが大気に混ざってそこらじゅうが異様な臭いで充満していた。
「気持ち悪い事にホントにまあテンプレっていうかなんチュウか・・・」
持っていた木をそのまま加速してパープルイーターに向けて投げる。
今度はあまり力を入れずに無造作にぶん投げたが、それを後悔した。
「グシャ」と「ドォォン!」その二つが同時に響いた。それはパープルイーターが潰れた音、投げた木が衝突した音。
ドシンと木が地面に落ち、木にはグチャグチャになったグロい何かが辺り一面に広がっている。
(これ気持ち悪すぎるよオイ・・・あぁ、また考えなしに咄嗟に動いてしまった結果がこれか・・・)
エルフたちはポカンとしていたが、俺が地面を指さして言葉をかけると正気に戻った。
「これ、あまり吸っちゃいかんよな?どうすればいい?」
それに「お任せを」とセレナが言うと、しなやかな指を空に向けて何事かごにょごにょと小声で喋り出す。
次の時には矢の形をした水が目の前に降り注いできた。しかもそれは豪雨の様に。
水の矢は毒をどんどんと薄めていって洗い流していった。
「おー、スゲー。これって攻勢魔法?だったっけか?初めて見た。」
「これでおそらくは安全でしょう。」
先程の散乱していた紫色の水たまりはもうどこにも見当たらない。その代わりに道のそこらじゅうが水浸しだが。
「いやーこのままじゃここを通る他の人が大変だったからね。ありがとう。」
「滅相もございません。所で、どうなさいますか?」
どうなさいますかと聞かれても何の事をさしているのか分からなかった。なので素直に「何が?」と聞き返す。
「剥ぎ取りますか?」
それを聞いてそのまま「・・・はい?」とマヌケな声が自然と出てしまった。
「パープルイーターの糸を作り出す器官は貴重です。その糸で紡がれた生地は超一級品です。売ればかなりの値が付くかと。その代わり剥ぎ取りもそれだけ難しいのですが。」
ゆっくりと思考がモンス◯ーハンターから離れてきてやっと冷静になる。
「あー、今は先へ進むのを優先しよう。お金に関しては旅の資金はエルトスがたっぷり用意してくれていたしね。」
「毒袋もよろしいので?調合によって生命力を上げる貴重な薬の材料になりますが。」
「そもそも目的はそれじゃ無いし、たまたま倒しただけだからね。この後にこの道を通る人への土産として放置していこう。」
「その前に嗅ぎつけた野生生物の餌になる方が早いかと。」
「それならそれで構わないさ。」
「もったいない」と表情に出しながらエルフたちは歩き出し始めた俺の後ろについてくる。
そうして歩き始めて少しして、今度は地平から砂埃が上がっているのが目に入る。
それが直進してどんどんとこちらに接近してきた。
「また、か・・・まだ三百メートルも進めてない無いんだが?」
立ち止まって暫く静観していると、その怒涛の突進をしてくる存在が近づくにつれ、その姿が段々とハッキリ見えてきた。




