96 結果
「・・・は?い、今、なんと・・・」
「俺はその神とやらの横っ面を一発でいいから全力を以てぶん殴りたい。」
エルフたちはそれを聞いて全員がオロオロし始めた。その様子にマズい事でも言ったか?と不安になったが誰も何も言ってこない。
出た言葉は無かった事にはできない。本心からの言葉なので撤回する気も無い。
場の空気は最悪になっているが、それを無理矢理流すセリフで有耶無耶を狙う。
「今日は色々あったし、もう休もう。あ、その前に明日の準備を先に済ませる方がいいか。」
その一言で気を取り直したのかバタバタと片付けし始めたり、荷の確認をしたりし始めた。
程なくしてそれも終わり見張り以外はテントに入って睡眠をとる。
見張りは当然俺だ。そして交代のセレナは寝袋に入り目を閉じている。
昨日と違ってテントの割り振りは余裕があるだろう。昨日は俺だけで一つを使っていたが、今日は二人で使っている。もう一つが三人なのでゆったりと休めるだろう。
(とりあえずやっと一人の時間が取れたな。さて、夜は長いし筋トレか、はたまた型稽古か。連日何かとあってそれどころじゃ無かったからなぁ)
そこである事を思いついて魔法カバンから剣を取り出した。
(あぁ・・・この取り出すときの何とも言えない感触、気持ち悪いわ・・・)
考えてみたら加速を使って殴ると力加減が難しい。殴った結果が「あり得ない」し、周囲の目に動きが「認識」されない。
ならば分かり易い「結果」が出る物を持っていれば、動きが見えていなくても納得するんじゃないかと。
アリルに「魔法」が使えるんですね、と聞かれた事があった。正直にその時は否定したがその言は受け入れて貰えていなかったようだし、俺もそれ以上はしつこく説明したりもしなかった。
その事にモヤっとしたモノが多少あったことは否定できない。
なので今後もそう言った事が出ない様にするのに、簡単に察しがつく分かり易い「アイコン」を持てば解決するのではと。
「剣」を持っていればその「動き」が見えなくても、もたらされた「結果」があれば一目瞭然だろう。
一々相手のスロースピードに合わせる面倒をしなくてもよくなるはず。
これを思い付いたのはここに着いて木を切った事による。
剣を片手にテントから静かに遠くに離れる。更地にした一番端にまで着いてから一呼吸ついて構えた。
俺は前世で剣術も習っていた事もある。その時に習った型をなぞる。しかもその動きは物音を一切たてないよう極力ゆっくりに、だ。
厨二病を拗らせていると言われればそれまでだが、当時の俺は夢中になって楽しんで習っていた。
何の他意も無く、ただ純粋に。その事を思い出して夢中になって振り続ける。
そしてそれが一通り終わったら、今度は調子コイて武器を使う格ゲーキャラのモーションをなぞって振る。
自分の人生にゲームは欠かせない。それは自らの立つべき土台とも言うべきものだ。
その上に俺が成り立っていると言っても過言ではない。自分を動かすエネルギーの様なもの。
自らを構成する根幹の一つにゲームがある。
だからその全てが無いこの世界で、懐かしさに思わずテンションが上がり、こうして恥ずかしい行動に出てしまうのは御愛嬌。
異世界に放り出され別の新しい人生を押し付けられても、こんな下地があればそれを受け入れられないのは当たり前だ。
神から加護を受けさせられそうになったあの時、俺が動けたのは奇跡だったのか、何なのか。
それが神の思惑でない事だけは確かだ。俺の心の奥にある怒りがそう叫んでいる。
夢中になって振り続け時間すら忘れる。剣の重さ、それを振る際の身体の動き、重心移動や体幹、全身の細部に至るまで集中して動作を確認しながら降り続ける。
今のその自分の異常性にふと気づく。前世の俺では絶対にここまで集中力は続かなかった、と。
その事で前世の俺とは精神まで根本的に変質しているのだろうか?と、頭が冷えた。
そこでようやっと汗がポタリと地面に落ちた微かな音で意識が戻ってきた。
「時間は・・・どれくらい経った・・・?」
それに答えをくれたのはいつの間にか起きていたセレナだった。
「見張りを交代いたします。」
そう言ったセレナは、全身が汗でびしょ濡れになっていた俺に、水を張った桶にタオル、着替えも準備してくれていた。




