94 人助け
日差しが真上に近づいてきた頃。またも問題に出くわした。
道を外れて森の方に突っ込んでいる馬車が道を塞いでいた。どうやら窪みに車輪を取られて動かない様子だった。
それを困り果てた様子で座って眺めている青年。
(何故こうもエンカウント?順調にはいかないな。見過ごすのも心残りになるし、声をかけて手伝える事があるかくらいは聞いてみるか)
それで何もできなければ立ち去ればいいと決めて、怪しまれないようフードを外して青年に声をかける。
「どうされましたか?」
見れば騎獣に馬車を引かせていたようだ。そのグルードスは意思でもあるのか青年に心配そうに視線を向けている。
「あ、いや、車輪軸が少々いかれましてこの様に・・・」
屈んでよく見ると素人の俺が見てもズレが分かる位なガタが出ていた。
「お願いがあります。手伝っていただけませんか?どうかこのとうり。」
深々と頭を下げられ、その言葉からは深刻さが滲んでいてちょっと引いたが、こちらも初めから手伝える事があればと声をかけたので優しく言葉を返して落ち着かせようとした。
「かまいませんよ。旅は道連れ世は情けって言いますからね。」
「本当ですか!?そのような言は寡聞にして存じ上げませんが、今の私の現状に非常に染みる言葉です!ありがとうございます!」
「で、直せますか?」
「これぐらいなら何とか・・・完全に壊れませんでしたから手持ちの道具で応急処置は可能です。帝国まで持つ程度には修理できます。・・・あぁ、私は運が良かった。ご協力感謝します。」
そう言って安堵の表情を見せた青年は早速道具を馬車の中から取り出している。予備パーツらしきものも。
そこでこの青年が、野盗が俺たちを足止めしてから襲う為の囮の可能性を考えてハッとしたが、そんな事は無いようだった。
そうこうして先ずは全員で積み荷を外に運び出して少しでも軽くし、馬車を平らな道に引っ張り出し安定した場所に止める。
暫くの間は修理のために馬車の下に隙間を作って欲しいと言われて俺とエルフ六人で持ち上げた。
その後そこに潜り込んだ青年が修理し始める音がトントンテンテン、ガンガンガンと鳴り、ものの五分と経たずにそれが聞こえなくなった。
どうやら終わったようでフウと一息ついた青年が大きな声で礼を述べてきた。
「ありがとう!ありがとうございました!一人ではとてもできませんでした。」
そうやって勢いのある握手をしてきた。しかもエルフたちにも全員丁寧に。かなりの感謝を込めているのかちょっとうざいぐらいに掴んだ手をブンブン振られる。ちなみにエルフたちはフードをずっと目深にかぶったままなのでその正体は知られている様子は無い。
それが終わると今度は神妙な顔になって話始める。
「私としましては今すぐに助けて頂いた謝礼をお渡ししたい所なんですが、なに分手持ちに充分な持ち合わせが無いのです。」
「あー、別にそんなの要らないですから。なのでお気になさらず。」
同じようなやり取りをアリルを助けた時にもしたな、と思い出す。
「いえ!助けて頂いたからには!向かう先は帝国とお見受けしました。ならばこのまま皆さんを馬車でお送りいたしましょう。そのまま私の家にておもてなしを。」
「こちらはこちらで都合もありますので。ありがたい申し出ですが。それに最初に私は言いましたから。世は情け、と。礼を求めて手助けした訳ではありませんので。気になさらずに。」
一旦出した積み荷を馬車に再び積みながらそう答えて断ったが、それでもと迫られるので追加で付け加える。
「そちらは旅の日程の遅れもあるでしょう。先を急がれているのではないですか?」
俺はグルードスの力強い走りは昨日見ている。この馬車はその騎獣が引いている。かなりのスピードが出るんじゃなかろうかと。
これは予想だが、そこでこの青年は「急いでいる」可能性を考えて聞いたのだが、当たっているようだった。
急ぐと言う言葉に青年は一瞬だけ硬直し、悔しそうに目をつぶって口を真一文字に引き結び、天を仰ぎ見ると苦い物でも飲み込んだような顔をして感謝の言葉をまた口にする。
「本当に!本当に!何から何まで!申し遅れました。私の名はタグデスと申します。帝国にお着きになられましたら是非に私の所を訪ねて来てください!お礼は何でも、とは言えない事は心苦しいですが、お困りの事があれば私にできる範囲でいつでもお力をお貸しいたします!」
かなり熱をもってそう言われ俺はタジタジになりながら返事をする。
「その時がきたら遠慮なく、そうですね、お茶でもごちそうになりに訪ねさせていただきましょう。では別れもこの辺で。」
「お心づかい、感謝いたします!では。」
そう別れを告げて馬車を走り出させるタグデス。グルードスに轢かれる馬車は見る間に速度を上げて地平に消えて行った。
見送った後、横からセレナに尋ねられた。
「よろしかったので?」
それは何に対してなのかは分からなかったが、一応答える。
「俺が困っていたら、同じように助けて欲しいと気持ちが湧くだろう。ならばとそこへ手を差し伸べる事は、それが人の情ってものだろう。」
それを聞いた途端に彼女たち六人全員が感極まったように口元を手で押さえ始めた。
どうやら感動のあまりにそうしたようだが、それにが俺には何故そこまで?と疑問しか浮かばない。
「主様の器の広大さ、お優しい心、我ら感服の極みに御座います。」
(おい行き過ぎだろ・・・何だよこのイベント・・・)
好感度が上がるのは遠慮したい。そんなものは求めてはいない。
(絡まれるのにウンザリしてたのに、今回は人助けでこちらから絡みにいったんだな・・・変なイベント発生はしょうがない・・・のか?)
その「変」がどうして起きているのかは謎なので、次回それを回避するための教訓にはできそうもないが。
(それにしてもタグデスを助けたこのパターン、後々フラグ回収みたいな感じで厄介事に巻き込まれるんじゃないか・・・?)
まだ村を出て四日目。平穏だった村での生活を早くも懐かしいと思ってしまっている事に、顔がどんどん苦い物になっていっている事を自覚した。




