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92  役割

 彼女たちは狩りを主に担当するチームなのだそうだ。

 その他には食料処、機織り処、採取処、農業処、統轄処、等々分かれていると言う。


「統轄って具体的に何してるの?」


「それぞれの処の班員や食料、その他に日程など、それら様々なこまごまとした生活に係わる全ての管理ですね。」


「なるほど。じゃあさ、俺がもし担当するならドコになる?これでも狩りは得意なんだ。やっぱり狩猟処?」


「いえ、主様のお力なら戦士処ですね。」


「お?新しい処が出てきたね。そこ詳しく。やっぱり戦士と言うからには戦闘中心の仕事?」


「はい。そうですね。言ってしまえば、危機が迫った時に真っ先に命を掛ける者たちです。」


「それって毎日はどんな風にすごして、例えば具体的に、どんな時に駆り出されるの?」


「基本は毎日朝から日々鍛錬ですね。剣、弓、槍、盾、それに体術。罠や縄なども戦う術と言えるものは大概修練します。」


「え?それ全部やるの?そこまで必要?」


「部族全体の命をいざとなったら担う事になります。当たり前なのです、これが。その相手となるのが大抵は魔獣ですから。どんな手段を使ってでも被害を最小限に抑えるのが勤めですから。」


「あー、そりゃそうか。できる事が多ければ選択肢も増える。その分守れる者も増やせる、か。」


「はい。そのかわりと言っては何ですが、訓練以外の事は免除されています、特殊な例を除いて。以前魔獣が出没して討伐に出た際、二十人の死者が出た事がありました。これだけの戦う術があっても大袈裟とは言えません。」


(そういや村を出る前にドスファ◯ゴをワンパンで仕留めたっけ。あっさりやっちゃって危機感とか何も無いんだよなぁ。そんなに犠牲が出るほど危ないんだな魔獣って。軽く見ちゃってたな。話を聞けて良かった)


 ここで自分の力の異常さと、世界の「常識」への捉え方のズレを一つ修正できたのは僥倖だ。

 この先ももっと多くの修正しなければならない案件は出てくるだろう。

 村、しかもごく小さい「家族」と言うコミュニティでしか生活してこれなかった俺は、知らない事があり過ぎる。


「でもその魔獣も出現頻度は多くないんでしょ?サボったりする奴は出てきたりしないの?」


「サボる者はおりませんね。ですが少し気が緩んでしまう者は出てきます。」


「あ、そう言えば捕まった時もそんな感じだった?」


 彼女たちが捕まった時の話を引き合いに出したら、ちょっと引く位に強く拳を握り、呻くように悔しい、と言わんばかりに思いを口にし始めた。


「・・・くっ!不覚にも我ら全員が捕まってしまうとは露にも思わず、一人でも逃れていれば全て返り討ちにできていたものを・・・」


 少し意地の悪い事を聞いてしまったので、誤魔化すために話しの方向をずらしてみる。


「捕まっていたのはどの位だったの?あ、嫌な事を思い出させちゃうなら無理に聞かない。」


「一年・・・でしょうか。あの時に助けて頂いた事はこの先、一生忘れません。」


(それは忘れよう一刻も早く・・・んでもう従者なんぞはしなくていいんやで・・・)


「もっと早く助けられたら良かった・・・とは言えないな。こればかりは巡りあわせってもんだし。故郷では突然行方不明で慌てただろうね。」


「我々の捜索をすれば人族の痕跡も見つかったはずです。それさえ分かれば動揺も抑えられるでしょう。あくまでも小さい狩猟班の一つです。生活の方に大きな影響は出ません。」


「でも家族とか友人とかいるでしょ皆にも。」


「エルフ全員が家族です。垣根はありません。我らが帰らずとも、皆が皆を、全員が全員を守り助け合っていかねばなりません。」


「そのために大規模な捜索はされなかった?」


「はい、そうでしょう。我々もその点は覚悟はしておりました。ですがそこへ主様がこの度我らがエルフの国へ向かうとおしゃられた事がとても嬉しくあります。」


「あー、うん。そうだね。故郷の皆を安心させてあげられるね。」


(忠誠の事を有耶無耶にするために、エルフたちが故郷に帰る事で何とか誤魔化せないかな?と思っているなんて言えない・・・)


 パチッと響く音を焚き火がさせた所で話を切り上げる。


「さあ、もう休もうか。」


 そう言って俺は粗目の布切れを取り出し、指に巻いて口の中に突っ込む。そしてそれでコシコシと歯を磨く。

 セレナにその姿を不思議そうに見られていたが、俺は気にせず続ける。


 単刀直入に言ってしまおう。この世界には「虫歯」が無い。

 この世界の人間は歯磨きをしない。そしてその中で俺だけが歯磨きをする。


 村に居た頃のまだ小さい時。ある日の食事後、母に聞いた。歯磨きはどうすればいいのか、と。そのような道具を一切見かける事が無かったので尋ねたのだ。

 そしたら逆に質問が返ってきた。「何故そのような事をしなければならないのか?」と。これは直感でマズイと思い、慌ててその場は誤魔化した。

 それ以降に父にも聞いたが同じな反応だった。そればかりか村の住民たちは歯磨きをしてないのか、それとなく両親に少し聞いたが、そんな事は一切していない事が判明してその時は非常に困惑した。

 だがこの世界には虫歯の原因菌は存在する。それは生え変わりで抜けた俺の歯に黒い穴があった事で確信している。

 だが虫歯が「無い」のだ。俺にはあって、それ以外には無い。何の違いがあるか考えを巡らせたら「加護」だった。

 この世界で神の加護を受けている人間は絶対に虫歯にならない。これこそまさしくチートだろう。

 俺だけが加護が無いばかりにその恩恵が無い。なので歯磨きをしなくちゃ俺は虫歯になってしまうのだ。


 たぶんこの先もこれと同じように何かと「違い」が次々と浮き彫りになっていくだろう。未来に思いを馳せると、思考がボンヤリしてくる。


 そうして歯を磨き終わり布切れを水で丹念に洗う。口をゆすいでうがいを一つ。

 それが終わって声をかけた。


「見張りはどうしようか。二人立つ?一人で立つ?交代は・・・」


「既に事前に決めてあります。ご安心を。」


 大型のテントは四人が余裕を持って寝る事が出来るデカさだ。

 見張りに一人立ち、交代員は火の側に寝袋で仮眠を取るみたいで、二つのテントの一つを俺が独占になっていた。


(安心はできない。何故なら、共寝を、なんて寝込みを襲われるかもしれない可能性が無い訳じゃないから)


 油断せず、警戒心を解かずにテントで横になり、しばらく目をつむっていたら、知らずの内に疲れていたのか、すぐに眠りについていた。

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