890 お風呂で、もう何度目かのボヤキ
あらやだわ、と言った感じで手を口元に添えてリティアを見るセルラム。
リティアはその視線に耐えてはいるが、どうやら限界が近い。プルプルと微かに震え出した。
「んじゃ今日はもうこれくらいで話は良いだろう。続きは明日で。部屋に戻るよ。で、討伐に出た時の前の部屋にそのまま行って良いのか良いのか?」
「ええ、私の方で直接指示は出しておくわ。ありがとうサイトー。貴方が居なかったらこの都市はどうなっていたか分からなかったわ。おやすみなさい。また明日ね。」
俺は部屋を出る。それに続いてバハムも続く。で、リティアも重い腰をソファから上げてトボトボとその後ろに付いてくる。
こうして部屋へと入り、今夜はこれ以上難しい事を考えないで「なるようにしかならんな・・・」と言う思いでベッドに飛び込んんで目を瞑った。
翌朝はかなり遅めに目が覚めた。どうやら村でのふて寝が睡眠タイミングをずらしてしまったようだ。
「まあちょっと遅めの朝食にしますかね。お金は・・・腐るほどある、と言っちゃうと俺の心の方も同じく腐っちゃいそうだからやめとこう。」
もう既に金銭感覚は崩壊気味だ。こんな高級宿に何度も泊まっている時点でヤバい。
そんな気持ちを払うつもりで朝風呂をしてさっぱりしようとしてしまう。
「駄目だな・・・贅沢だそんな事は。でも止めない。」
どうしてもここ最近はストレスが溜まる速度が速いように感じる。
ここで自制して朝風呂を止めてたり、もしくはそう言った思考に行かずにいたら、まだ余裕があるなと思えたのだが。
どうやらそう言った部分はもう少なくなっているようだ。自分の鬱憤の溜まり具合が感覚で分かるようになってきてしまった。
そんな事を考えつつも風呂に浸かる。ちょっと熱めな湯に遠慮なく身体を沈める。
「あ‶~・・・きもぢいいぃぃぃぃ~。だめだぁ、俺はこのままではダメ人間にまっしぐらだあぁ~。」
金を使いきらないぐらいに持っていて、それに溺れてしまいそうになっている。
俺は今おそらくだが、仕事をしないでも、きっとこのままぐうたら生活が送れるくらいの金持ちだ。
それはきっと誰もが憧れる夢の様な生活なのだろうが、俺はその誘惑に負ける事を良しとしない。
「よし!もう出るか!俺はこの世界でイレギュラーな訳だから、あんまり世界を揺るがすような事をしちゃ駄目!・・・でも、もうそれも手遅れだろうけども・・・」
今まで俺が「後悔をしょい込みたくない」と言う理由でド派手に目立つ事ばかりになっているのは、こんな「力」を下手に持っているからだ。
自分の「モノサシ」なんて言う基準が有って、それに沿って生きているからこうなっている。
正義感が強かったら、きっと世界の中心になるような立場に今頃はなっているだろう。
それこそ熱血主人公の「オレツエエ」の王道物語だ。
陰キャな奴なら「俺には関係無いね」と言いつつも陰で隠れて自分の都合のよろしい方向へと物事を誘導しようとこの「力」を使って悠々自適な生活を目指そうとしたのではないだろうか?
で、俺はと言えば隠棲がしたい等と言って、絶対にこんな力を持っていたら「無理だから」と言う目標を立てていた。
そして事あるごとに「絶対に目立つからソレ!」と言うイベントにもみくちゃにされても、隠棲したいという気持ちを諦めない。
そしてかかわった人たちの問題事も無視もできずに半ば無理矢理この「力」で解決している。
「諦めたらそこで試合終了ですよと、などと言う言葉は有名だけどさ。物理的に無理な状況でソレを口にするのは理解力の無い諦め「だけ」悪い馬鹿だよな。」
精神論はここでは役に立たない。諦めないと言った「姿勢」だけを持ち続けても「実」は無い。
「俺は「良い土地」が見つかるまでの旅を楽しもう、とは思ったが。だからと言ってこんな事に巻き込まれたり首を突っ込まなきゃいけなくなった状況は楽しめないなぁ。」
そう最後にぼやいてから俺は風呂を上がるのだった。




