880 無難な人生を送りたいのに
別に見て回っても大したものは視界に入らない。一般的な村と言って差し支えない様に思う。
しかしここは聖国に狙われた可能性を考えるとどうしてだろうと思えた。
「もしかして、実験?戦力としてあの魔獣の威力を見るための?実戦形式でどれだけの威力になるかの?・・・ソレだけじゃないか。」
そう、きっとソレだけでは無い。ここの地点に多分政治的な何かが有るんだろう。
国境付近で戦闘?理由付け?聖戦だとかぬかす言い訳を作る?考えれば考える程に腹の黒い奴らの胸糞悪さにムカついていく。
勝手な妄想ではあるが、そうでなくともあの魔獣五体がもし暴れたらと思ったら、それがもたらしたであろう被害の大きさにイラついてしまう。
「こういう奴らは何の関係の無い人たちをゴミクズの様にしか見ない。自分勝手で、見たいモノしか見ず、自ら以外の者を平気で踏みにじるんだよなぁ。どうするべぇかな?一旦セルラムの所に戻っていいモノか?」
魔獣の数が五体以上居た場合、他の地域でもこれと同じ事が起きる可能性がある。
いや、こういう馬鹿は同じ事を起こす。起こそうとする。失敗、そんなはずはあり得ない、と。
痛い目を見ても懲りないのだ。でも、それを考えると今回のその前、一体しか確認されなかったあの魔獣マンティコアはどう言う経緯であんな場所をうろついていたのだろうか?
「まさか、一体だけ作戦の前に逃げ出したとか?ソレが原因であいつら三体ずつじゃ無く、二体、三体に分かれてた?あー、それっぽいな?」
魔獣が作戦前に何らかのトラブルで暴走。作戦は一時中止。安全を期して調整に時間をかけて、作戦再開。
この流れが一番しっくりきた。でも腹が立つ。どう考えても逃げ出した魔獣の処理に戦力を出していない。
聖国の、その教皇とやらは魔獣を管理しないで放置して、きっと動きを観察するつもりだったのではないだろうか?
自然に放たれた人工魔獣はどういった生態になるのかの。そう推測すると増々ムカつく。
そこで出る被害をさも「しょうがない」と、勝手な事を考えていたのでは無いのか?と。
神事だの、教会だのと、その一番上に立つ者が悪人。教皇と言う立場にいる人物が外道。
今の時点で奴らは俺の「モノサシ」を軽く飛び越えている。
これが俺の妄想だとしても、そうやって妄想、推測させるだけの事を奴らは仕出かしている。
「放置は無い。潰す。でも、何処まで?教皇一人消えて、それで治まるのか?全てがそいつ一人をぶっ飛ばすだけで片付くのか?もしかして神事教会を全部真っ平にしなきゃいけないなんて事は・・・ないよな?」
自分がもうここまで関わってしまった。ならば、聖国に俺が脚を運ばない、なんて事は絶対に無い。
このまま俺が聖国、その神事教会、教皇を放置したならば、そのせいで後々にまた「後悔する」事が起きるかもしれないのだ。
もしあの時に俺が奴らを潰していれば、なんて事を背負う事にでもなったりしたら、俺はその後の人生を楽しめない。
いや、そもそも楽しむ、とはいかずとも、無難に人生を送るために心暗くなるような思いを抱えたくない。
「加護なんて代物を拒否した事に俺は後悔なんてしていない。けど、何でその事で後々こんな面倒な事に「犬も歩けば棒に当たる」的な事にしょっちゅう遭わなければいけないのか?」
散歩どころの気分じゃ無くなった俺は元来た道をトボトボ戻る。
今後の俺の行動はとにかくセルラムの所に戻ってからもう一度考えようと思って、残りの今日の時間はふて寝でもしようと家の中に入って深く椅子に腰かけた。




