877 合流しよう、報告しよう
バハムが先頭を行く。昨夜にこの森に入る前の上空で周囲の地形を覚えていてくれたらしい。
街道に出る一番近い方向へと行ってくれているみたいだった。
だが、その街道が本来計画でここまでに来るのに使われる道だったのかと言われると、分からない。
出来ればベルーメと合流できたらいいな?なんて都合のいい事を考えていたりしたが、まあそれは叶わなかったのだが。
「着いたぞ。で、確か向こうの方角に行けば中継地点かどうかは知らんが村があったはずだ。このまま行くか?」
バハムにそう聞かれたので俺はそれに乗っかる。
「行こうか。ここで待っていても迎えが来るかどうかも分からないしな。取り合えずその村に向かえばいいだろう。」
この世界に携帯電話の様な便利なものは存在しない。いや、魔法が有るくらいだから存在するかもしれないが、俺たちはソレをあいにくと持っていない。
なのでこのまま男二人を担いで村へとこの街道を走るしかない。
「どうしようか?本気で走るか?どうだバハム?そっちの一人は俺が担ごうか?」
「大丈夫だ。このまま行こう。このまま早い所戻って私は観光がしたい。」
この申し出にちょっと呆れてしまうが、まあいいかと思って担がれた二人の男への配慮も無しに街道をぶっちぎりで爆走する。
ソレにバハムも荷物を抱えているとは言え付いてくるのだから、その肩に担がれている男たちは驚愕でうめき声を上げ続ける事しかできない。
そう、この世界の人には想像もできない程の速度。その速さで、しかも普通に走っているのだから信じる事ができないだろう。
だけど実際にそのスピードを体験してしまっているのだから、縄で縛られて猿轡をされている男たちからしたらとんでもないのだ。
心と体が乖離する。信じたく無いのにソレを経験してしまっているのだから。
あり得ないと精神が拒絶しても、体感している身体はそのスピードに恐怖を訴える。
その内にぐったりとし始めた所でどうやら村の入り口が見えて来た。
ソレに合わせて少しづつ速度を落としていく。この街道は人気が無かったので誰にも見られる事無くここまで来れたのは良い事だ。早朝だったからと言った面もあるだろうが、おそらくこの街道を使う者はそこまで多くないのだろうと予測もつく。
(あの森の側を通る街道だしな。いつ森側から魔物や魔獣が現れるか分からないし危険性がね)
そうして俺たちは無事に村へと到着した。
で、そこにはベルーメ達がスタンバっていた。どうやらこのルートが正解だったようである。きっとここを中継として使う事になっていたのだろう最初から。
そこで近づいてくる俺たちに気付いてベルーメは目を見開く。そして言葉を発しない。
どうやらこの様子だとバハムの事を誰にも言わないでくれていたようである。その予測は周囲にいるスタッフのリアクションが薄いからという推論からなのだが。
そしてベルーメの側にいる今回の件での協力してくれる予定であっただろうスタッフが五名。俺たちを見て固まったベルーメに何やら「指示をくれないか?」と小声で聞いている。
「よう!ベルーメ。報告、要るか?」
俺がそう聞いてみる。まだ固まったままのベルーメへの俺なりのフォローだ。
コレにようやく動き出したベルーメが指示を出す。
「解散だ。みんな、仕事は終わりだ。各自「いつも」に戻ってくれ。で、その担いでいる奴らは・・・なんだ。」
ベルーメはバハムへと畏れの目を向けつつもそう俺に質問してくる。終わりと言われたスタッフたちは「え?本気で?」と言った顔を変えずに、しかし指示に従って散らばっていく。
そしてベルーメはソレを見送ると親指を立て「こっちへ来い」と俺たちに指示を出して一軒の家へと連れて行くのだった。




