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858  不条理を呑む

「おお?どうやら大分早く到着となったようだな。外壁が見えて来た。もうそろそろ速度を落として構わんだろう。」


 バハムがそう言ったので俺はグルードスに落ち着いて走るように指示を出す。

 確かに周囲には他の旅人が多く見かけられるようになってきていた。

 ここまでグルードスの体力が持ったのはドラゴン肉の効果だろう。

 正面から来るすれ違う馬車と接触しない様に慎重に走らせる事、十五分。


 俺にも外壁と門、それに並ぶ長蛇の列が見えて来た。その列の一番後方に馬車を止めて俺は御者台から降りる。

 ここまで来れば後は時間の問題だ。俺たちの順番まで待てばいい。

 そうして俺は馬車のドアを開けてリティアの具合を見るついでに聞いておかねばならない事を質問しておく。


「リティア、身分を証明する物は持っているか?それが無ければ俺が仮発行の分の金は出す。」


 彼女の世話係がここにはいない。本来ならその世話係がきっとリティアの証明証を持っていたはずだろう。

 だけど暗殺を計画されていた存在の身分証を揃えるだけ無駄だと考えられていたのか、どうやら持ち合わせていない様子。

 それもそうだろう。彼女の世話係はそもそも最初から用意されておらず、ましてやこの闘技場都市に頼れる同郷もいないとなれば。


「申し訳ありません。代金は後々お返ししますので・・・」


「あ、いや、いい。返さなくて。」


「いえ、そんな訳には・・・」


「返さなくていい、俺がリティアに力を貸す条件に「返さなくていい」を入れさせてもらう。いいか、余計な事は考えなくていい。それが駄目だと言うなら俺はこの場を去る。」


 この俺の要求する不条理をリティアはどうやらグッと我慢して呑み込もうとしている。

 返す、という行為はそもそも関係が維持されてしまうと言う事だ。俺はこの件も片付いたらリティアとはオサラバ、サラバする気でいる。

 何時までも彼女と行動を共にする気は無い。なのでこうして金如きで「返す、返さなくていい」を押し問答するつもりは一切無い。

 お金の方は心配いらない位に有ったりする。だから返済などと言う事に関して俺は一切気にしたりしない。

 普通はこういう時には「返せるときに返せばいい」と言って「受け取ってもいいよ」的な言葉を言うモノなのであろう。

 だが、それによっていつまでも関係性が続くと、またそこから厄介事が付いて回ってくる可能性が否定できない。

 だから俺は彼女を知り合いに預ける事ができたらすぐにここを離れるつもりだ。


「ワ、分かりました。いえ、分かりませんが、分かりました。よ、宜しくお願いします・・・」


 どうやら無理矢理納得した様子。そうやって俺たちが話している間にバハムはどうやら屋根の上で昼寝をし始めたらしくスヤスヤとした寝息が聞こえてくる様になった。

 コレにどうやらリティアは緊張感を和らげたようだ。どうにも自分が狙われている恐怖をずっと押し留めていたようである。

 だがバハムが何の警戒もせずにこうして寝息を立てるまでにリラックスしているのが分かって、どうやら馬鹿馬鹿しくなったようだ。


「私は命を狙われていたんですよね。でも、バハムさんを見ていると何だかどうでもいい事のように思えます。フフッ。お綺麗ですよね、あの長い銀髪。風になびくとキラキラと輝いて。」


 リティアはそんな昼寝するバハムを見て感想を述べている。

 バハムは確かに美しい。だがそれと同じくらいにリティアも美人なのだが、その自覚は彼女に有るのだろうか?


(両手に華?いいえ、片方は華どころか竜です。しかも気まぐれでいて、それで何考えているか分かりません)


 もう片方は聖女の肩書を持つ聖国の重要人物。扱いづらい事この上無いくらいだろう。

 この先に待っている都市に入るための審査待ちで何も起こらない事を願いながら、俺は二頭のグルードスを撫でて待つのだった。

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