827 分け与える
「与えても構わんだろうが、サイトウとやら。お前は地竜を倒したのか?私がかなり本気を出しても触れる事すらできなかったからな。確かにソレだけの力を持つと言うのは信じられるが。地竜の大きさに対して人とは小さすぎる。どのように倒したのだ?」
バハムは違いはあれども同類であるはずの地竜を倒した俺に別に悪い印象を持たないようだ。
寧ろ俺の事を流石だと褒めてくる。でも大きさの問題だけはどうしても目に付く事実なのでそこだけちゃんと聞きたいらしい。
「刃物で首を斬り落としたんだけど?」
「むむ?奴の表皮は食った鉱物を皮膚から液状にして分泌して固めて守りとする。かなり特殊で普通の刃物など通らんぞ?それこそ高い切れ味を持つ剣であろうと傷一つ付かないと思うのだが。それに奴の皮膚は固く、剣など弾くはずだ。どれだけの大業物であろうと無理だろう?」
本当なんだがな、と俺は呟いてそれ以上は何も言わずにひよこを見る。
「どうする?地竜の肉食べてみるか?お前からすると同類の肉を食う事になると思われるけど、忌避感は無いか?」
コレにひよこはピヨピヨといつものように鳴く。その内容は「魔力一杯ある?」だった。
どうやらひよこは別に気にしない様子。じゃあと思って出そうとしたが思い止まった。
「なあバハム。今こいつが一皮むけた場合、どれくらいの大きさになる?」
そう、ひよこは竜の雛。このままもし長老の家の中で食べさせていきなり成長した場合。
どれだけ大きくなるのか分からない。そしてもし、この部屋の大きさ以内に収まったとしても、部屋から出られなくなるだろう。
ひよこの大きさは今でもこの家のドアをくぐるのにギリギリである。なので思い止まったのだ。
ソレは賢明な判断だったようだ。
「ふむ、私と同じになるとしてもおそらくはこの家の屋根まで届くだろう。ここで出さなくて正解だな。」
と言う訳で俺たちは広場に来た。気絶した長老とガルードはおいてきた。
「じゃあ、焼く?煮る?生?どれにする?え?そのままでいいって?ならちょっと待てよ。お前の成長にどれくらい必要か分からないからな。ちょっとずついくぞ?」
魔法カバンから久しぶりにドラゴンの肉を取り出す。
「なるほど、コレは確かに本物だな。奴は魔力を全身に行き渡らせて溜めておく性質だ。かなりこいつは貯めこんでいたのだろう。しかし、この子は運がいい。こうして大量の魔力を保有している肉を与えてくれる者が現れたのだからな。」
バハムも食べるかと聞いてみる。すると。
「む?私にも?では有難くいただくとしよう。ぬ?焼いて食べるか、それとも煮てか?だと?生でいいのだが?うん?ソレは勘弁してくれ?何故だ?」
俺はバハムにせめて焼いたものを食べて欲しいとお願いする。
そもそも生肉を目の前で美女が貪り食う所など誰が見たいと言うのか?そんなものはただの衝撃映像である。あまり見ていたくはない類の。
俺はそんな性癖を持ち合わせてはいない。俺の心の平安のためにバハムにはステーキにして食べさせる。
「ふむ!美味い!魔力を得る事に集中し続ける日々だったからな!コレは衝撃だ。我らには味覚が在ると言う事実!うむ!美味い!」
どうやら成竜になってからは「食」という行為をしていなかったようだ。必要無かったのだろう。魔力を吸収するのに食べると言う行為が必要無かったのだから。
と、一方でひよこの方は生で提供する。先ず三センチ厚を一枚。
「ピヨピヨピヨ!ぴよ~ぴよ~ぴよ!」
大層喜んでいる。魔力が後ちょっとで満タンになりそうだと飛び跳ねている。
なのでここで一気にひよこには成竜になって貰うためにもう一枚食べさせる。
こんなに大盤振る舞いするのはもちろん俺の為である。
目の前でこのひよこがどんな竜になるのか見たかったから、という「子供か!」とツッコミを入れられても言い返せない理由だ。
ひよこは出された肉をヒョイパクと口に入れ、そのまま丸呑みした。
ゴクリ、それが胃の腑に入って三秒後、ひよこが突然まばゆい金色の光を全身から放ち始めた。




