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811  もういらない

「オイ、聞いたか?ミガルが負けたってよ。あいつを負かすってドンダケだよ。」

「ああそれな。あいつに勝てるのって言ったら同年代に居ねえし。ガルード兄貴くらいだったよな?」

「そいつが今回の主役だって言うんだから何なんだろうな?」

「人族らしいぞ?俺、魔族は一度チラリと見たことあるんだけどな。人族なんて知ってはいるけど、絶対に会う事なんて無いだろうって頭の中に無かったよ。」

「なあ?人族ってそこまで強いのか?言い伝わる教えの中には「弱者」って。どうなんだ?」

「そんなのどうでもよくね?実際に倒したのはそいつだって言うんだから長老が。そんな事よりも今後はもう心配しなくて良くなったんだ。酒飲もうぜ!」

「そうだな。もう怯えて生きなくて良くなったんだな。俺は昔よく親から言い伝えを聞かされて怖くて泣いてた口だから。」

「そうそう、本当の話だって言われてたからなずっと。俺は半分信じちゃいなかったけど。目の前にして嘘じゃ無かったって本気で震えあがっちまってたんだあの場で。」

「この先余計な心配も、俺たちを脅かす存在も無くなったんだ。もう言い伝えなんてこの際だからすっかり忘れちまってもいいだろ。今日は飲もうぜ!飲もう飲もう!」


 どうやら俺の事と吸血鬼の事が話の中心になっているようだ。

 そんな広場の話がこちらまで響いてくる。俺は陰に隠れて一人飲みをしていたのだが、隣には長老がいる。


「もう一つの言い伝えって?あ、鍵がどうのとか言う、アレ?」


「そうです。長になるものだけに伝わっている話ですコレは。一体何の鍵なのかは伝わっていませんが、どうやら非常に重要な物であると言う事だけは分かっています。そしてその鍵の場所も伝わっています。しかし、その鍵を得られるのは巫女だけである。そうも伝わっています。」


「で、確かめた事が有る、って感じだな?そこには何が待ち受けてんのかね?」


 一口酒を飲んで長老は続きを話してくる。コレはもうフラグ決定だ。俺がそこに向かうと言う。


「私も今の立場になる時にそこに案内された事が有ります。そこには「偉大なる獣」が住んでいて誰も通す事が有りません。すぐに侵入者を攻撃する訳でも無いのですが、必要以上に近づけば鋭い一撃を放たれます。肝を冷やしました。私はウッカリ近づき過ぎてしまいましてねその時。運良く地面が滑って転びかけその攻撃に当たらずに済みましたよ。」


 ひよこは広場の中心で獣人族の出す食事を堪能している。俺はツッコミたい。お前何もしてないやんけ、と。


(でも、俺をこうして案内してくれなかったらと思えば、貢献してると言えなくも無いのかな?)


「で、そのカギとやらは一体全体あんたらのなんなんだ?取ってきて欲しいって事か?」


 俺は長老がもったいぶって何を俺に求めているのか話さなかったのではっきりと言ってみる。

 しかしこれを否定されてしまった。


「取ってきて欲しい、とは私は思っていません。ただ、今まで謎だった、それを私は知りたいなと。そもそもこの鍵の存在は、昔に我々の元から居なくなった巫女の残した手掛かりだとして、こうして秘して長となる者だけに伝わってきたのです。もしかしたら巫女が帰ってくるかもしれないと言った風に。失って初めて気付くというヤツですな。愚かです。でも今の我らは安定した生活を築き上げ、平和な時を生きています。怨敵の件も片付きました。もうこれ以上無いでしょう。私たちがこの森で生きていく上で脅かすものが居なくなった。巫女はもう必要とされていない。もうかなり昔から。」


 シミジミと長老は語る。どうやら抱えている秘密をもう解放して肩の荷を楽にしたいと願っているようだ。今の獣人族に巫女は必要無いとも。

 この森に適応し、長い年月をここで生きて、既に巫女などは言い伝えの中の存在。この場に今更そんな存在が戻って来たとしても居場所は無いし、役目も無い。

 この際だから余計なものを全て絞り出して綺麗サッパリとした門出にしたいのかもしれない。

 鍵の件はもうこの長老の中では重要な事などでは無く、ただの要らないモノと化しているのだ。

 だから最後にその鍵とはいったい何なのか?ただそれだけ知っておきたいと、そういった事で俺へとこの件を持ち掛けてきているのだ。

 吸血鬼を倒した、と思われる俺ならもしかしたら。言い伝えにある巫女と通じる所の在る存在ならもしかしたら、と。


 俺がこの鍵とやらの話に乗ったとしても、乗らなかったとしても、長老はこの言い伝えを次に話し託す事は無いだろう。

 そんな事が長老の表情からなんとなく読み取れた。

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