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772  いえ違います

 俺はそのまま入り口で固まってしまっていた。心の中は「やっちまったな!」である。

 どこぞのお笑い芸人が浮かんだが、それはすぐにサシャの声で吹き飛んだ。

 進軍、ただその短い言葉を口にしてサシャが馬を進めて来たのだ。開いた門へと。

 その後ろから付き従うように軍も進む。決してサシャを追い抜いて突撃してくる様子は見受けられない。

 そう、まるで戦争に勝ったパレードの様な、軍事訓練で戻って来ただけの様な、その様相はこれから戦争だと言う空気を纏っていない。

 それはまるで正式な王の凱旋と表現したらいいだろうか?堂々とした態度で門をくぐった。


 そしてここから進むのは城へと続く真っ直ぐに一本繋がった大通りである。

 俺は現実逃避に忙しかったのでサシャが俺の隣まで来るその時まで街並みなんかを気にしちゃいなかった。

 しかしさすがにサシャを守るために同行しなくちゃと気持ちを切り替えて正面を改めて見据えれば幻視してしまった。


(ここは銀座?いえ違います、ファンタジーな魔族の国です)


 心の中で一人ボケツッコミをするくらいには混乱していて、そして落ち着いていた。

 この王都に来るまでにいくらかは覚悟をしていたし、他の都市に寄った事で街並みなんかには少々の免疫はできていた。

 だけれどもそれもちっぽけなモノであったと言う事を、実物を自分の目で確認して思い知る。

 これには本当にまるで「帰って来た」かの様に思ってしまったのだから。


 そんな大通りを、真正面を見据えてサシャのその表情はキリリと凛々しい。

 本当にこれからボンズルを討つのか?と問いたくなるくらいにその姿は高貴な雰囲気を醸し出していた。

 そこに恨み、憎しみなどと言った感情を感じさせていない。本当に涼し気な顔なのだ。


(でも、感情の方は心の中でぐつぐつと煮え滾っているんだろ?)


 ここまで来るのに付き合いの時間は短い期間ではあるが、サシャがそう言った感情を持っている事を俺は良く知っている。

 サシャは既にこの時にはボンズルを討ちとる事は確定事項としていて、その後の事を考えてこう言った城までの進軍をしているのだろう。

 この姿を見ればボンズルの事を王だなどと思う民はいないのじゃなかろうか?

 そもそもボンズルが国民にこんな短時間で「王」などと認められているのか?と言った疑問は置いておいてもだ。


 そんな中で重装備の鎧姿の兵士が槍を構えてサシャの行く手を阻んだ。それこそ数は百はいる。

 だが、サシャはそのまま進み続ける。その距離は既に十メートルにも接近しているのにもかかわらずだ。


(おい、もしかして止まらない気か?ってか、あっちの兵も問答無用でサシャを槍で殺す気なのかよ・・・マジでかぁ)


 重装備の敵兵は動かない。だけれども槍の間合いに入れば問答無用で槍を突きだすつもりではあるようだ。

 そして奴らはきっとこうして道を塞いで槍を構えて通せんぼをしていれば、サシャが立ち止まると思っていたのだろう。

 ソレが当たっているのか、敵兵は突撃してくる気配が無い。

 だから俺は思った。お前ら考えが甘い、と。

 サシャは当然俺の「力」を知っている。そして堂々と止まらずに、さも前を塞ぐ存在すら意識に入れる事も無い。

 そう、サシャは俺が立ち塞がる者をふっ飛ばしてくれると信じているからだ。


「確かに分かっちゃいるがな。俺が最後まで付き合うと言ったんだ。しゃーないか。しかしまあ直ぐにこんな場面になるとはねぇ。」


 俺はサシャに使えるモノは使い倒せと言ったばかりである。ならばその口にした自分の言葉の責任をここは取るしかない。

 ソレにこのまま本当にサシャが槍で突かれてハイ終了、なんてマネは絶対に無しだ。俺がソレをそもそもやらせるつもりはない。


 で、ちょっとここで少し面倒だが悪戯を思い付いた。目の前を塞ぐ敵兵はサシャばかり見てフードを被ってその横に侍る俺を見ていない。意識が完全にサシャへと固定されていた。


 敵兵との距離がゆっくりと、だが、確実に1m縮む。残り9m。


 そこで俺は加速に入った。

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