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770  逃げていいんだよ

 さあ、攻城戦である。この高い壁を越えて都市の中に入らなければならない。

 壁は何処までも横に広がり果てが分からない程だ。かなりの巨大都市である事がそれだけで察せられる。

 それもそうだろう。ここは魔族の国の中心部。王族が住み、直接支配する地だ。

 これがみすぼらしい小さな都市では格好がつかない。


 正面にはそれこそ権威を見せびらかす様な巨大な門がそびえている。この門を突破しなければ中に入る事すらできないのだ。


 壁をよじ登り、壁上兵を躱し、内側から門を開ける。

 もしくは門を直接物理的な攻撃でこじ開ける。破城槌などで。


 主にこの二つの方法をする事になるはずなのだが、何の用意もしていない。されていない。

 そもそも、その二つの方法は兵の被害が大きくなる。消耗が激しくなる。それを俺は最初から見過ごすつもりは無かったのだが。

 それにしても攻める、と言う気配が何処からも感じられない。それが不思議だ。

 とは言え最終的に門は俺が破るつもりでいたので、さて今のこの空気感はこれから何が始まるのかと言った疑問に置き換えられていった。

 それは間もなくして起きる。サシャが勧告したのだ。降伏しろと。


「これから逆賊を討ち果たす!お前たちはその邪魔をする気なのか?そうでないと言うのなら門を開けよ。もしこのまま門を閉じたままであれば容赦なく攻め入り、逆らうものは尽くその命を奪う事となろう。ネーメルガス・オ・サーシャスの名において命ずる。開門せよ!」


 しかしこれに何の反応もされない。守りを固めている壁上兵たちは全く動かない。こちらをジッと複雑な表情で見つめてくるばかりだった。


「開門をしないならばそれで良い!だが、聞け!お前たちの中で王家に逆らうつもりの無い者はすぐに持ち場を離れ逃げておけ。覚えておくがいい。逆らう覚悟のある者だけが私の道を塞ぐ資格がある事を!その際は自らの命を持ってしてかかってこい!死ぬつもりの無い半端者は今すぐに兵士としての責務を放棄せよ。この勧告は慈悲である。私が断罪せねばならない者はボンズルだ!只々時勢に流されただけの者はこの場より早々に立ち去るがいい!」


 美しい、それでいて良く通るサシャの声が城壁まで届く。

 相変わらず門は開かない。しかしどうやら内部でザワザワと兵士たちに何か動きが起こったようだ。

 それを確認した後、サシャが俺の方へと顔を向けて来た。どうやら出番だと言いたいらしい。


「サイトー、頼んだ。お前なら、どんな方法でかは想像もつかないが、突破できるのだろう?昨日、兵士たちには死者が一人も出なかった。あれはサイトーが狙ってやったのだろ?お前の優しさに甘えるようなマネになってしまうが、それでもお前の力に縋りたい。情けない王族だと笑ってくれていい。だけれど、私は、昨日死者が出なかった事でどうやら希望を持ってしまったようなんだ。おかしいだろう?誰も死なせたくないんだ、無関係な者達を、誰一人として。戦などと言ってしまえば死人が出る事は当たり前なはずなのに、覚悟していたのに。でも、捨てきれなかった。私が憎いのはボンズルだ。日常を生き、平和に暮らしていた彼らじゃない。」


 辛そうな顔でそう俺に告白するサシャに俺は気負うなよと言ってやる。


「使えるモノは使い倒す度量も持っておけよ。王族なんてモノは背負いたくないモノだって背負わにゃイカン時もある。だけどさ、そうしなくていい時は無理しなくていいだろ?だったら頼まれてやるさ。それに俺だって後味が悪いのは勘弁だからな。死人が少なけりゃ少ないほど良い。余計な奴が誰一人死なない結果が最上級ってやつさ。」


 そう、ここで一番、その罪によって裁かれねばならないのはボンズル、それと、それに乗っかって悪事を企んだ者たち。


「さて、いっちょやってやりますかね。派手に行こうか!」

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