766 静かに内部爆発
しかしその口から出た言葉はタルコムの気持ちとは違うものだった。
「タルコム、お前は何故そこまで愚かなんじゃ。お前くらいの者なら状況を良く把握できていて当然だろうに。お前の中の怒りをワシは否定したりはせん。だからと言ってこの者の力を試すなどと、驕るのもたいがいにせいよ。」
これにゴーリルが続けて言葉を続ける。
「そうね、あなたほどの人物なら彼の力がどれ程なのかを状況証拠から飲み込んでいてもおかしくないのにね、いつもなら。ボンズルに対して貴方が抱える怒りは私たちも同じだわ。私も彼の力量を確かめようとして軽くあしらわれちゃったからあんまり言えないけどねぇ。ねえ?タルコム、貴方ほどの男が怒りで我を忘れるなんてらしくないわよ?少し落ち着きなさいな。貴方、もう既に分かっているんでしょ?」
どうやらタルコムは外面は冷静なように見えて、内部ではボンズルへの怒りが既に爆発していたようである。
戦況的に左右を挟まれて、正面は同数の敵兵が壁に、逃げる事は困難。そのままぶつかっても負けが決まっているような、そんな状況だった。俺がいなければ。
そう、俺と言う存在がいない状態でそのまま普通に戦っていれば絶体絶命の負け戦。それが何故か被害も死者も出さずに勝ってしまった。そもそも敵兵にも死者すら出さずに。僅かな時間で。
イレギュラー、有り得ない結末、それをタルコムは解っていたはずだ。そして本来ならこの場に居る事に違和感しか与えない人物がいる事実。そう、俺と言う存在。
そんな「あり得ない」が照らす真実。それは異質な存在、この場にいる「人族」がもたらした結果。
状況として導き出される答えはこれに帰結する。それを解っていながらも心が納得しない。だから見て見ぬふり、ボンズルへの対処へと話を持って行く。
仕方が無い事だ。俺はそれに同情する。そもそもタルコムはゴーリルの屋敷に居る時から俺をなるべく無視していた感があった。
それもそうだろう。人族に何ができる?戦争と言う大規模な事象にちっぽけな力しかない個人と言うものがどれだけの事を出来るのか?と。
サシャを助けた、サシャが助けを求めた、サシャが頼りにしている、そんな理由などあっても到底信じられる訳が無い。
だがそれでもこうしてまだ集まるはずだった戦力二名が来る前に出陣させたのはタルコムらしからぬ焦りから。そうボーネル爺さんは言う。
「お前は王に直接、目を掛けられていたからな。怒りも悔しさも無念も、何もかもワシらよりホンの少し大きかったんじゃろ。しかしな、タルコム、姫様を忘れるな。お前が仕えるべきお方は誰だ?もうここら辺で目を覚ませ。」
静かにそう説くボーネル爺さん。その声は優しい響きだった。
これにはずっと黙って立ち尽くすタルコム。そこへサシャが一言述べた。
「タルコム、お前の気持ちは凄く嬉しい。しかし、目の前だけを見ないでくれ。奴への憎悪でその心を、目を雲らせないでくれ。未来を、この国の民の事を、見据えてくれ。お前の手腕を私は頼りにしている。」
この一言でタルコムはその場で大きく息を一つ吸ってサシャに忠誠を誓って片膝を地に着くのだった。




