758 会議「戦争」
(戦争か・・・実際俺はそんなモノに参加した事が無いけれど、悲惨な結末になる事だけは分かる。人が大勢死ぬ。しかも何の関係の無い者まで)
死ぬのは大体が末端の兵士である。ボンズル勢力であろうが、サシャの勢力であろうが、ぶつかり合えば双方で死人が出る。
コレは避けようも無い事実だ。こういった末端の兵士に大義とか、事情とか、義憤などは無い。
ただ所属している勢力が違うだけ。彼らは生活のため、国のため、家族のために戦っていると言っていい。
そこにボンズルの思惑も、サシャの憤りも関係無い。只々自分の居る勢力の戦力である事を強いられる。
そこに正義も、正当性なども無い。ただ、戦う。自分が兵士としてそこに居るから。
ただ戦う、自分の為に、生き延びるために。
俺はボーネルの兵士たちが屋敷の庭から居なくなった時、震えた。それはこれから戦争が始まる事を感じたから。自身の肌身で。
そしてソレに今思いを馳せれば「死んで良い訳が無い」と言う思いに駆られた。
悪い奴は誰だ?悪いのは誰だ?そんな奴の為に死ななきゃいけない?殺し殺されなければならない?
戦争とは何だ?正義って何だ?そんなものは全く関係していない人々が悲しい思いをするだけだ。
これから始まるこの無益な争いは起こるべくして起こるのだろう。しかし、俺はそれを許容できなかった。
「負け戦になるでしょうね。でもやらねばならない。と、まあ、そうは言っても私の間者がいつでも奴を暗殺できるように準備はしていますが。」
タルコムは腹黒らしい。これにサシャは止めに入った。
「タルコム、暗殺は無しだ。それでは私が奴と同じと思われてしまう。確かに奴を討つのは絶対だ。それは真正面から打ち砕かねばならない。」
「しかも姫様が最前線で、ですか?はぁ、無理ですね不可能です。暗殺と言う手段を取るべきですよ。どんな手を使ってでも取り合えず奴は殺しておくべきです。あの野郎に味方している者共なんて後々でどうにでもできます。」
「俺が何とかするよ。だからサシャ、先頭に立てばいい。露払いは全部俺がやる。」
俺のこの発言にすかさず鋭い眼差しを向けてくるタルコム。
「そもそも、貴方は誰ですか?姫様の許しがあってこの場にいるようですがね。私は貴方を信用していません。今の発言を撤回するなら今の内ですよ?そんな馬鹿な話、私たちが許すはずが無いでしょう?」
「私は賛成よぉ?サイトーは私たちの遥か上を行くわ。あながち無理じゃないのよねぇ~。」
ゴーリルが俺の言へと賛成の意を表明する。
「あ、補助はお願いしますね。俺が見逃す事案が何かとあったり起こったりするかもしれないし。それに対処が遅れれば誰かに頼らないと無理かもだし。そこまで手が行き届かないかもしれないですから。」
俺はゴーリルにそう言ってサポートを頼んだ。これに「良いわよぉ」とウインクを返されて寒気が走ったのは言うまでもない。
「こんなどこぞの馬の骨とも分からん奴に任せてられるかぁ!姫様の身の安全はワシがこの命に代えても守りますわい!」
ボーネル爺さんは吠える、吠える。しかしその熱とは真逆でタルコムの言葉は冷たく響く。
「姫様は死ぬ気ですか?私は自殺願望を持つ方への協力をするつもりはありませんよ?」
「タルコム、私は死ぬ気は無い。むしろ彼に守られていて死ぬ所を想像ができないと言った方が正しいな。ふ、ふふふふ。おかしいモノだな。」
タルコムはサシャのこの言葉に呆れ顔で溜息を大きく吐いた。




