75 商売繁盛
商会から出てエルトスのアジトに足を向ける。
まだ明るいが暫らくしたら夕方に差し掛かってしまう、そんな時間だ。
大通りの喧噪もやや落ち着きを見せている。
「腹が減ってるな・・・昼飯食い損ねてた。」
それに気付いて腹をさすりつつ、エルトスに言っておいた事を思い出す。その内容は。
エルフには手を出すな。手厚く持て成せ。
ダモーの持つ一切を金に換えろ。その金でスラムや裏通り近辺を買収し、家屋を全て取り壊し、新居を作れ。建てる際の人員はスラムに住む人達を中心にして雇用を生む事。
出来た家には雇ったスラムの人たちに住まわせ、その契約の一部に組織の一員として雇う事も入れろ。
悪事は無し。人殺し、窃盗、強盗、脅迫、高利貸し、エトセトラ。あらゆる犯罪は御法度。
それを言い渡した時に「今までの根底から全否定!?」と反論されたのでアイデアは一つ出しておいた。
「人員が増えれば・・・そうだな。それを強みに情報ギルドなんて立ち上げればいいんじゃね?それを隠すのに手広く事業なんか隠れ蓑に作って運営して、とか。そこら辺は自由に任せる。がんばれ!」
丸投げ、悪い言い方だ。こういう場合は信任すると言わないと。
それと続けて、他の上役どもの丸め込みもやっとけと言っておいた。俺がそんなのを知る由もないからエルトス任せだ。
テキトウな言い訳は一つ与えておいた。
「強力な戦力を手に入れたとか、それで前から下克上を狙ってた、みたいな?俺がぶっ飛ばした50人の事をふんわりと説明に入れて。」
ソレでダメならもう全員集めて俺が実演して見せてもいいや、と付け加えておいた。
俺が大岩でも一発ぶん殴って、粉々にして見せれば納得してくれるだろうと考えている。「力」って言うのは本人に目の前で見せないと大概は信じてもらえなかったりするモノだ。
それと下克上の意味のそのままの言葉がこちらの世界に同じものがあるのを知ってビビった事は内緒だ。まだこちらの世界の言語には勉強しなければいけない単語がまだまだ沢山ありそうだ。
「狂ってる!」と揶揄されたが、俺だってこうなるなんて思っていなかったんだから仕方が無い。
先見の明?何それおいしいの?だ。誰がこんな結末を予想できるのか?そんな奴が居たら早く紹介してほしい。もう何もかも遅いけど。
毒を食らわば皿まで、俺が全部この時に飲み込まなかったら、後々、他の被害者が発生してしまうだろう。力の行使、その点で自覚は少しくらい持ち合わせている。
(俺の存在はこの世界じゃ規格外。ランドルフの体当たりを受け止めた結果は、俺の推測していた理屈では無理だった。何か別の原理か現象が俺の「力」の基にある)
安寧な人生が遠のいている事に落ち込んでしまった。全力で何もかもから逃げ出したい気持ちを抑える。
プッツンして起こした諸々は自分の責任だ。手前のケツは手前で拭く。
たとえ目の前の問題を、思い付きの行き当たりばったりで解決しようとしていたとしても、だ。
俺の命令を受けたエルトスの心情など知らない。
むしろ、今まで散々ろくな事をしてこなかった奴だ。この程度では罪滅ぼしなんて言うには、まだまだ軽すぎる位だろう。彼には逃げ出さない、放り出さない様に釘を刺しておかないといけない。
思考をそこで一段落させて今度はアリルに関しての事を思い出す。商会長に書かせた契約書は守られるだろうか?腐っても商人、そう留めて内容をザックリ思い返す。
彼女に店を買ってやる事、しかも一軒家。小さいモノで可。
信用のおける用心棒の斡旋。仕入れの待遇を良くしてあげる事。
それらを商会長個人で払え、あとそれらで諸々問題発生したら責任負え。
アリルの商売が軌道に乗るまでは後ろ盾になる事。
雑にまとめるとこんな所だ。これらを横で見ていたアリルは絶句していたが。
それはこの際、別れの餞別として受け取ってもらうのに、遠慮や口出しされなくて楽だった。
別れの挨拶もあっさりとしたものだったが、彼女なりに思う所はあったのだろう。
自らの状況と未来、利益、それと、このまま俺を引き留める事とを天秤にかけたんじゃないか?そう感じた。
終始ずっと難しい顔でいたので「商人」としてこの先を見据えて飲み込んだのかもしれない。そう納得する。
彼女には商いの才能がある。それは扱っていた品質を見ていたから分かった。その付値も。
あのまま俺が用心棒で側にいたらこの先も面倒事に巻き込み続けそうだと思ったので、去るタイミングに丁度良かった。
そうやってこの先のアリルの商売繁盛を願いながら歩いているとエルトスのアジト、屋敷に着いていた。




